tf) 此処 1 | オトナになっても

オトナになっても

□■□ 「起承転結」こちらで完結することにしました・長編は「書架の背表紙」(目次)からどうぞ □■□

 そんなわけであたしは、今日も店に居る。


 初めてヒカルに逢った夜から数えて、もう一ヶ月。


 社会人同士なので、会議やその他の仕事の都合で、遅くなったり会えなかったりということが何度かはあったものの、週の半分はこの店に来ていた。


 相変わらず、「じゃあ次は水曜日。7時頃ね」というような約束はしていない。


 仕事を終わらせて、この店に寄って、一番奥のあたりに腰を落ち着けて、ヒカルを待つ。


 1時間程度ヒカルを待って、会えなければそのまま帰る。


 他の人から声をかけられるのも煩わしいので、目印として、携帯を置くようにした。


 低い灯りが作るやわらかい光の半円の中で、携帯のストラップにしている淡水パールでできた房が、穏やかな光を反射させている。


 ぼんやりとそれを見つめながら、考えるのはヒカルのことだけだった。



 

 二度目にヒカルに会った夜。


 明確な約束をしていない以上、それはやはり偶然と呼んだ方が相応しいのだろう。


 日や時間を約束しなかったので、その日、店に来ることにしたのは、偶然。


 そしてもし、ヒカルに会えたなら、やっぱりそれも偶然と呼んで間違いはないだろう。


 次にこの店に来たとき、見つけたら声をかけるという約束はしていた。


 だからその夜、あたしは馬鹿正直に、ヒカルを探した。


 そして、ヒカルを探し始めてやっと、目印になるようなものを教えてもらっていないことに気付いた。


 ひとりで座っている男の人が何人かいたけれど、多分、違う。


 違うけど・・・。


 困ったな、と思っていると、反対側から歩いてくる人がいて、その邪魔にならないように、あたしは通路の端に避けた。


 すれ違うときなんとなくその手を見て、あたしは、声をかけるべき相手もあたしを探していることがわかった。