tf) アマネとヒカル 3 | オトナになっても

オトナになっても

□■□ 「起承転結」こちらで完結することにしました・長編は「書架の背表紙」(目次)からどうぞ □■□

 「ここはよく来るの?」

 両手で持ったグラスをゆっくり回すと、その中の氷が、涼しい音をたてて角度を変える。

 グラスの中の氷で遊びながら、アマネが訊いた。

 正直言って、最近のオレはほとんど毎日、仕事帰りにここに寄っていた。

 ここでしか会えない誰かと約束しているわけではなくて、なにか楽しいことがないかと、新しい刺激を探しに。

 そのへん、隠すこともできるけど、ビミョウに嘘はつきたくない。

 「仕事がすぐそこなんで。よく来ますよ、烏龍茶飲みに」

 烏龍茶を一口、飲んでみせた。

 こんなふうに飲みに来てます、って。

 「そっかぁ。じゃあ、あたしと同じだね」

 くすっとアマネが笑う。

 「えー?いつも烏龍茶ですか?」

 「・・・たまにお酒」

 素直にそう認めると、アマネがまたグラスを持ち上げた。

 たまにか・・・。

 ほんとかな?

 やっぱりさっき思ったみたいに、アマネもけっこう飲むタイプなんじゃないんだろうか。

 別に隠さなくったっていいのに。

 でも、今日は烏龍茶なんだよな。

 じゃあ、ほんとにたまになのかな?

 「お酒のときもあるって、何飲むんですか?」

 別にアルコールにこだわるわけじゃないけれど、ちょっと訊いてみた。

 目でも楽しめるカクテルとか。

 ウィスキーとかだったら、それはそれでカッコいいかも。

 焼酎・・・の類は、たしかここには置いてない。

 ビールっていうのはちょっと違うだろうし・・・。

 ・・・あれ?

 違和感を感じて隣を見ると、グラスを手にしたまま、アマネが固まっている。

 アマネの優しい声が聞こえてこない。

 いい調子でハナシが弾んでたと思ってたのに・・・。

 オレ、なんかヘンなこと訊いた???

 「・・・アマネ?」

 そぉっと呼んでみたけれど、反応がない。

 「ねえ、アマネ?」

 顔を覗き込みたいところだけれど、この暗さでは意味がない。

 普段は気にならないのに、初めて、店の暗さにイラついた。

 肩を叩くとか、揺さぶってみるとか、突付いてみるとか・・・。

 いやいや、体に触れることなんて、どんなに距離が近くたって、できないできない。

 困ったな。

 どうしたんだろう?

 「・・・ねえ、聞いてます?」

 もう一度、アマネに声をかけると、ぴくっとその体が震えた。

 「あああ、ごめんごめん。なんだっけ?」

 慌てたように、でもやっと返事が返ってくる。

 ああ、よかった。

 「ひどいよー。もー」

 安心して思わずそう言うと、アマネが申し訳なさそうに言った。

 「ぼーっとしちゃった。ごめんね。で?なになに?」

 顔の表情は見えなくても、アマネの声は豊かな表情を表す。

 生き生きとした表情が、くるくる変わるのがわかる。

 最初の頃の印象の、「落ち着いたオトナの女」よりも、感情を素直に表してくれる、少しだけ馴染んでくれた今のアマネの方が、オレには嬉しかった。