こんにちは。

 

先月のことなのですが、六月花形新派公演『夜の蝶』を三越劇場で友人に誘われて観てきたので、今日はその感想を書いておきます。

 

『夜の蝶』

〈スタッフ〉

原作:川口松太郎さん

脚色・演出:成瀬芳一さん

〈キャスト〉

白沢一郎:喜多村緑郎さん

葉子:河合雪之丞さん

お景:瀬戸摩純さん

お春:山村紅葉さん

お菊:篠井英介さん

 

<あらすじ>

銀座随一の高級クラブ《リスボン》のマダムである葉子(河合雪之丞さん)は近頃、機嫌が悪い。というのも、京都出身で舞妓あがりのお菊(篠井英介さん)がここ銀座にバーを出店すると言う噂があるからでした。

 

葉子はお菊の店が京都の雰囲気を売りに趣向を凝らした設えと聞いて、気になって仕方がなかったのです。

 

一方、高級クラブ《お菊》は、大物政治家・白沢一郎(喜多村緑郎さん)の後押しで、葉子はじめ葉子の妹分のお景(瀬戸摩純さん)や、銀座のマダム達の羨望と嫉妬を尻目に華々しく開店。京都風にした新戦術は大きな評判を呼び、お菊は妹分のお春(山村紅葉さん)と手を取り合って喜ぶのでした。

 

銀座一の《リスボン》と話題沸騰となったお菊の対立…。

 

銀座の夜の世界を舞台に、二人のマダムが、色と欲の為に女の戦いを繰り広げるのです…

 

原作「夜の蝶」のことや、昭和32年に公開された映画版のことは、主演された京マチ子さんが亡くなった時に、追悼でこのblogに書かせてもらったので、今回は省かせてもらいますね。

 

興味のある方は、そちらを読んでみてください。

 

今回の公演の脚色、演出は新派文芸部の成瀬芳一さんです。成瀬さんは、昭和53年(1978年)、劇団新派文芸部に入られて、新派の古典作品ほとんどの演出を手掛けられている方だそうです。

 

日本朗読文化協会、三越カルチャーサロンなど、その他多くのカルチャースクールにも講師として招かれ、朗読の指導もされているようです。

 

成瀬さんは、初演から40年以上が経った2019年に本作を上演することについて「今の時代に合わせる形で上演したい。初演の時代設定は昭和32年、今回は少し新しく、昭和34・5年あたりに書き直した。岩戸景気であったり、東京オリンピック開催に近い時代になっている」とおっしゃっていました。

 

僕は川口松太郎さんの原作は読んでいません。映画版を何度が観ていただけで、新派での初演の舞台がどうだったのかは分かりませんが、多分、映画化された時は原作者の川口松太郎さんは健在ですし、映画版は原作に近いストーリーだと思うんですよね。

 

なので今回の舞台の脚色は、成瀬さんが今の時代に合わせてブラッシュアップされたのだろうと思います。

 

映画版のラストはちょっと衝撃的で、舞台で表現するには難しいでしょうし、今の時代では受け入れ難いのかなあという気もしますしね。今の観客はアンハッピーを嫌いますからね〜(笑)。

 

僕は大好きなんですけどね〜映画版は。あのラストだからこそ、女の愛と悲しみが際立ち、胸に迫るのだと思うのです。

 

昨年観させていただいた『黒蜥蜴・全美版』、『犬神家の一族』も大変面白かったので、新派があの『夜の蝶』を上演すると聞いた時から本当に楽しみにしていた舞台でした。

 

観劇中は、あの三越劇場の舞台上にお盆がこのお芝居のためだけに設えてあり、バー《リスボン》と高級クラブ《お菊》のセットが背中合わせに設置され、お盆が廻ることにより、場面変換をすることが今まで三越劇場ではなかったことなので新鮮で、美術さん頑張ってるなぁと感心したり、雪之丞さんの衣装やヘアーも役柄に良く合っていて工夫されていて美しかったですし、山村紅葉さんのほっこり感も観ていて可愛らしかったですし、観ている間はとても楽しめたんです。

 

でもちょっと観終わってから、こうだったらもっと良かったのになあと感じることが多々浮かんでしまったので、ちょっと書いておこうかと思います。

 

僕が一番残念だったなあと思ったことは、篠井英介さんがあまり美しく見えなかったことです。

 

篠井さんといえば、1987年には加納幸和さん、木原実さんらと「ネオかぶき」劇団花組芝居を旗揚げし、女形として活躍され、1990年に退団後は『欲望という名の電車(2001年、2003年、2007年)』のブランチ役や、三島由紀夫の戯曲『サド侯爵夫人(2008年)』のルネ役、寺山修司による戯曲『毛皮のマリー(1998年)』、泉鏡花の戯曲『天守物語(2011年)』の富姫など数多くの名作戯曲の主役を演じ、現代演劇の女形として特異な活動されている俳優さんです。

 

女性役だけではなく、男性役でも、一筋縄ではいかない強烈な人間を演じさせたら他の追随を許さない、個性豊かな俳優さんでもあります。

 

これだけの実績のある方を今回迎えたにも関わらず、河合雪之丞さんの華やかな見た目に比べ、篠井さんは最初の芸妓姿はまだしも、以降の着物姿や頭の作り、メイク、どれを取っても地味で寂しかったですね〜。

 

篠井さんご自身が、新派の世界に合わせよう、溶け込もうとせっかくの個性を押さえ込まれているような気がしてつまらなかったです。

 

篠井さん演じるお菊のモデルとなった「上羽 秀」さんは、文士や映画人、財界人や政治家など多数のファンがいて、京都と銀座に店を構え、飛行機で度々往復する生活を送っていたことから「空飛ぶマダム」と呼ばれた女性だったのですから、もっと艶やかな見た目に作ってあげて欲しかったです。

 

そうじゃないと、銀座の夜の世界を舞台にした、二人のマダムによる、色と欲の為の女の戦いが盛り上がりませんよ〜。

 

お菊が割烹着が似合う、小料理屋の女将さんに見えてしまいました。それじゃあかんでしょう?(笑)。

 

篠井さんを、わざわざ新派に呼んだ意味がありません。勿体無いですよ。

 

今回、舞台にお盆があり、廻ったりして、美術さんも頑張られていましたが、やはり三越劇場の限界というものを感じましたね。

 

三越劇場は歴史を感じさせるクラシカルな装飾で風格があり、舞台と客席が近くて、役者さんの息遣いも聞こえる程で好きな劇場ですが、このお芝居を上演するには少し物足りない感じがしました。

 

こういう言い方は美術さんには失礼かと思いますが、銀座の高級クラブというよりは、新宿、六本木、赤坂、錦糸町のバーと言われても違和感のない感じに思えたんです。

 

できれば、もし再演があるとすれば、新橋演舞場や明治座など花道がある劇場で、お金をかけてゴージャスに銀座のクラブを再現し上演してほしいなあと思います。

 

篠井さんは、日本舞踊会では藤間勘智英の名を持つ宗家藤間流師範だそうで、お菊は元芸妓という設定なので、舞妓姿のホステスを従えてお店の開店記念に一曲踊るという場面があっても良かったのにとも思いました。大きな劇場でしたら可能ですよね。

 

映画版にはなかったのですが、今回の舞台には葉子とお菊には子供が一人づついるという設定でした。

 

この上演時間でお互いの家族の問題を盛り込むのは少し無理があるように思いましたね。どうしても描写が浅くなるし、子供たちがお互いの親のことを知らずに出会い、愛し合うようになると言うのも偶然すぎて、二人が起こしたある事件によって、葉子とお菊の間に横たわっていた過去のわだかまりが溶けて、友情が芽生えると言うようなラストは甘いなぁ〜と思いました。

 

それが新派らしいと言われれば、そうなんですか?と言うしかないのですが…。

 

母と子のエピソードはもっと掘り下げて、シーンを増やして描いた方が物語に奥行きが出ると思いますし、お菊がお金の援助をしていた青年医師のエピソードもあっさりしていますしね。もっと大きな劇場で、3時間くらいで上演するのであればいいんですけど…。

 

三越劇場で上演するのであれば、子供達のシーンは削り、葉子とお菊の二人の美しき“夜の蝶”の、譲れない意気地と、夜の世界でしか生きられない女の哀しみをもっと濃厚に描いて欲しかったです。

 

ほのぼのとしたラストは僕はあまり好きじゃないんですよ〜。

 

映画版の印象が強いからかもしれません。

 

しかし、この舞台が面白くなかったと言っているのではありません。こうだったらもっと良かったのになぁと僕の気持ちを勝手に書いてしまっただけです。

 

僕は新派には頑張ってもらいたいんです。

新派にしか出来ないこと、これからももっともっと追求してもらいたいと思っています。

 

 

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