追想) 追想~あなたが居た頃~ 11 | オトナになっても

オトナになっても

□■□ 「起承転結」こちらで完結することにしました・長編は「書架の背表紙」(目次)からどうぞ □■□

 あ・・・れ?


 「大友さんか西川君から・・・聞いているのかと思いました」


 無表情で、センセが言った。


 「え・・・」


 「ふたりは何も?」


 「え、うん。何も・・・」


 「そうですか・・・」


 ふっと遠い目をしてから、センセはいつもあたしに見せる優しい表情になった。


 「私は独身なんですよ。だから、今以上に外食が多くても、誰にも怒られることはありません」


 「へー・・・意外」


 思わずそう言ってしまったけれど、センセはご機嫌を損ねなかった。


 逆に・・・。


 「今日は私がコーヒーをお淹れしましょう。ここからすぐなんです。おいでなさい」


 「へ?!」 


 今から?


 独身のセンセんチに?


 いや、独身はあんま関係ないかもしれないけど・・・。


 「なにもしませんよ」


 ・・・きっとあたしの顔には、あたしの思ったことが全部出るんだ。


 センセが苦笑いしてあたしを見ていた。


 「成人年齢でしたら、ワインでも、と言うところですがね。おいしいコーヒーがありますよ」


 重ねてそう言うと、センセはいつもの笑顔になった。


 にっこり。


 ・・・まあ・・・いっか。


 センセのその表情に、あたしは頷いた。



 

 ここからすぐ、のすぐは、ほんとにすぐだった。


 駅から見える、あのマンションの一番上の階だと言って、センセはでっかいマンションを指差した。


 「・・・へーえ」


 駅からも近いし、きっと高価いんだろうなぁ、としみじみ思った。


 まあ、パッと見でわかるけれども、その建物のそこここに高級感が滲み出ていた。


 センセと話しながらマンションに向かう間、何度も建物を見上げては、近づきづらい気分になっていった。


 近づきづらく思っても、距離が距離なので、すぐにマンションの足元に着いてしまう。


 エントランスの壁に、電話のボタンみたいなものが埋め込んである。


 センセはそっちに寄ると、いくつかのボタンを押した。


 それでやっとホールへのドアが開く。


 「今ではそれほど珍しくありませんがね。ここができた頃には最新式だったんですよ」


 「・・・へー」


 こんな機会でもなければ、あたしには縁のないものだなぁ、と、変に感心してしまう。


 広いホールの向こうにエレベーターがあって、センセとあたしはエレベーターに乗った。


 その中も広い。


 あたしは自分が場違いなところに居ることを感じていたけれど、センセはもちろんそんなふうには思っていないだろう。


 食事をしながら話したりしているときは、特にどうというところのない穏やかな表情のオジサンだけれど、こんなふうに・・・なんていうんだろう、お金持ちっぽいカンジの場所に居ても、センセはそれがきちんとサマになる人だった。


 ・・・そうか、金持ちなんだ。


 それも縁のない言葉だなぁ、と、少し情けない気分で思った。