「ここはよく来るの?」
両手で持ったグラスをゆっくり回すと、その中の氷が、涼しい音をたてて角度を変える。
グラスの中の氷で遊びながら、アマネが訊いた。
正直言って、最近のオレはほとんど毎日、仕事帰りにここに寄っていた。
ここでしか会えない誰かと約束しているわけではなくて、なにか楽しいことがないかと、新しい刺激を探しに。
そのへん、隠すこともできるけど、ビミョウに嘘はつきたくない。
「仕事がすぐそこなんで。よく来ますよ、烏龍茶飲みに」
烏龍茶を一口、飲んでみせた。
こんなふうに飲みに来てます、って。
「そっかぁ。じゃあ、あたしと同じだね」
くすっとアマネが笑う。
「えー?いつも烏龍茶ですか?」
「・・・たまにお酒」
素直にそう認めると、アマネがまたグラスを持ち上げた。
たまにか・・・。
ほんとかな?
やっぱりさっき思ったみたいに、アマネもけっこう飲むタイプなんじゃないんだろうか。
別に隠さなくったっていいのに。
でも、今日は烏龍茶なんだよな。
じゃあ、ほんとにたまになのかな?
「お酒のときもあるって、何飲むんですか?」
別にアルコールにこだわるわけじゃないけれど、ちょっと訊いてみた。
目でも楽しめるカクテルとか。
ウィスキーとかだったら、それはそれでカッコいいかも。
焼酎・・・の類は、たしかここには置いてない。
ビールっていうのはちょっと違うだろうし・・・。
・・・あれ?
違和感を感じて隣を見ると、グラスを手にしたまま、アマネが固まっている。
アマネの優しい声が聞こえてこない。
いい調子でハナシが弾んでたと思ってたのに・・・。
オレ、なんかヘンなこと訊いた???
「・・・アマネ?」
そぉっと呼んでみたけれど、反応がない。
「ねえ、アマネ?」
顔を覗き込みたいところだけれど、この暗さでは意味がない。
普段は気にならないのに、初めて、店の暗さにイラついた。
肩を叩くとか、揺さぶってみるとか、突付いてみるとか・・・。
いやいや、体に触れることなんて、どんなに距離が近くたって、できないできない。
困ったな。
どうしたんだろう?
「・・・ねえ、聞いてます?」
もう一度、アマネに声をかけると、ぴくっとその体が震えた。
「あああ、ごめんごめん。なんだっけ?」
慌てたように、でもやっと返事が返ってくる。
ああ、よかった。
「ひどいよー。もー」
安心して思わずそう言うと、アマネが申し訳なさそうに言った。
「ぼーっとしちゃった。ごめんね。で?なになに?」
顔の表情は見えなくても、アマネの声は豊かな表情を表す。
生き生きとした表情が、くるくる変わるのがわかる。
最初の頃の印象の、「落ち着いたオトナの女」よりも、感情を素直に表してくれる、少しだけ馴染んでくれた今のアマネの方が、オレには嬉しかった。