BTRONが標準的ファイルシステムとして備えている実身仮身モデルは、「パソコンに初めて触れる」というコンピュータ初学者にその操作をスムーズに習得できることを重視してデザインされている面もあります。そのために、別のOSのパワーユーザーはそのあまりの基本的設計思想の違いに面食らってしまうこともたびたびあるでしょう。


実身仮身モデルの理解には「ウィンドウ内に表示されているものはすべてそこに存在している」と考えると分かりやすいと思います。必要な情報を新聞や雑誌から切り抜いてノートに貼り付けたスクラップブックがまさにそのイメージです。

OSの内部構造やファイル管理の意識を持つ必要がない、ユーザーに優しいシステムこそBTRONが目指していたものですので、そういったことを考えてしまうとハイパーテキストが難解なものと感じることになるでしょう。


実身とは情報のことであり、例えばテキスト文書やグラフィックなどが該当します。そして実身は仮身と呼ばれるタグによって参照され、さらに実身にはこの仮身を組み込むことが可能となっています。

実身はデータの本体そのものですが、BTRONでは実身を直接操作することはできず、必ずその実身を指し示す仮身を通して操作する仕様となっており、仮身は実身への入り口の役割を果たすと同時に実身を操作するときの手がかりともなる存在として設けられています。


またOS仕様上の制限としては、いわゆるファイル(実身)を識別するIDを16ビットで管理していることから、単一のディスク上では、最大65,000個の実身しか置くことができません。

また、同じ場所に同じ名前の実身をおくことが可能です。これは実身名とOSが実身を管理するためのIDが区別されているためで、これによって仮に実身名を途中で変更したとしてもリンク切れのような問題は起こらないようになっています。

さらにTRONプロジェクトにおけるサブプロジェクトの特徴として、TRONコードを含むあらゆる文字を実身名に使用することができます。

一方仮身とは、BTRONの画面上に短冊のように表示されるもので、一つの実身を指し示しており、仮身をダブルクリックすることによって関連している実身をウィンドウに開き、編集や閲覧ができます。

一つの実身に対して複数の仮身を作ることができ、同じディスク上にある実身を指す仮身が一つでもあれば、決してその実身は削除されません。これは元のデータを保護する上で非常に重要な機能であり、ある実身の仮身がすべて削除されたときにはじめてその実身が自動的に削除されます。


つまり仮身とは書籍でいえば背表紙に当たる部分であり、自分が探している情報を閲覧するための手がかりとしてここを見ることでその中に含まれている情報の内容が分かり、実際にその仮身を開くと仮身が指し示す実身つまりデータそのものを見ることができるのです。

しかも仮身が指し示す実身は異なるデバイス(フロッピーやハードディスクなどの記憶装置)においても有効で、複数のデバイス間を横断する論理構造を持っています。