こんにちは
国立感染症研究所ホームページの感染症週報2023年36週の速報データが更新されました。
このブログでは、国立感染症研究所ホームページに公表される感染症発生数の情報を元に、当院のある神奈川県の感染症発生状況をお知らせさせて頂きます。
記事の後半に、増加傾向にある感染症や予防のための注意点をまとめていますのでそちらもお読み下さい
公表されているのは、現在から約2週間前の数値ですが、おおよその流行状況を把握することができます。
※速報値のため、再集計の後に修正されることがあります。
尚、神奈川県以外の地域については文末のリンク 1からご確認いただくことができます。
【2023年 第36週 (9/4-9/10)の神奈川県の感染症発生動向】
(便宜上、一般の患者さんの生活に密接した疾患のみをピックアップしています)
※ ( )内は同年第1週からの累積数です。
「増減」には、前の週と比較して1週間当たりの発症数が増えた場合は+, 減った場合は-を付けた数字を示しています。数が前週と同じものには+, - を示していません。
* 新型コロナウイルス感染症の報告数については、全数把握疾患ではなくなったため、定点把握疾患の項目に含めることになりました。
|
定点把握疾患(週報告)(神奈川県):
※ ( )内は定点医療機関当たりの報告数
【 】内には、前の週と比較して1週間当たりの合計定点報告数が増えた場合は+, 減った場合は-を付けた数字を示しています。数が前週と同じものには+, - を示していません。
定点報告は県内すべての発生数を網羅してはいないので、報告数が無し(-)でも0件を意味しません。そのため、「-」の週からの増減数は示していません。
* 新型コロナウイルス感染症の報告数については、定点報告になりました。定点あたりの報告数のみ記載しています。神奈川県衛生研究所からの報告(リンク3)をもとにしています。
|
まとめ:
新型コロナウイルス感染症の発生数は2023年11週までは減少傾向が続いていましたが、13週からは増加に転じてしまいました
なお、19週以降は、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが5類定点把握対象疾患に移行したため、県内の発生数の全数の把握はできなくなっています。36週の定点あたり発生数は前週から増加し、20を超えています。当院でも、陽性の人が増えています。
自身や家族が感染しないために、日頃から感染予防の心がけを続けることがとても大切です。
新型コロナウイルスが5類感染症となり、マスク着用も緩和されていますが、新型コロナウイルスの感染しやすさが変わったわけではありません。人が多い室内・近くで声を出す活動をする環境で長時間過ごすときは、マスク(可能なら不織布マスク)を着けて生活しましょう。マスクから鼻が出ないようにしましょう。
体調が悪い時は無理して外出や登園・登校・出勤をせずに自宅で休むようにしましょう。
ご家庭では石鹸やハンドソープによる手洗い、外出先では消毒用アルコールによる手指消毒をし、規則正しい生活をして体調を整えて過ごし感染予防に努めましょう。
新型コロナウイルスワクチンを接種していない方で接種が可能な方は、検討のうえ接種を受けて頂けるようお願いします。
すでに感染した方も、ワクチンを受けることで新型コロナウイルスに対する免疫が高まり再感染の予防になります。
生後6カ月~4歳および5-11歳の小児用新型コロナワクチンの接種は今も受けられます。子供が新型コロナウイルスに感染した場合、軽症で済むことが多いのですが、中には重症化や死亡に至る例もあります。
オミクロン変異体の流行で小児の感染者が増えたため、重症化する子供の数も増えました。子供用の新型コロナワクチンは、発熱などの副反応は大人に比べるととても少ないです。感染による重症化予防のためにワクチンの接種をお勧めします。迷っている方は、小児科の主治医にご相談下さい。
接種済みの人が感染したり、過去に感染したことがある人が再度感染することもありますのでマスクや手洗い、ソーシャルディスタンスの保持などの基本的な対策は継続しましょう。
新型コロナウイルス感染症とワクチンについては、公的サイトもぜひご確認下さい。
結核は36週は引き続き二桁の発生数となりました。
BCGの接種対象月齢のお子さん(1歳未満)は忘れずに接種を受けましょう。
27, 29週には腸管出血性大腸菌感染症の報告数が急増しました 35週は1桁の発生となり、前週よりも減少しましたが、36週は2桁の発生数となりました。今後も注意が必要です。
牛肉などはしっかり中まで火を通して食べましょう。生の肉を触ったトングや箸を使って、焼けた肉を取り分けるなども汚染の原因になりますので生の肉と焼けた肉は別々のトングや箸で扱うようにしましょう。生野菜は、よく水洗いしてから食べましょう。
百日咳の登録は2022年の1年間で19例ありました。2023年の発生数は前年より多いペースで、36週も2例の登録がありました。すでに累積で38例になり、2022年の1年間の発生数の2倍になりました
2022年は26週, 48週に破傷風の登録が1件ずつあり、1年間で3例の登録がありました 。
2023年になって初めて、22週に1件の破傷風の登録がありました そして、26週にももう1件、28, 30週にもさらにもう1件ずつの登録がありました
4種混合(百日咳・破傷風・ジフテリア・不活化ポリオ)の対象月齢のお子さん(生後3か月~)は忘れずに接種を受けましょう。
小学校高学年が対象となる2種混合も、免疫を持続させるために大切です。忘れずに受けて頂けますようお願いします
就学前に、任意接種(自費)ではありますが3種混合(百日咳・破傷風・ジフテリア)と不活化ポリオワクチンの追加接種を受けておくと、免疫をしっかり長続きさせることが出来ます。ぜひ接種をご検討下さい。
2022年の麻しん、風しんの発生はいずれも1例ずつでした。
2023年10週に1例の麻しんの報告がありましたが、11週には累積0例になっていたので、麻しんではなかったようです。13週にも1例の報告がありました。14~16週は0例でしたが、累積は1例のままですので、13週の報告は確かに麻しんであったようです。
報道でもありましたが、ゴールデンウイーク前後に、東京都で麻しんの発生がありました。麻しんは、非常に感染力の高い疾患です。1歳以上で麻しんワクチン(麻しん風しん混合ワクチンを含む)を一度も受けていない方や、5歳以上で1回しか受けていない方は、ぜひ接種をご検討ください。
11週には風しんの報告が1例ありましたが、12週には累積0例になっていたので、風しんではなかったようです。
28週には、新規の報告がないまま累積数が1例になっていたのですが、詳細は不明です。
31週にも風しんの報告が1例ありました。35週にも1件の登録がありましたが、36週には累積数が減っていたため35週に登録されたものは風しんではなかったことになります。2023年はここまでの累計で2例となっています。
今後も流行を阻止するために、麻しん・風しん混合ワクチンの社会全体での接種率を高い水準に維持することが大切です。
1歳、6歳(年長さん)で受けられる麻しん・風しん混合ワクチン(1期・2期)は忘れずに受けましょう。
感染性胃腸炎は2022年末から引き続き流行中です。22週は定点あたり7を超えました。23-25週は減少傾向ですが、26週は増加し定点当たり4を超えました。その後は徐々に減少傾向でしたが、34-36週は再び増加し定点あたり2を超え、まだ流行中といえる数字です。当院でも、嘔吐・下痢症状で受診する人が再び増えてきています。
吐物や下痢から感染しますので、感染予防のためにオムツ交換後やトイレから出た後・食事の前には毎回、石けんやハンドソープで手をよく洗いましょう
インフルエンザは2022年49-50週から大幅に増加し、定点あたり1を超え流行期に入り、2023に入りさらに増え、5週には定点あたり12を超えました。8-15週は減少傾向となっていましたが、16週に、再びインフルエンザの発生数が上昇しました
17~19週は、若干減少し、20週には再び増加、28週-32週は、増えたり減ったりが続いていました。暑い季節ですが、ずっとインフルエンザが出続けています。35-36週は大幅に発生数が増え、36週は特に定点あたり5を超えました。
インフルエンザの予防にもマスク・手洗い・十分な換気が有効です。十分注意して過ごしましょう。
RSウイルス感染症は2022年の夏から流行が認められていました。
その後、下火になっていましたが、2023年17週はから増加傾向となり18, 19週は若干減りましたが、20-25週には大幅に増加し大きめの流行となりました。28-36週は減少傾向となっていますので、このまま減少が続くことを願うばかりです。
RSウイルス感染症は、特に0-1歳で呼吸状態が悪化しやすい感染症です。2歳以上では再感染のことが多く、0-1歳よりは軽症と考えられますが、発熱が長引いたり咳が悪化する場合もあります。
お子さんの息がゼイゼイして苦しそう、顔色が悪い、ミルクや母乳の飲みが悪いという場合は早めに小児科の受診をしましょう。
溶連菌感染症は2022年42週以降、概ね減少傾向でしたが2023年19, 20週は一気に増加しました。21, 22, 24週も報告数の増加を認めました。25-31週は増減を繰り返し定点あたり1以上で経過していましたが、32-33週は大幅に減少し、定点あたり1を割りましたが、34-36週は少し増えています。今後も注意が必要です。当院では、陽性の人が幼児から小中学生を中心に結構います。
溶連菌感染症は、A群β溶結性連鎖球菌がのどや皮膚に感染し発熱・咽頭痛、場合により発疹や腹痛・嘔吐が伴いますが咳は出ません。飛沫で感染しますので、マスクと手洗いが感染予防に有効です。
感染した場合は、リウマチ熱を予防するために抗菌薬を飲んでしっかり治療する必要があります。
水痘(水ぼうそう)の発生は35週も引き続き2ケタの発生を認めました。今後も注意が必要です。
定期接種の年齢(1歳~2歳)のお子さんは、忘れずに水ぼうそうの予防接種を2回受けましょう。それ以上の年齢でも、自費での接種を受けることは可能ですので、まだ感染していない人はご検討下さい。
水ぼうそうは軽い病気と思われていることもありますが、脳炎や脳症の合併を含め重症化するケースもあります。また、免疫が低下している人が水ぼうそうに罹ると生命の危険があります。社会全体で、水ぼうそうが流行しないようにするためにも、お子さんの水ぼうそうワクチンの接種をお願いいたします。
ヘルパンギーナ(エンテロウイルスによる咽頭炎)が20-27週は大幅に増加しました。39度以上の発熱とのどの赤み・粘膜の発疹を伴います。発熱は1-3日で収まることが多いですが、人によっては咳・鼻汁を伴うこともあります。28週は、やっと減少に転じ、29-35週はさらに減少しましたが36週は急に増加しました。
手足口病(エンテロウイルスによる咽頭炎・四肢を中心とした発疹をきたす疾患)も流行する季節です。発生数は上下しながら、全体的には減少傾向でしたが、35-36週は大幅に増えました 新学期の影響でしょうか。
一般的に「夏かぜ」と言われる発熱性疾患の多くがエンテロウイルス系によるもので、2,3日で解熱することがほとんどですが、場合によっては無菌性髄膜炎をきたすこともあります。高熱に頭痛・嘔吐を伴うときは受診しましょう。
いずれも、予防にはマスク・手洗いが有効です
31週は、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)の定点あたり発生数が増加しました。32週は減少していましたが、33週は若干増え、34-35週は横ばいであったため、36週は減っていましたが今後も注意が必要です。
おたふくかぜは、ムンプスウイルスによる感染症で飛沫から感染します。発熱、耳や顎の下の腫れで発症しますが、無菌性髄膜炎や感音性難聴などの合併症も生じうるため、あなどれない感染症です。
予防のためには、おたふくかぜのワクチンを受けることが大切です。1歳から接種できますが、多くの自治体では自己負担が必要です。当院でも予約を受け付けていますので、ご検討下さい。
突発性発疹はその性質上、基本的に季節性の流行はありません。
(県内の詳細は、リンク3を参照下さい)
【データをご覧になる際の予備知識】
感染症発生数の報告は、全数把握疾患(全国で発生したすべての症例を数える)と、定点把握疾患(あらかじめ指定された医療機関からの報告症例を数える)があります。
定点は報告する疾患によって5種類(インフルエンザ定点、小児科定点、眼科定点、STD定点、基幹定点)があります。指定医療機関の数は地域の人口によって決められています。 神奈川県では、インフルエンザ定点185、小児科定点233、眼科定点52、STD(性感染症)定点70、基幹定点12の機関が指定されています。(当院は定点機関ではありません)
|
今後もご注目下さい
次回の更新予定は9月30日ごろです(国立感染症研究所の更新日の後です)。
リンク:
1.国立感染症研究所ホームページ IDWR速報データ 2023年第36週
2.神奈川県衛生研究所ホームページ 感染症情報センター 感染症発生動向調査