そろそろオフシーズンのあれこれを書き始めないと、また大したことも言えないまま新シーズンに突入してしまうな、と思いながらまずは監督人事の話からまとめ始めていたのだけど、この発表に関しては最優先でコメントしなければなるまい。
後藤三知、退団。
来るべき時が来たというのが率直な思いだ。
正直に申し上げると、ここ数年、毎年のように"今シーズンで最後かもしれない"と思いながら後藤三知という選手に寄り添い、見守ってきた。
その理由はいくつかあるが、何よりも後藤三知はこのまま燃え尽きてしまうのではないかという思いを毎試合感じてしまうからだ。
常に全力でチームを引っ張り、プレーヤーとしてもキャプテンとしても大きなものを背負い、しかしそれを"喜び"や"誇り"と表現する。
一方でファン・サポーターには穏やかな表情と満面の笑みで応え、整列しての挨拶の後は必ずスタンド全体を見渡して手を叩いてくれる。
勝っても負けてもその気持ちを表情で、身体全体で精一杯伝えてくれる。
ローカールームに戻る選手たちに拍手を送ると、あたかも私個人に対して"ありがとうございます。"と返してくれている様に感じさせてくれる。
ただそれらが"例えこの試合が最後であろうとも悔いを残さない"という覚悟の様にも感じられて、ふと寂しくなることがあり、その思いは日々強くなっていった。
後藤三知は素晴らしいキャプテンではあったが、不器用なキャプテンでもあった。
チームメイトを叱咤して引っ張っていくタイプではなく、あくまで自ら率先して動きながら背中で伝えるタイプのキャプテンだ。
2013年シーズンの世代交代の話をするならば、厳しい時代を自ら切り開いてきた先輩方の意志と若い世代を繋ぎ合わせる役割、浦和レッズレディースの看板を継承させる役割を、ある意味では背負わされてしまった様に思う。
以前、優勝した2014年だったか、堂園彩乃が"憎まれ役になっても構わない"という趣旨の発言をしたと記憶しているが、後藤三知はそういった存在にはなれなかった。
なりきれなかったのか、あえてならなかったのかは分からないが、結果的にはやんちゃな若手を背中で一生懸命引っ張ろうとする不器用なキャプテンの構図となった。
私はその不器用な側面が後藤三知の魅力を引き立てる大事なスパイスでもあったと考えている。
過去にも述べてきたように、後藤三知は人間としても非常にリスペクト出来る選手ではあるが、この不器用さの部分が何とも言えず親近感を覚えさせ、若干のもどかしさと共に微笑ましく感じさせてくれた。
一方でインタビューやセレモニーなどで発せられる一言一言は非常に重みがあり、内容はもちろんのこと言葉の選び方から間をしっかりと取った語り方まで、聞いていると引き込まれてしまう。
これも後藤三知の魅力の一つに他ならない。
さて、プレーヤーとしての話に移すと、後藤三知のプレーの特徴はポストプレーとフォアチェックということになろうか。
プレスの厳しい最前線中央で体を張り、雑なロングボールや縦パスを体全体を使って収める。
コンディションの良い時は狭いスペースで敵に囲まれながらも見事にボールを扱い時間を作ってくれる。
また、試合終盤になってもボールを追いまわす姿勢はそれだけで勇気と感動を与えてくれ、どんな内容の悪い試合でも、その姿勢を観るとまた応援したくて次の試合が待ち遠しくなった。
しかし、私の好きな後藤三知のプレーはゴリゴリ仕掛けるドリブルからの強烈なシュートだ。
ストライドの大きいダイナミックなドリブルで相手をなぎ倒す様に突進し、シザーズフェイントでコースを作ってズドンと叩き込むシュートは大好きなプレーだった。
チーム構成の変化と共に求められるプレーも変わり、最近ではドリブル突破はほとんど観られなくなったが、2016年シーズンも、これぞ後藤三知と言える豪快なシュートを観ることができた。
そして得点後に出る気合いのガッツポーズも興奮させてくれた。
結局、後藤三知のプレーはすべて好きだ。
何よりもすべてが真面目で実直な人間性がプレーに出ているからだろう。
さて、退団のコメントを何度も読み返す。
読み返せば読み返すほど、決断の重さ、言葉以上の意味、裏返しのメッセージがある様にも思われて考えさせられてしまう。
後藤三知のサッカー人生は続いていく。
一度背負ったもの降ろし、新たな山に伸び伸びと挑戦してもらいたい。
後藤三知が選ぶ人生は素晴らしいと確信している。
どんな姿が見られるのか楽しみにしている。
そして残された我々がやるべきことは後藤三知の魂を残すという事。
後藤三知が浦和レッズレディースに刻んだものを絶やさないという事。
ひたむきに諦めず一生懸命ボールを追い、最後まで戦い抜く事。
日々サッカーがあることの喜びを噛み締め、ファン・サポーター、選手、スタッフ、皆でそのことに感謝し、それを表現する事。
これまで三知に甘えていた分、三知が一人で背負っていたものを皆で少しずつ背負い合って前進する事。
それが、全身全霊、全力を注いでくれた三知への恩返しであり感謝の表現になると信じている。
近い将来、誰かのワンプレーに、もしくはチームとしての戦いぶりに、またはキャプテンシーに、後藤三知の魂を見つけて頼もしく思う日がくるだろう。
以上。