「ほら、また見てる」
握った拳の裏側で、軽くコツンとされる。
「そんなに似てた?」
「いや・・・えと・・・ごめ・・・ん・・・」
すくめた肩に、呆れた、を表現されるのは何度めだろう。
「ま、もう慣れたけど」
「ごめん」
糾(キュウ)があたしの傍に居るようになって、もう3年。
永いような、あっという間のような・・・。
すぐには無理でも、いずれ忘れて ―― 思い出さないようになっていくのだろうと、あたしも思っていた。
なのに、あたしは糾の前の彼を、ちっとも忘れていない。
今でも彼に似た人とすれ違う度に、いつまでも目で追ってしまう。
そしてその度に糾にため息をつかせてしまう。
別れた前彼よりも、糾の方が、あたしには合っている。
前彼と糾の両方を知る人はそう言い、あたしもそう思うようになった。
今となっては、糾の居ない生活は考えられない。
糾の検査入院の打ち合わせの帰りのことだった。
病院からの帰り、あたしはまたやってしまったのだ。
向こうから来る、彼に似た人。
あっ、と小さい声を出してしまったのはわかっていた。
彼ではない他の誰かが、すれ違い、去っていくのを見送った。
慣れたと言うわりに、糾の口調も仕草も乱暴になったのを感じて、あたしは手遅れの反省をした。
納得しての別れではないことは、糾も充分理解していた。
あたしと彼が別れなければ、自分があたしの隣に居る現在はなかったということも。
だからといってあたしは、糾を2番目扱いしてきたつもりはない。
あたしに尽くしてくれる糾を、あたしなりに大切にしている。
なのに、あたしのその想いを、前彼の記憶が無にしてしまう。
いつもだったら、その日はそれ以降糾が無口になって、翌朝なにもなかったかのようにあたしに接してくれて、それで終わりになる。
今日に限って珍しく、糾は口を閉じなかった。
「ヤツが特別だったってことはよくわかってる。俺にとってのカヤと同じだから」
「う、うん」
「でもそろそろ、俺のことだけ考えてくれてもいいだろ?」
「うん・・・ごめん」
「謝らせたいんじゃない。口先だけで約束してほしいわけでもない。俺がカヤを想う気持ちの、十分の一でも、カヤが俺を想ってくれてるなら・・・」
「わかってる、わかってる。あたしだって糾のこと大切に思ってるってば」
「・・・ヤツの次に、だろ」
そう言うと、糾はぷいっと横を向いてしまった。