S病院前のバス停は
いつも沢山のお年寄りがおられるのですが
今日は雨の中 傘ごしに
その中のお1人と ふと目が合いました。
「?・・Mさん?」
すらりと背が高く ウエーブのかかった銀色の髪。
声をかけようかしら?
待って・・待って・・待って
えっと あの頃の私は20代だったのだから・・
少し混乱する位・・その方はMさんに そっくりでした。
Mさんは 私がOL時代 お世話になった先輩です。
卓越した語学力で 当時60歳をこえておられたのですが
嘱託で勤務されていました。
Mさんのお部屋を訪ねると
いつも鼻にズリ落ちた眼鏡の上の大きな瞳が
ギロリと私を見つめ「また君か・・」と仰るのです。
「こんなことも わからんのか!」
「次は これをやりなさい!」
Mさんは優しい言葉など一度も仰いませんでした。
Mさんの前に立つ度 泣きたい気持ちをこらえながら
「Mさん・・それは私には無理です。」と
心の中で いつも呟いていたような気がします。
それでも私は Mさんの部屋を訪ねては
沢山の事を教えていただきました。
私の心に 今も しっかり残るMさんの記憶。
人は何かを得る為でなく
何かを残す為に生きている。
あの頃の私は
いつも海の底から水面に上がろうと
もがき続けていました。
沢山の時間が流れて 今の私は
暖かさと柔らかさと優しさにつつまれています。
でも ここは まだ海の中なのかも知れません。
お疲れ様でした。
明日も元気でいて下さいね。
「雨の街を」荒井由実

