こんにちは。

 

10月19日夜の部で、上演回数1300回を達成した、日本初演50周年記念公演ミュージカル、松本白鸚さん主演『ラ・マンチャの男』を友人に誘われて観てきたので、今日はその感想を書いておきます。

 

日本初演50周年記念公演 ミュージカル『ラ・マンチャの男』

 

〈キャスト〉

松本白鸚さん(セルバンテス/ドン・キホーテ)/瀬奈じゅんさん(アルドンザ)駒田一さん(サンチョ)/松原凜子さん(アントニア)/石鍋多加史さん(神父)/荒井洸子さん(家政婦)/ 祖父江進さん(床屋)/ 大塚雅夫さん(ペドロ)/白木美貴子さん(マリア)/宮川浩さん(カラスコ)/ 上條恒彦さん(牢名主)ほか

 

〈スタッフ〉

演出:松本白鸚さん

脚本:デール・ワッサーマン

作詞:ジョオ・ダリオン

音楽:ミッチ・リー

訳:森岩雄さん、高田蓉子さん 訳詞:福井崚さん 振付・演出:エディ・ロール(日本初演)

演出スーパーバイザー:宮崎紀夫さん

プロデューサー:齋藤安彦さん、塚田淳一さん ほか

振付:森田守恒さん

装置:田中直樹さん

照明:吉井澄雄さん

音響設計:本間俊哉さん

衣裳協力:桜井久美さん

音楽監督・歌唱指導さん:山口琇也さん

音楽監督・指揮:塩田明弘さん

歌唱指導:櫻井直樹さん

振付助手:萩原季里さん、大塚雅夫さん

演出助手:坂本聖子さん

舞台監督:菅田幸夫さん

制作助手:村上奈実さん

製作:東宝

 

〈ストーリー〉

税収吏、作家・詩人のセルバンテス(松本白鸚さん)は教会侮辱罪の容疑で宗教裁判にかけられるため従僕(駒田一さん)とともに牢獄へ連れてこられます。そこで牢名主(上條恒彦さん)に自分が書いた「ドン・キホーテ」の原稿を奪われそうになったセルバンテスは、「即興劇という形で申し開きをしたい」と提案します。役者はそこに居る全員。こうして牢名主や囚人たちを巻き込んだ芝居が始まるのです。

 

セルバンテスが扮する即興劇の主人公は騎士道物語の読みすぎで気が違ってしまったアロンソ・キハーナという老人(白鸚さん)。彼は300年も前に姿を消した遍歴の騎士として悪を亡ぼす旅に出るのです。彼の名はラ・マンチャのドン・キホーテ。

 

※ラ・マンチャとは。

アラビア語で〈乾いた土地〉を意味する、スペインのメセタ南部の地方のことです。

 

※ドン・キホーテとは。

《原題、(スペイン)El ingenioso hidalgo Don Quijote de la Mancha》セルバンテスが書いた長編小説。第一部1605年刊、第二部1615年刊。騎士道物語を読みふけり、自分が騎士であるという妄想にとりつかれたドン=キホーテと従者サンチョ=パンサが旅先で巻き起こす失敗や冒険のなかに、理想と現実との相克などのテーマを織り込んだ近代文学の先駆的作品です。

 

空想的理想主義者のことを「ドン=キホーテ型」と呼んだりしますね。

 

途中、立ち寄った宿屋にいるのは荒くれ者のラバ追いたちや給仕のあばずれ女たち。キホーテはその中に思い姫ドルシネアを見つけます。彼女はアルドンザ(瀬奈じゅんさん)。自分を姫と呼ぶ男を拒絶するアルドンザでしたが、キホーテの言葉が彼女を少しずつ変えていくのです…。

 

ドン・キホーテの、キハーナ老人の旅の終着点は…。

そして、セルバンテスの運命は…。

 

そもそもなぜ、歌舞伎俳優である白鸚さんが日本ミュージカル界の祖となったのでしょうか?。それは、白鸚さんが染五郎(六代目)を名乗っていた10代の頃、お父様の初代白鸚さん(当時の八代目松本幸四郎)が息子の染五郎さん、中村萬之助さん(吉右衛門)一門を率いて松竹から東宝に移籍したことが始まりなのです。

 

松竹での歌舞伎に閉塞性を感じていた初代白鸚さんは、伝統の枠を超えた様々な新しい試みに挑戦したいと、1957年、「新劇史上初の歌舞伎との合同」といわれた文学座の公演「明智光秀」に出演されたりして、歌舞伎だけに留まらず、革新的な考えをお持ちの方だったようですね。

 

染五郎さんと萬之助さんも、1960年に上演された舞台「敦煌」(井上靖さん作、菊田一夫さん脚本・演出)への出演がきっかけで菊田一夫さんに勧められ、東宝と専属契約を結ばれたのです。

 

東宝でも歌舞伎をやることが目的でしたが、当時、東宝でミュージカルづくりに情熱を傾けていた菊田一夫さんが染五郎さんの資質に目をつけ、1965年、22歳の時に「王様と私」の王様役でミュージカルデビューを飾られたのです。

 

白鸚さんはこう仰っています。「当時は松竹と東宝、歌舞伎とミュージカルなんて、今より水と油のようなものでしたから。僕の体の中で生木を裂かれるような感じがありました。その頃は日本にまだミュージカルが根付いていなくて、上演も年に1、2本。でも菊田先生が僕に『染五郎くん、続けようよ。日本にミュージカルが根付くまで続けてくれよ』とおっしゃったんです。ずいぶん無謀な考えですよ。歌舞伎をやって、ミュージカルもやるなんて。『先生、無理です』という言葉が喉まで出かかったんですが、若かったんですね。『やります』と言っちゃった(笑)。男と男の約束でした」と。

 

僕なんかはこう聞くと、菊田一夫さんと言うのは中々の策略家だなぁなんて思います(笑)。人を乗せるのが上手と言いますか。流石は日本の演劇史に名を残す大プロデューサーですよね。

 

でもこの菊田さんの一言があったからこそ、今、僕たちは白鸚さん演じる素晴らしいミュージカルの舞台を観させていただいているのですから、菊田さんに感謝しなくてはいけませんね。

 

歌舞伎に拘らず、色んなジャンルに挑戦したいという想いは、お父様の初代白鸚さんの血を継いでらっしゃるからなんだろうなという気がします。

 

しかしその後、「自由に歌舞伎を演じていい」という条件を提示されたからこそ東宝に移籍されたのに、歌舞伎公演のノウハウを持たなかった東宝への興行方針に対する不満や自己の芸術観と菊田さんの脚本との相違など問題が絶えず、初代白鸚さんさんと一門は松竹へ復帰することになるのです。

 

この前例のない経験が、二代目白鸚さんの俳優としての軌跡に大きな影響を与えているのは間違いないでしょうね。

 

『ラ・マンチャの男』は、聖書に次いで世界的に読まれているスペインの国民的小説「ドン・キホーテ」を原作としたミュージカルで、1965年にブロードウェイで初演され、翌年のトニー賞ではミュージカル作品賞を含む計5部門を受賞しました。

 

日本では1969年の初演(帝国劇場)より松本白鸚さんが主演し、翌70年にはブロードウェイからの招待を受けて、マーチンベック劇場にて全編英語で現地の役者と渡り合い、計60ステージに立たれました。今では渡辺謙さんや米倉涼子さんなども立たれてますけど、白鸚さんがパイオニアですからね。

 

僕が初めて『ラ・マンチャの男』を観たのは、1999年9月、青山劇場でした。

 

その時のキャストは…。

セルバンテス/ドン・キホーテ:松本幸四郎さん

アルドンザ:鳳蘭さん

従僕/サンチョ:佐藤輝さん

牢名主/宿屋の主人:上條恒彦さん

カラスコ博士:浜畑賢吉さん

アントニア:松たか子さん

家政婦:荒井洸子さん

 

もう20年前になりますけど、観終わった後、深い感動に包まれた良い舞台だったなぁと、いつまでも心に残る舞台でした。

 

で、今回は帝劇で、日本初演から50周年を記念しての公演ということで、是非観たいと思っていたのです。

 

いやぁ〜、20年前以上に感動しました!

 

本作品のテーマ曲『見果てぬ夢(The Impossible Dream)』が流れてくるだけで、目頭が熱くなってしまって驚きました。

 

ミュージカル作品としての内容の素晴らしさもありますが、松本白鸚さんがこれまで歩んでこられた、揺るぎなく輝かしい俳優という人生の全てが、舞台全体から放たれていて、その熱に圧倒され、77歳という年齢にもかかわらず、それを忘れてしまうくらいの力強い存在感に撃たれてしまいました。歌声が本当に素晴らしかったです。凄みを感じました。

 

吉井澄雄さんの照明が美しいので、白鸚さんが舞台に立つと、神々しく見えるんですよね〜。

 

どんな不運や逆境に遭っても諦めず、それでもなお理想に向かって生きようと突き進む人間の姿って胸を打つものですね。そんな人間でありたいなぁ僕も。ドン・キホーテのように揺るがない信念を持ちたいです。

 

ドン・キホーテに一方的に“ドルシネア姫”として崇め奉られ、はじめは歯牙にもかけなかったものの遂には生き方が変わるほどの影響を受けるアルドンザ役の瀬奈じゅんさんは、元宝塚歌劇団月組トップスターです。宝塚退団後の初舞台は2010年、帝国劇場『エリザベート』のエリザベート役でしたね。2012年、第37回菊田一夫演劇賞、第3回岩谷時子・奨励賞を受賞されています。

 

瀬奈さんは、荒んだ人生を歩み、お金をだせば体を許すあばずれ女だと思われ、その日その日を生き抜くために粗野な荒くれ女にならざるを得ない悲しさと、その裏に隠し持つ女性らしい繊細な一面を、演技と歌で全身で表現されていました。男たちから、人格を否定されるような仕打ちに遭い、一度は絶望の淵に落ちてもなお、少女のような純真さを捨てきれないアルドンザという女性を力一杯演じてらっしゃいました。美しかったです。

 

『見果てぬ夢』には、「夢は稔り難く、敵は数多なりとも、胸に悲しみを秘めて、我は勇みて行かん」という歌詞があるのですが、セルバンテスと白鸚さんが曲を聴くたびに幾度も重なって見えました。

 

劇中に散りばめられたドン・キホーテの名台詞の数々も、白鸚さん本人の言葉のように聞こえる場面が何度もありましたね。

 

半世紀に渡り、同じ役を生きてこられたのですからね。白鸚さんは。これは日本の演劇史に名を刻む大偉業ですよ。

 

『人生自体が気狂いじみているとしたら、では一体、本当の狂気とは何か? 本当の狂気とは、夢におぼれて現実を見ないのも狂気かもしれぬ。現実のみを追って夢を持たないのも狂気かもしれぬ。だが、一番憎むべき狂気とは、あるがままの人生に、ただ折り合いをつけてしまって、あるべき姿のために戦わないことだ。』

 

これは劇中にドン・キホーテが言う有名なセリフです。これを聴くと、ボコっと頬を殴られたような気持ちになります。

 

アンコールの最後に白鸚さんが魅せてくれた笑顔に揺るぎない役者としての自信と、手を振るお姿にまだまだこれから戦い続けますよと言う熱い決意を感じました。

 

気づくと素直にスタンディングオベーションしていました。

自然に立ち上がってしまう素晴らしい作品です。

感動しました!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高麗屋の逸品 高麗屋の逸品
3,300円
Amazon