実身仮身モデルでは、一つの実身に対して複数の仮身を置くことが認められたシステムでもあります。

つまり仮身の複製(コピー)を複数作成し、ユーザーにとって必要な場所(実身を参照したい場所)のあらゆる箇所に仮身を置くことができるのです。


結果的に実身と仮身との参照関係というものは、いわゆる木構造(ツリー構造)ではなくネットワーク構造となり、しかもループ状の参照関係があっても構わないという緩やかな構造も備えています。
ツリー構造を持ったファイルシステムだと、例えばAというディレクトリからも、Bというディレクトリからも、Cというディレクトリを参照したり編集したいというきには、ツリー構造では難しいものがあります。参照元のディレクトリにそれぞれCのショートカットを作成しておかなくてはなりませんし、その後にCを移動してしまった場合には参照先が不明となってしまう危険性を内在しています。
一方、BTRONがもつファイル構造では、独自のネットワーク構造をもち、いつでもどこでも好きなディレクトリに移動することが出来るのです。


特定のアプリケーションソフトウェアや任意のデータの所在をあらわすアイコンである「ショートカット」は、いわゆる「リンク切れ」(参照先が不明となってしまうエラー)の問題があります。

しかしBTRONの実身仮身モデルでは、実身と仮身の双方をまったく任意の場所に移動したとしても常にシステムが両者の所在を把握しているため、この問題は発生しません。いわゆるフォルダの概念がなく、すべてのファイルが他のファイルへの参照を行うことが可能であるため、ファイルを格納している絶対位置が不要なのです。
ツリー構造ではその管理の構造上、どうしてもメモリの浪費を招くこととなり、しかもユーザー側に対してどこに何をいつ保存したのかという「ファイル管理の意識」が要求されます。しかし、BTRON仕様OSのファイルシステムはWindowsやUNIX、MS-DOSのようなツリー構造によるものではなく、ネットワーク構造を採用しており、それを実現しているものがBTRONの核となるこの実身仮身モデルなのです。


この実身仮身モデルはユーザーに管理の意識を強要しない直感的なファイルシステムとして、思考の構造化に非常に有益であるとして熱狂的なファンがたくさん存在しています。
このように、BTRONとは普段のパソコンのファイル操作そのものがまるでネットサーフィンをしているのと同様に常にウェブページを作成・編集していることに近い処理を行うシステムともいえます。その意味でもユーザーとって非常に自由度が高いファイルシステムとなっていることにはじめてBTRONを操作する場合、別のOSのパワーユーザーは少々戸惑ってしまうかもしれません。