あ・・・れ?
「大友さんか西川君から・・・聞いているのかと思いました」
無表情で、センセが言った。
「え・・・」
「ふたりは何も?」
「え、うん。何も・・・」
「そうですか・・・」
ふっと遠い目をしてから、センセはいつもあたしに見せる優しい表情になった。
「私は独身なんですよ。だから、今以上に外食が多くても、誰にも怒られることはありません」
「へー・・・意外」
思わずそう言ってしまったけれど、センセはご機嫌を損ねなかった。
逆に・・・。
「今日は私がコーヒーをお淹れしましょう。ここからすぐなんです。おいでなさい」
「へ?!」
今から?
独身のセンセんチに?
いや、独身はあんま関係ないかもしれないけど・・・。
「なにもしませんよ」
・・・きっとあたしの顔には、あたしの思ったことが全部出るんだ。
センセが苦笑いしてあたしを見ていた。
「成人年齢でしたら、ワインでも、と言うところですがね。おいしいコーヒーがありますよ」
重ねてそう言うと、センセはいつもの笑顔になった。
にっこり。
・・・まあ・・・いっか。
センセのその表情に、あたしは頷いた。
ここからすぐ、のすぐは、ほんとにすぐだった。
駅から見える、あのマンションの一番上の階だと言って、センセはでっかいマンションを指差した。
「・・・へーえ」
駅からも近いし、きっと高価いんだろうなぁ、としみじみ思った。
まあ、パッと見でわかるけれども、その建物のそこここに高級感が滲み出ていた。
センセと話しながらマンションに向かう間、何度も建物を見上げては、近づきづらい気分になっていった。
近づきづらく思っても、距離が距離なので、すぐにマンションの足元に着いてしまう。
エントランスの壁に、電話のボタンみたいなものが埋め込んである。
センセはそっちに寄ると、いくつかのボタンを押した。
それでやっとホールへのドアが開く。
「今ではそれほど珍しくありませんがね。ここができた頃には最新式だったんですよ」
「・・・へー」
こんな機会でもなければ、あたしには縁のないものだなぁ、と、変に感心してしまう。
広いホールの向こうにエレベーターがあって、センセとあたしはエレベーターに乗った。
その中も広い。
あたしは自分が場違いなところに居ることを感じていたけれど、センセはもちろんそんなふうには思っていないだろう。
食事をしながら話したりしているときは、特にどうというところのない穏やかな表情のオジサンだけれど、こんなふうに・・・なんていうんだろう、お金持ちっぽいカンジの場所に居ても、センセはそれがきちんとサマになる人だった。
・・・そうか、金持ちなんだ。
それも縁のない言葉だなぁ、と、少し情けない気分で思った。