こんにちは。

 

シアターコクーンが海外の才能と出会い、新たな視点で臨む“DISCOVER WORLD THEATRE”シリーズの第6弾にあたる、シェイクスピアの代表作『ハムレット』が岡田将生さん主演で5月に上演されました。

 

友人に誘われて観てきたので、今日はその感想を書いておきます。

 

Bunkamura30周年記念 シアターコクーン・オンレパートリー2019

DISCOVER WORLD THEATRE vol.6『ハムレット』

【東京公演】2019年5月9日(木)→6月2日(日) Bunkamuraシアターコクーン

【作】ウィリアム・シェイクスピア

【翻訳】河合祥一郎さん

【演出】サイモン・ゴドウィン

【美術・衣裳】スートラ・ギルモア

【出演】岡田将生さん、黒木華さん、青柳翔さん、村上虹郎さん、竪山隼太さん、玉置孝匡さん、冨岡弘さん、町田マリーさん、薄平広樹さん、内田靖子さん、永島敬三さん、穴田有里さん、遠山悠介さん、渡辺隼斗さん、秋本奈緒美さん、福井貴一さん、山崎一さん、松雪泰子さん

 

演出のサイモン・ゴドウィンは英国出身で、現在、英国演劇の中心的存在であるロンドンのロイヤル・ナショナル・シアターのアソシエイト・ディレクターを務め、今年9月からは、アメリカ・ワシントンD.C.のシェイクスピア・シアター・カンパニーの芸術監督に就任予定で、近年英国でもっとも注目を集める演出家だそうです。

 

美術・衣裳デザインは、演出のサイモン・ゴドウィンが最も信頼するトニー賞にノミネートされたこともある、スートラ・ギルモアです。

 

◎STORYを簡単に…。

デンマークの王子ハムレットの父・国王が急死し、国王の弟クローディアスはハムレットの母・王妃ガートルードと結婚し、跡を継いでデンマーク王の座に就きます。

 

父王の死と母の早い再婚とで憂いに沈む王子ハムレットは、従臣から亡くなった王によく似た亡霊が、夜な夜なエルシノアの城壁に現れるという話を聞き、自ら確かめに行きます。

 

ハムレットの前に現れた亡霊はやはり父王の姿をしており、「私は弟クローディアスに毒殺された」と告げるのでした。

 

それを聞いたハムレットはクローディアスへの復讐を誓い、周囲の目を欺くため狂気を装うのです。

 

王クローディアスと王妃ガートルードはその変貌ぶりに憂慮しますが、宰相ポローニアスは、その原因を娘オフィーリアへの実らぬ恋ゆえだと言うのです。

 

父に狂気の真相を探れと命令されたオフィーリアをハムレットは冷たく突き放すのでした。

 

やがて、ハムレットが亡霊の言葉が真実であったと確信を得たその夜、ガートルードの寝室に呼ばれますが、母と口論になり、物陰で身を潜めていたポローニアスをハムレットは刺し殺してしまうのです。

 

この事態に身の危険を感じたクローディアスはハムレットにイングランドへ行くように命じます。愛するハムレットに冷たく突き放され、そのハムレットに父を殺された悲しみのあまりオフィーリアの精神は崩壊し、川で溺れて死んでしまいます。

 

復讐に燃えるレアーティーズは、父と妹の仇を討つことを誓うのです…。

 

ハムレットの存在を疎ましいと思っていたクローディアスは、レアティーズを利用し、毒剣と毒入りの酒を用意して、ハムレットを剣術試合に招き、秘かに殺そうとします。

 

しかし試合のさなか、王妃ガートルードが毒入りとは知らずに酒を飲んで死に、ハムレットとレアティーズ両者とも試合中に毒剣で傷を負うのです。

 

死にゆくレアティーズから真相を聞かされたハムレットは、クローディアスを殺して復讐を果たした後、事の顛末を語り伝えてくれるよう親友ホレイショーに言い残し、自らも死んでいくのでした…。

 

僕はこれまで、色々な『ハムレット』を観てきました。

 

◎映画では…

ローレンス・オリヴィエが監督し、自らハムレットを演じている1948年版。オフィーリアはジーン・シモンズ。

 

1990年版

最近、亡くなられたフランコ・ゼフィレッリが監督し、ハムレットをメル・ギブソンが演じた1990年版。ヘレナ・ボナム=カーターがオフィーリアでした。

 

◎舞台では…

劇団四季創立40周年記念公演、浅利慶太さん演出、山口祐一郎さん主演(1993年)

 

蜷川幸雄さん演出

真田広之さん主演(1998年)

藤原竜也さん主演(2003年、2015年)

 

ジョン・ケアード演出

内野聖陽さん主演(2017年)

 

映像で観たことがあるのは、蜷川幸雄さん演出、渡辺謙さん主演(1988年)です。

 

こう並べただけでも、ハムレットという役を演れるのは、表現力が巧みで、演劇史に名を残す名優ばかりだと感じます。

 

過去には、芥川比呂志さんや平幹二朗さんも演じてらっしゃいますしね。

 

そのハムレットを岡田将生くんが演じると聞いた時には、是非観たいと思いました。

 

岡田くんは美男子だし、ノーブル(高貴)で上品で気品があり、育ちが良さそうに見えるのに、邪悪さを心に秘めているような男を演じさせると光るんですよね〜。そこが他のイケメン俳優との違いだと僕は思っていたので、攻撃的なのに受容的で、優しいのに残酷であったりと、様々な矛盾を抱えた人物ハムレットを演じるのにはピッタリだと思いました。

 

ハムレットと聞いて思い浮かぶのは、繊細で青白く、痩せた青年で、なかなか実際に行動へと移すことができず、一人物憂げに思い悩んでいるアンニュイなイメージ…。

 

岡田くんにピッタリじゃないですか!

 

でも、岡田くんはヘタレな男を演じても良いんですけどね(笑)。

 

岡田ハムレット、良かったですね〜。岡田くんは「裏切ることは絶対にしません」と上演前に意気込んでいましたけれど、僕は裏切られませんでしたよ〜。

 

岡田くんは初日のカーテンコールでは号泣していたそうですね。今回の出演依頼があった時は、泣きそうになるぐらい嬉しかったそうですから、無事初日を終え、たくさんの観客からの喝采を受けて、胸に迫るものがあったんでしょうね。

 

若い俳優さんでも、与えられた一つの役に対して、真摯に向き合って、戦って、荒削りでも熱い魂を感じさせてくれれば観客は魅了されるものですよ。

 

若いのに、小手先の器用さをひけらかすような芝居をする俳優なんて長生きはしないと思います。

 

舞台は生ものですからね。キャリアのある名優の渋みのある演技も良いものですが、岡田くんのような若い俳優の熱のこもった演技も新鮮で良いものです。

 

そりゃあまだまだ、セリフの言い回しや間の取り方など、こうすればもっと良いのになんて観てる側は生意気に思ったりするところもありますけれど、そんなことは良い演出家と出会い、経験を積めばどんどん上手くなってゆくものですから。

 

今回、岡田くんの『ハムレット』には満足させてもらったのですが、演出と美術、衣装、音楽がね〜。

 

僕の好みとは随分ズレがあり、岡田くんには申し訳ないですけど、僕にとっては残念な舞台でした。

 

これは僕の勝手な意見ですから、この舞台に感動された方には申し訳ないのですが…。

 

気鋭の英国人演出家と聞いていましたし、ポスタービジュアルも素敵でしたし、演出家は『ハムレット』をダーク・ファンタジーととらえているとコメントしていたので、どんな斬新な舞台を魅せてくれるのかと期待していましたが、そこは裏切られました〜。

 

デンマークのシェラン島北東部のヘルシンゲルある世界遺産の『クロンボー城』が『ハムレット』の舞台「エルシノア城」のモデルになった城なのですが、北欧最大とも言われる大広間なんてモダンで美しいし、地下にある薄暗い牢屋なんて今にも亡霊が出てきそうな雰囲気があり、少しはセットデザインの参考にして欲しかったなあと思います。

 

今回の舞台美術は、お城って感じじゃないんですよ。なんか天井の低い、資産家のお屋敷みたいなセットで、物語もそこで起こった血腥いサスペンスドラマのような展開で全てがライトでコンパクトなんです!

 

意味もなく、雪が降ってみたり、音楽もダダダ〜ンのような、火サスのような音楽が鳴り響いて驚いてしまいました。

 

ハムレットが両手首に包帯を巻いていてリストカット(刃物を用いて主に手首を傷つける自傷行為)の痕があるという設定もただの飾りでしかない印象でした。

 

ハムレットは、動物的な本能が抑圧されることにより起こる、心理的葛藤により非常に極端な思考や行動をしてしまう病(統合失調症)にかかっているのでは?という解釈は今ではよくされていることなので、両手首に包帯なんていう表現もあっても良いと思いますけど、ただ巻いているだけでは物足りないです。

 

ハムレットとオフィーリアが愛し合っていたのは分かるのですが、もう少し突っ込んだ描写があっても良いのにと思います。それがあったほうが、オフィーリアが狂死してしまうことに納得させられるのではないでしょうか。

 

オフィーリアがハムレットから貰った贈物を返す場面、ハムレットが女性というもの(母・ガートルード対する嫌悪を含めて)に幻滅・絶望してオフィーリアを責め立てる場面は良いシーンですが、それだけでは少し弱い気がしますし。

 

ハムレットのオフィーリアに対する愛がいかに強かったかを表現してくれないと、ハムレットが独白で言う「かなわない恋の苦しみ」も、オフィーリアの死を知って涙ながらに言う「おれは愛してた、愛してた、オフィーリアを愛してた」も、胸に迫ってはこないですよ。

 

戯曲にそういう描写がないとしても、その余白を埋めて、観客を納得させるのも演出家の腕じゃないですか。

 

いろんな演出家のハムレットを観ましたけど、ここが曖昧だから、オフィーリアの悲劇が際立たないんですよ〜。

 

戯曲の本質さえ掴んでいれば、どんなに大胆な解釈で演出をしようと良いと思うんですよ。僕は。偉そうですけど。

 

手首に包帯を巻くことや、ローゼンクランツとギルデンスターンを男女にすることや、フォーティンブラスが率いる兵士が機関銃を持っていることとかがその時代にあったアプローチ(現代的解釈)と思っているのなら、この演出家はセンスがないなと思いました。もうそんなの逆に古くさいですよ。

 

演出家はこの『ハムレット』と言う戯曲をどう捉えているのか?、何を伝えたいのか? ほとんど伝わってこなかったです。物語の表層しか見ていないような演出で、物足りなかったですね。

 

最近は、海外から演出家を招いた舞台が増えましたけど、あまり満足のいく、僕の好みにあった舞台に当たったことがありません。日本にはもっと腕の良い演出家はたくさんいるのに、海外からわざわざ呼ぶ意味があるんでしょうか。

 

海外で有名な演出家と言っても、日本の俳優のことなど知っているはずないと思いますし、日本語のセリフの細かいニュアンスだって理解できないのに…。

 

中にはデヴィッド・ルボーさんのような演出家もいらっしゃいますけどね。

 

シェイクスピアに限らず、日本人が外国人を演じる翻訳劇の難しさを日本の演出家は皆さん理解されていて、海外の人が観ても恥ずかしくないものを作ろうと努力されていることを知っています。

 

日本人の演出家の方が、海外の戯曲だって深く読み込んでいることが多いと思います。

 

なんか、文句が多くなってしまいましたけど、岡田くんは良かったです。それだけですね。

 

吉田鋼太郎さんの演出で、岡田将生くんの『ハムレット』観たかったな〜。

 

 

 

 

 

 

 

 

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