2014年シーズン振り返り(5):「頑固親父が磨いた2種類の飛び道具 」 | Redの足跡 ~浦和レッズレディース~

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レッズレディースの2014年シーズン振り返り。


サッカーでは試合が動き始めたらベンチから関与できることはごく僅かであり、交代カードをどのように切るかが監督の最大の仕事、という見方もある。


今回は吉田監督が浸透させた2つの選手交代について話をしたい。



1つ目は清家貴子の投入。


その活躍についてはご存知の通り。
公式戦35試合中31試合に出場し11ゴール。
その内28試合が途中出場で、まさに勝負どころの切り札としてフル回転してくれた。


清家を投入するのは点を取りたい時であり、負けている時は当然ながらリードしている時でもしっかりと守りつつ少ない手数でとどめを刺す狙いだ。


吉田監督は「清家を使ってやれ。」「長いボール。」「裏だ。」「走らせろ。」と身振り手振りも交えて繰り返し指示を出し続けた。
時には選手が応えてくれず不満そうな表情でコーチ陣に声をかけたり、雑な縦パスの連続に「急ぎすぎるな。」との声も聞かれたが、その指示を1シーズン通して徹底しチームに浸透させた。

清家が途中出場からあげた8点の内7点は縦パスへの抜け出しからであり、残りの1得点も縦パスからの突破で得たPKを自ら決めている。
またその7得点のアシスト(きっかけ)となる縦パスを出した選手も猶本、岸川、大滝、泊、彩乃、さっこと多様なことからもその浸透度合いを計ることができる。


ES第4節の湯郷戦での大滝の縦パスからの突破とゴールは圧巻だったし、皇后杯準決勝のジェフ戦で魅せたさっこのフィードからの得点は、マイボールになった瞬間に裏へボールを呼び込んだ清家の切り替えの早さと、キャッチしてまず清家を探したさっこの意識の高さが生んだゴールであり、1シーズン通して積み上げてきた清家の活かし方の完成形と言えるだろう。


もちろんこの戦術が成り立ったのは清家個人の能力によるところが大きいのだが、継続したことでチームに"縦"という共通意識を植え付け、その能力を活かしきったことをシーズン通しての成果として高く評価したい。




2つ目は5バック。


2013シーズン、吉田監督は残留というノルマのため何度かの5バックを使った。
しかし2014年シーズンが開幕するとシーズン序盤はチームが好調でその必要性はなく、逆に後半は逃げ切りの形がほとんどなく、5バックが採用されたのは2試合のみにとどまっていた。


それがエキサイティングシリーズに入ると一変する。
なんと全10戦中勝利した6試合すべてで試合終盤に5バックへのシステムチェンジが行われた。
ES第2節のベレーザ戦では3点差の残り5分で5バックにするなど、点差や試合の流れによらない采配は堅実を通り越してやり過ぎとさえ思ったほど。
おそらくはレギュラーシリーズ最終節で首位から陥落したことを踏まえ、より慎重にという思いが働いたのだろうが、結果的にこの徹底がリーグ優勝を引き寄せることになった。


ES第9節の神戸戦。
勝てばリーグ優勝が確実となる大一番。
スコアレスのまま終盤に入り、1点とれば優勝を大きく手繰り寄せられるが、負ければレギュラーシリーズの二の舞になりかねない状況。
頭の中にはシーズン開幕戦の同スタジアムでの劇的ロスタイム決勝弾の印象もあり、観ている側の期待は膨らむばかり。
逆にピッチの中の選手たちはチーム状況がどうであれ神戸の個の力への警戒心は強く、ゲームマネージメントが難しい場面であっただろう。


そこで89分、吉田監督が選択したのは5バックだった。
就任して初めての同点の状況での5バックは"勝点1でOK。守りきれ"という明確なメッセージをピッチの選手たちに伝えた。
それを選手たちがしっかりと受け取り、慌てることなく試合を終わらせられたのは、決してギリギリの状況での苦し紛れの策ではなく、これまでの試合で繰り返し採用して、戦い方を浸透させてきたからにほかならない。


結果的にこの勝点1が効いて余分なプレッシャーのない最終戦を迎えられたし、最終戦で敗れても優勝できたのはそれまでの試合でやり過ぎなほど採用した5バックが、したたかに得失点差を稼いだからとも言えるだろう。



今や試合終盤に5バックにシステムチェンジしても、清家が縦パス一発でゴールを決めても、レッズレディースサポーターは驚くことはない。

それが我々の確固たる戦い方だからだ。



吉田監督が頑なに継続したことで磨いた2つの武器。
2015年シーズンもさらに磨かれ、また新たな武器が増えることを期待したい。



以上。