心が見えない



金曜日の実習が終わった。


今日はいよいよ約束の鈴鹿の日



部屋にもどり


軽くシャワーを浴びて


準備をした。




テニスで一緒だったさとこには


今日の鈴鹿の話をした。


ジュニアに会う前から私に勧めていたさとこ


もちろん応援してくれた。




今日の鈴鹿への誘いは


予想もしていなかった展開だったため


期待と不安で何だか落ち着かなかった。



(ほとんど話したこともないのに


そんなに長い間一緒で


いったいどんな話をしたらいいんだろう??


つまんない奴と思われたらどうしよう( ̄_ ̄ i)




期待より不安が大きくなってきていた。


そんな落ち着かない時間を過ごしていた。




約束の時間が近づき


寮の門の近くでジュニアが迎えに来るのを待った。


不安が一杯で緊張していた。



約束の時間をほんの少し過ぎたころ


健の運転する4区の車が


寮の前で止まった。



私たちの看護婦寮は男子禁制だったので


寮の中には入れなかった。



助手席からジュニアが出てきた。



(あ!ジュニアだ。久しぶりにみる。


やっぱりかっこいいかも(*^.^*)



ジュニア: 「 よう 待った?」


私: 「 ううん 今出てきたところ 」


ジュニア: 「 夜だからちょっと寒いかもよ。


         あったかいジャケットのほうがいいよきっと」


私のジャケットを見ながらそう言った。


私はあわてて部屋に冬用のジャケットを取りにもどった。



私は健の車の後部座席に乗り込んだ。


ジュニアは助手席に座った。


健の彼女は見当たらなかった。



健: 「 よ! 元気だった?」


私: 「 うん。 久しぶりだね。誘ってくれてありがとうね。


     彼女と一緒じゃなかったの?」


健: 「 今から迎えに行くとこ。


     ちょっと遠いんだ。」



健の彼女は高速で1時間くらいかかる街に住んでいた。


だから毎日会えるわけではないらしい。



健とジュニアは終始馬鹿な話をしていた。


後部座席で一人で座って


話を聞きながら笑っていた私は


緊張も少し解け


この空気にほっとしていた。



そして健の彼女とお友達になれるかもと


少しワクワクしていた。




1時間ほど車で走ると彼女の家についた。


健が彼女を迎えにいった。



ジュニアは車から降りて


後部座席に乗り込んだ。



ジュニアと一緒に座るんだ


何だか緊張した。


こんなに近くで長い時間一緒にいるなんて



4区の車は広く


後部座席にも余裕があり一緒に座っても


体が触れることはなかった。



私は緊張しているのがばれないように


隠すのに必死だった。



健の彼女は期待と違いあまりフレンドリーではなかった。


健とジュニアとは


ふざけた話をずっとしていたが


私に声をかけることはほとんどなかった。



何だか私だけこの空気に浮いている気がした。


(私ちょっと場違いなところにいる???)



車の中はくだらないおしゃべりが続き気がつけば


鈴鹿の駐車場についていた。



健の車のトランクに積んであった毛布やシートを持って


レース場に向かう。



私は生れてはじめてのレース場だった。


観覧席につき


シートを敷いて場所取りをした。


夜中だというのに


結構な人がすでに場所取りをしていた。


毛布にくるまってレースが始まるまでここで寝るらしい



こんなところで寝れるのか??


それも仲の良い友達でもなく


緊張して寝れないよねと一人でブツブツ考えていた。



トイレに行きたいとジュニアに話すと


一緒に探してくれた。


ジュニア: 「 あいつらあんまりうまくいってないんだよね」


私: 「 えー そうなの? 仲よさそうなのに」


ジュニア: 「 健の彼女すげーわがままで


         あいつ振り回されてるんだよね。


         やめろって言ってるんだけど・・・・・」


私: 「 へー そうだったんだ」



私たちはトイレを終えて健たちのいる場所まで戻った。


健と彼女は一緒に毛布にくるまり


いちゃいちゃしていた。


そんな彼らを横目に私とジュニアは別々の毛布にくるまり


隣に座った。



(何を話したらいいんだろう??)


何だか言葉に迷った。


ジュニアはあまりおしゃべりな人ではなかった。



沈黙が続き


気がつけばうとうとしていた。



私の左手を誰かが握っているのを感じ


眠ってしまっていたことに気付いた。



ジュニアが私の手をそっと握っていたのだ。


(え??叫び 何??)



私が目を開けてジュニアを見たが


ジュニアは表情を変えることもなく


そのまま手を握り目を閉じた。



(何???)


健たちは仲良く一緒に眠っていた。


ジュニアの左手は私の左手をそっと握ったまま


眠りについた。


私はまたうとうとした。


不思議なくらい自然な感覚だった。



気がつけばあたりは明るくなり


ジュニアの姿はなく


私は一人で寝ていたことに気付いた。


(あれ?? みんなは?私涎垂らしてなかったかな??


いびきかいてなかったかな?)


なんだかくだらないことが気になっていた。



しばらく経つと3人は戻ってきた。


そうやら朝ご飯のパンやジュースを調達してきたらしい。



その後レースが始まった。


ジュニアは特に何も変わった様子もなかった。



(あれ? 昨日のあれは何だった??


 確かに私の手を握ってたよね?)



レース場でみるレースは想像以上に


つまらなかった


だって私たちの前を通過する時の一瞬しか見れなくて


あとはひたすら待つだけ・・・・


8時間の耐久レースだから


とにかく長いし


誰がいちばんかもよくわからない・・・・



ジュニアともせっかく一緒なのに


あまり話すこともなくただ一緒に居る


そんな感じだった。



そしてレースが終わり


健の車で帰路についた。



健とジュニアはくだらない話を終始していた。


おなかがよじれるくらいよく笑った。



時折


ジュニアの膝が私の膝に触れた。


ジュニアの左手も私の膝に置かれることもしばしばあった。



そのたびに私はドキドキした。



健の彼女を家に送り


その後私を寮に送ってくれた。



ジュニア: 「 じゃあまたな。」


私: 「 うん ありがとう。」



私は彼らの車が見えなくなるまで門の前で立っていた。



疲れた重い体を引きずりながら


部屋に戻った。



何だか不思議な二日間だった。



ベットに横になり二日間を思い返していた。


ジュニアの気持ちを考えたが


まったく彼の心の中が見えなかった??



なんで私を誘ったの??


誰でもよかったのかな??


なんで手を握ったの??


ただ握りたかったから??



ジュニアの行動を


考えれば考えるほど分からなかった。



そして眠りについた。

















突然の誘い



あれから何の連絡もなく

何の変りもなく毎日が過ぎて行った。


実習は相変わらず忙しく

毎日レポートに明け暮れていた。汗


週末はヨウコとつるんで遊んでいた。

もちろん平日の夜中突然電話をして一緒に

大好きな豚骨ラーメンを食べに毎週のように出掛けた。ラーメン


土曜日の午前中は

テニスにも参加していた。テニス



もしかしたらジュニアが来るかもと

ほのかな期待を持って毎週

出掛けたが

ジュニアの姿を見ることはなかった。汗



何もないことはかえっていい。

心が揺れることがない。



そしてその頃

前からやってみたかった

スクーバーダイビングを始めた。船


ショップのオーナーはすごくフレンドリーで

何もない時もよく顔を出しては

おしゃべりをした。




気がつけばカラオケコンパから

1カ月近くたっただろうか。




この日も実習を終えて

へとへとになって帰ってきた。


留守電のランプが点滅していた。


「 プー プー 」


何のメッセージもなく ツー音だけだった。



元彼とはあれから話していない。

彼女ができたのなら

もう私から連絡してはいけない。


そんな最低限のルールは守ろうと心に誓っていた。

たとえどんなに寂しくても・・・・




いつものようにベットに横になって体を伸ばした。


(レポートを書く前にほんの少しだけ寝よう)


そう思った時にはすでに寝息を立てていた。

どのくらい眠っていたのだろう。


電話の音で目が覚めた。



私: 「 もしもし 」


まだ頭がボーとしていた。


相手: 「 あー 俺 ジュニア 」


(何? ジュニア??叫び


あまりに突然で全く予期していなかった相手からの

電話で一気に眠気が覚めた。


私: 「 あー ジュニア? 元気?」


驚きを隠し自然に振る舞った。


ジュニア: 「 おう 」


私: 「 ジュニア テニスに来ないね。」


ジュニア: 「 おう ちょっと忙しくてね。 」


私: 「 そっか 私毎週行ってるよ。 お兄さんも毎週来てるよ」


ジュニア: 「 あー 兄貴はテニス好きだからな。


         試合に出るって張り切ってるよ。」


私: 「 私も出ることになりそうなんだ。


     お兄さんとペア組まされるみたいよ。」


ジュニア: 「 へー 兄貴と組むんだ・・・・


         そうそう来週の週末あいてる?」


私: 「 テニスに行くくらいで特に何も入ってないけど」


(またカラオケでも行くのかな?)


ジュニア: 「 鈴鹿で8耐があるんだけど一緒に行かない?」


(何だそれ?)


あまりレースに興味のない私は何のことかピンとこなかった。



私: 「 何それ?」


ジュニア: 「 鈴鹿サーキットでバイクの8時間耐久レースがあるんだ。


         それ一緒に見に行かないかなと思って。


         健と健の彼女も行くんだ。


         一緒に行かないか?」


私: 「 え? 私と?(ノ゚ο゚)ノ」


(どういうこと?それってダブルデート?ヽ(*'0'*)ツ


 まともに話したことないのに鈴鹿まで一緒に行くの?)


鈴鹿までは車で3時間以上はかかる。

レースが8時間ということは

その間ずっと一緒ということ??


ジュニア: 「 興味ない?」


私: 「 っていうかあまりに突然で・・・・


     興味がないっていうか


     今まで見たことないから・・・


     ちょっと興味ある。


     私バイクの免許持ってて


     実家に私の250ccのバイクも置いてあるんだよ。


     ほとんどのってないけど・・・」


ジュニア: 「 へー知らなかった


         じゃあ今度ツーリングにでもいくか?


         返事は今じゃなくていいよ


         近いうちに連絡して。」


私: 「 分かった。


     行くんなら何時から行くの?」


ジュニア: 「 いい場所でみたいから


         たぶん金曜の夜中に出る。


         朝レースが始まって帰ってくるのは夜中かな?」


私: 「 分かった考えてみる。 連絡するよ。」


ジュニア: 「 おう 」


ジュニアは終始軽いノリで話した。

わたしも心と裏腹に軽いノリを装った。




私は受話器を置いた。


あまりにも突然で予期せぬ展開。


驚きで何だか何のことかピンとこなかった。



(これってデートの誘い??あれ?ビックリマーク


もしかしてジュニアも私のこと気になってた??


それもそんなに長い時間。)



少しずつ実感がわいてきて

期待と不安で胸がドキドキした。ドキドキ


レースにはあまり興味なかったが

もちろん答えは決まっていた。



そして二日後

ジュニアに行くと電話をした。



いったいどんなことが始まるのか

ワクワクしていた。音譜










トンネルの出口



押しなれた元彼の電話番号を押し

彼が電話に出るのを待った。


時計の針はすでに午前2時半をまわっていた。


今日は金曜日

明日は仕事が休みなので

この時間でも家にいたら起きているはず・・・


でもなかなか電話に出る様子がなかった。


どこかに遊びに出掛けてるのだろうと

受話器を下ろしかけた時

元彼の声が聞こえた。



元彼: 「 はい むかっ


寝ていたのだろうか少し不機嫌そうな声だった。



私: 「 あ いたんだごめん寝てた? 私 」


元彼: 「 あーあせる ・・・・・・ 寝てた。 何? こんな時間にどうした?」



何となくよそよそしい空気が伝わってきた。




ひらめき電球 きっと女と一緒だ


私はすぐにピンときた。



私: 「 ごめんこんな時間に。汗 また電話する  じゃあ。」


元彼: 「 おう。」




そして私は電話を置いた。


( そっか 彼女できたんだ。 当たり前だよね。


 いつまでも私のこと好きでいてくれるなんて都合のいいこと


 心のどこかで思ってた・・・・・)



言いようもない寂しさが押し寄せてきた。


(もう誰も私を必要としてくれてないんだ・・・・


どんなことがあってもずっと好きだからって言ってくれたのに・・・・・・・




寂しさに押しつぶされそうだった・・・・


この広い世界で

私は一人ぼっちのような気がした。



せっかく一人で楽しめるようになってきたのに

どうして人はいつも幸せの中にいられないのだろうか?



ひとりでも大丈夫だって思えてたのに・・・

結局私はまだまだ自立できてないんだよね。



誰かの温もりを求め

誰かにいつも頼りたいって思ってるんだよね。



半年一人でも頑張ってきたって思ってたけど

元彼に甘えてたんだよね。

彼の気持ちを利用してただけなんだよね。



自分から別れたくせに

寂しいだけで彼に何度も連絡した。



本当にひどい女だった。

きっと罰が当たったんだ。



そして自分のしてきた失態を悔やんだ。



(これを乗り越えないと

きっと幸せなんて来ないんだ。

人を不幸にして自分だけ幸せになんて成れないんだ( ̄_ ̄ i))



暗いトンネルの出口が見えていると思った。

でもまだまだその明かりは遠い。



(元彼の気持ちを本当に考えられるようになったら

出口が近づいてくるのかもしれない(-"-;A)



心のどこかで

そんな気がしていた。



そして

言い知れない孤独感を心に抱きながら

眠りについた。



窓の外は少しづつ明るくなってきていた。