トロイランド: 神話のテーマパーク

トロイランド: 神話のテーマパーク

ギリシャ・ローマ神話についての備忘録。映画をみたり、名画をみたり、本を読んだり。

クリストファー・ノーラン監督の新作映画『オデュッセイア』は、

日本国内のいくつかの映画館で、

先行上映が始まっています。

全国での封切りも間近です。

 

当ブログでは、

この新しい『オデュッセイア』を観る準備として

『トロイ』に関心を持っている人を対象に、

何回かに分けて、

参考になりそうなことを書いています。

最初の記事へ戻る。

今回は主人公のオデュッセウスについてです。

 

オデュッセウスは、

ギリシャ本土の西、

地中海のイタケという島の王様です。

 

この島から見ると、

東側のギリシャ本国の更にむこう側にエーゲ海があり、

さらにその向こう、

現代で言えばトルコの海辺にあった大きな都市国家が

トロイです。

つまり、

同盟を結んでいるギリシャの国々のなかでも、

トロイからは最も遠い国と言えるでしょう。

 

大作映画『トロイ』の劇場版に登場するオデュッセウスは、

この戦争に対してどういう姿勢をとっているでしょうか?

劇場版でオデュッセウスが初めて登場するのは、

ギリシャで最強の戦士であるアキレウスに対して協力を要請しに行く場面です。

アキレウスの母テティスは、

トロイに行ったら息子は死ぬと考えています。

アキレウス自身は戦うことが大好きで死ぬことも恐れていませんが、

母にとっては一大事です。

 

一方、

この戦士に出征を呼びかけるオデュッセウスは楽観的で、

テティスの家族愛に対して無頓着な感じがします。

 

ところが、

一緒にトロイに来て戦争が始まり、

アキレウスとアガメムノンが味方同士で対立を始めると、

オデュッセウスは現実的な判断としてアガメムノンに従うことを

アキレウスに告げます。

 

『トロイ』におけるオデュッセウスは、

敵であるトロイ側で先頭のリーダーを務めていた王子ヘクトルの死を悼んで両軍が喪に服している期間に、

巨大な木馬を建造して騙し討ちにする準備を整え、

喪が明けるのと同時に実行に映します。

(このあたりの順序は、

古典文学における展開とは違います。)

木馬作戦は成k功し、

難攻不落だったトロイの城内へ侵入できて、

戦争はギリシャ軍の勝利に終ります。

巨人たちと肩を並べて戦った自分の名前が時代を超えて語り継がれるだろうという

オデュッセウスの言葉で、

『トロイ』の劇場版は全体の幕を閉じます。

 

オデュッセウスを演じるショーン・ビーンは

たくましく弁舌さわやかですが、

戦士たちのリーダーとして苦渋の選択をするような雰囲気は感じられません。

容量のいい男です。

 

『トロイ』ディレクターズ・カット版のオデュッセウスはどうでしょう?

 

こちらで最初にオデュッセウスが登場する場面は、

劇場版と違います。

アガメムノンとメネラオスによって派遣された使者たちがイタケ島に上陸すると、

羊飼いの格好をした中年の男が、

大きめの犬を抱き抱えて斜面の中腹に座り、

羊の番をしています。

そして、

近づいて来た男たちを見ると、

トロイには行きたくないという意味のことを言います。

これが初登場のオデュッセウスです。

 

この犬は、

新作映画の方で話題になっている愛犬なのかも

しれません。

行きたくないという言葉は、

オデュッセウスの本音なのかもしれません。

 

ただし、

次にオデュッセウスが登場する場面は、

劇場版と同じで、

アキレウスを迎えに来る箇所です。

行きたくないという気持ちを心に秘めて明るくふるまっているのか、

それとも、

じっくり考えて参戦に対して前向きに変わったのかを

観た人が判断できる手がかりは見つかりません。

 

アガメムノンに従う判断の表明も、

自分の名声が将来もずっと語り継がれるだろうという結びのセリフも

劇場版と同じです。

 

オデュッセウスがしぶしぶ参戦したのか、

故郷を離れて気分が変わったのか、

『トロイ』からは判断できません。

 

神話 (トロイ戦争に関する古典文学) に登場するオデュッセウスはどうでしょうか?

 

いくつかの入門書には、

戦場へ行くことを嫌がったオデュッセウスが発狂した振りをすると

書いてあります。

(もともとどういう作品に書いてあったエピソードなのか、

私は確認できていません。)

 

『アウリスのイピゲネイア』(エウリピデス) の始めの方で、

オデュッセウスの演説がありますが、

本人の心の中は分かりません。

 

『イーリアス』は、

トロイ戦争が始まって何年も経った時点で物語が始まりますが、

オデュッセウスの内面を描く様な箇所な無かった様に思います。

戦略家として大変に頭のいい人物として描かれていた印象はあります。

 

クィントスの『トロイア戦記』は、

まだ読んでいません。

 

トロイの木馬について詳しく書いてある古典文学は、

ローマ時代の詩人ウェルギリウスによる『アエネイス』ですが、

トロイ王家の血をひくアエネイスを中心に進行するので、

オデュッセウスの内面は描かれていなかったと思います。

 

木馬作戦の翌日のことを描いたエウリピデスによる『トロイアの女』を原作にした映画では、

ヘクトルの孫にあたる幼い男の子を殺す様に命令する

冷酷非情な男として登場します。

 

叙事詩『オデュッセイア』は、

戦争が終わって10年目に入った時点から物語の幕が上がりますが、

オデュッセウスはしばらく行方不明です。

この長編叙事詩を近代の長編小説の様な形で説明するなら、

全体が24の章に分かれており、

オデュッセウスは第5章でやっと登場します。

この時点でのオデュッセウスは、

カリプソという女神の住む絶海の孤島に何年も幽閉されており、

故郷へ帰りたい思いで泣き暮らしています。

幽閉されていた8年間ずっと故郷へ帰りたいと願っていたのか、

それともカリプソとの生活に飽きて王妃ペネロペイアのことを懐かしく思う様になったのかは、

明確ではありません。

 

最後に、

映画を観る面白さが半減しない範囲で、

ノーランの脚本から少しだけネタバレをします。

 

もともと戦争への協力を要請されたオデュッセウスがどういう気持ちだったのか、

どのように考えてイタケ島を出発したのか、

戦争中に故郷のことをどう思っていたのか、

木馬作戦はどのように実行されたのか、

こういった謎について、

十分に考え抜いてノーランの脚本は出来ています。

故郷の島で王位を狙う男たちはなぜ戦場へ行かなかったのか、

木馬作戦の後で地中海周辺の世界に何が起きたのかなど、

さまざまな謎に対してノーランなりの回答が用意されています。

 

(私はまだ映画の方を実際に観ていません。)