TRONプロジェクトの初期段階においては、当時いよいよ普及してきた産業機械や産業用ロボットの制御用として組み込みOSを開発するプロジェクトであると残念ながら坂村氏の意に反して世間では受けとめられていました。
しかしその後、機器組み込み用OS仕様のITRON、人間とコンピュータとのインタフェース(HMI)を研究対象とするBTRON、サーバ用OS仕様であるCTRONに加えて、それらを統括的にコントロールするための分散制御システムであるMTRONという、当時「I・C・B・M」と総称されたそれぞれのTRONからなるシリーズ化の概念であることが知られるようになり、実はTRONプロジェクトとはそれまでのコンピュータの全体系をまったく新たな概念をもって根本から作り直す巨大プロジェクトであることが明らかになったのです。


とくにTRONの大きな特長は、それまでのコンピュータではコンピュータにとって外部である私たちの現実世界=外界世界と、コンピュータ内部の仮想世界とが隔絶していたことに鑑み、この両者のかかわりを重視して設計がなされていることです。

そのために次々刻々と変化する外界世界の情報に対して、コンピュータがリアルタイム(即時)に反応するための仕組みをすべてのTRONに共通する要素として備えることを基本とした体系として構築されました。


こういった経緯から、TRONプロジェクトがかかわることとなるステージは広大であり、必然的に研究の対象となるテーマも膨大なものとなるために、これらを全部まとめてひとくくりにして「TRON」と呼んでしまうとそれぞれが備えている明確な特徴や目的がぼやけてしまって全体が見えなくなってしまうことになりかねません。
そのためにTRONプロジェクトでは、これらの研究対象となるテーマごとに「サブプロジェクト」としてチームを分け、サブプロジェクトごとに独立してそれぞれの目的を達成するために活動を行うこととしたのです。