こんにちは。

 

明けましておめでとうございます。

 

今年も自分の書きたいものを書きたいときに書いていきます。

 

どうぞよろしくお願いします。

 

新年1本目は、新派百三十年 十一月新派特別公演『犬神家の一族』です。

 

昨年、11月に観劇したまま、感想を書けていませんでした。

 

『犬神家の一族』 新橋演舞場

〈スタッフ〉

◎原作:横溝正史さん(「犬神家の一族」角川文庫)

◎脚色・演出:齋藤雅文さん

◎美術:古川雅之さん

◎照明:北内隆志さん

◎音楽:甲斐正人さん

◎効果:内藤博司さん

◎協力:株式会社KADOKAWA

 

〈キャスト〉

◎宮川香琴:水谷八重子さん

◎犬神松子:波乃久里子さん

◎犬神竹子:瀬戸摩純さん

◎犬神梅子:河合雪之丞さん

◎犬神佐清・青沼静馬:浜中文一さん

◎野々宮珠世:春本由香さん

◎金田一耕助:喜多村緑郎さん

◎古館恭三:田口守さん

◎橘警察署長:佐藤B作さん

ほか

 

「犬神家の一族」は、横溝正史さんが書かれた長編推理小説で「金田一耕助シリーズ」の一本です。雑誌『キング』に1950年1月号から1951年5月号まで掲載されました。

 

横溝さんの作品としては『八つ墓村』と並んで映像化回数が最も多い作品で、特に市川崑監督による1976年公開の映画版は、メディアによって「日本ミステリー映画の金字塔」と称されています。

 

この映画版は、幼い頃より、何度観たかわかりません。初めて観た時の衝撃と感動は未だに忘れられないですね〜。

 

それ以来、「監督・市川崑」というお名前は僕の胸に深く刻まれることになります。

 

2016年に、角川映画誕生40年を記念して「角川映画祭」が開催された時に、「犬神家の一族」は角川映画の第一作目ですから、デジタルリマスターされて上映されたので、友人と観にいき、久しぶりに大きなスクリーンで再見して感動を新たにしていたところです。

 

原作は発表当時から、市川監督の映画が公開されるまで、通俗長編であるとして、探偵小説の評論家の間では評価がそれほど高くはなかったのですが、市川監督の映画が大ヒットし、次々とテレビドラマ化されるにつれ、一気に評価が覆りました(笑)。

 

評論家なんてそんなもんですよ〜(笑)。

 

僕は原作も何度か読んでいますが、初めて読んだのは映画版を観る前で、犯人の知らない事後共犯者がいるという設定が新鮮で、驚いた記憶があります。

 

横溝正史さんの書かれるミステリーは、犯人が犯行に及ぶ動機が、哀切極まりない物語が多くて、胸を揺さぶられるんですよね〜。

 

市川崑監督の映画版で、犬神松子役の高峰三枝子さんが、死んだと思っていた息子、佐清が生きていると知った時に「佐清に、佐清に合わせてください」と声を振り絞るように叫ぶシーンは観るたびに目頭が熱くなります。

 

昨年の12月24日のクリスマスイヴの日に、アイドルグループ「NEWS」の一員、加藤シゲアキさんが金田一を演じたスペシャルドラマが放送されましたね。

 

相当、市川崑監督の映画版を意識した、真似した?(笑)作品だったように感じましたが、それほど市川崑監督の映画版は、横溝作品を映像化する時のお手本として魅力的であり、名作なのだと感じました。

 

横溝正史さんの「金田一耕助」シリーズは、日本探偵小説の歴史において金字塔を打ち建てただけでなく、日本の映像史においても不朽の名作シリーズとして、たくさんの人々の心にあざやかな印象を残し、平成が終わろうとしている現在に至るまで、色あせることなく愛され続けています。

 

NHK BS2プレミアムでは、長谷川博己さん主演で『獄門島』、吉岡秀隆さん主演で『悪魔が来りて笛を吹く』をドラマ化し、次は『八つ墓村』だそうですが、あえて『犬神家の一族』を避けているのかなぁ〜(笑)。いつかこのNHKのスタッフでも『犬神家の一族』を映像化してほしいと僕は思っています。

 

その名作に、劇団新派が創始百三十年を迎えた記念作として『犬神家の一族』を上演すると聞いた時から僕はワクワクしていました。

 

昨年の6月に、三越劇場で観た、『黒蜥蜴 ―全美版―』が面白かったので、新派がどんな風に舞台化してくれるのかとても興味がありましたから。

 

【物語】

私立探偵の金田一耕助(喜多村緑郎さん)は、信州でその名を馳せる犬神財閥の顧問弁護士・古館(田口守さん)の依頼を受け、那須へと赴きます。一月前に他界した犬神家当主・犬神佐兵衛(中田浄さん)の遺産相続にまつわる遺言状のただならぬ内容に、一族の争いを予感した古館に助力を仰がれた金田一は、那須湖の湖畔にある通称「犬神御殿」での遺言状公表の席に連なるのです。

 

この場には、佐兵衛の腹違いの娘たち、松子(波乃久里子さん)、竹子(瀬戸摩純さん)、梅子(河合雪之丞さん)ら、一族の者たちが集っていましたが、全財産を相続するのは三人の娘たちではなく、佐兵衛の大恩人の孫娘で犬神家に寄寓している野々宮珠世(春本由香さん)であり、その条件として珠世が松子の息子・佐清(浜中文一さん)、竹子の息子・佐武(河合穂積さん)、梅子の息子・佐智(喜多村一郎さん)のいずれかと結婚することが挙げられていました。

 

しかもこの条件が整わない場合には、全財産は佐兵衛の三人の孫だけでなく、かつて佐兵衛が寵愛した青沼菊乃(斉藤沙紀さん)の息子で、戦後行方不明となっている青沼静馬(浜中・二役)がより多く相続するという、想像を絶する内容でした。

 

この遺言に到底納得のいかない娘たちは、松子の息子・佐清が戦地で顔に大怪我を負い、白いゴムマスクで顔を覆っていることから、本物の佐清かどうかも疑わしいと反目を深めていきます。

 

その最中に佐武が花鋏で殺害される事件が勃発。駆け付けた橘警察署長(佐藤B作さん)と共に金田一は捜査を開始しますが、それは犬神家の三種の家宝「斧、琴、菊」を模した連続殺人事件のはじまりだったのです…。

 

久々に、大劇場で名女優のお芝居をガッツリ堪能できて大満足でした!

 

脚色・演出の齋藤雅文さんはこうおっしゃっていました。

 

まず「新派には、愛情のあまり殺人を犯す物語がたくさんあります。非常に情熱的な、情の強(こわ)い登場人物が多く登場する。『犬神家の一族』でも登場人物たちは、色や欲ではなく、愛情が深いばっかりに誰かのために何かをし、そのために話がもつれ…」という点。

 

そして「新派には古き良き日本を伝え、愛惜する情緒主義、センチメンタルなところがあります。過去の美しいものを遺したい。けれども滅んでいく、ないしは、別の生き方をしていくという作品の描き方が多い」と。

 

これを聞いた時、「遺産を巡る陰惨な物語を、最後、母の息子に対する深い愛の物語で締めくくるところは、新派大悲劇のようだ」という批評が新聞に書いてあったと、1976年公開時に映画版の「犬神家の一族」を観た方が言っていたことを思い出しました。

 

僕が、脚色・演出の齋藤雅文さんが良いなぁと思うところは、「黒蜥蜴」なら三島由紀夫さんの戯曲、「犬神家の一族」なら市川崑監督の映画版に作る側はどこか影響を受けたり、縛られたりしたりするものですが、齋藤雅文さんは原作を自分なりに受け取り、消化し、劇団新派ならこの原作をこう表現します。こう描きますという姿勢を明確にされているところです。

 

市川崑監督の映画版では省略された、犬神松子の琴の師匠・宮川香琴が実は青沼菊乃であったということも原作通り描いてありましたしね。

 

劇団を代表する名女優のお二人、水谷八重子さん、波乃久里子さんを並び立たせる手段だったのかも知れませんが、これは大成功だったと思います。

 

若い頃、犬神三姉妹から受けた非道な仕打ちを恨み、憎み、その怨念を心の奥底に秘め、生きてきた青沼菊乃が一人舞台でその積年の想いを振り絞るように吐露する場面は、水谷八重子さんの名演で涙が溢れそうでした。

 

水谷八重子さんといえば、昨年WOWOWで歌舞伎の演目である「籠釣瓶花街酔醒」を内田吐夢監督が映画化した『妖刀物語 花の吉原百人斬り(1960年)』を放送していて、水谷さんは岡場所あがりのふてぶてしい遊女から、男を騙し、翻弄し、やがて八ツ橋という花魁にまで上り詰める役を見事に演じてられるのを観たばかりだったので、感激もひとしおでした。

 

波乃久里子さんは、先月もCSで放送していましたが、幼い頃に観た、TBS系の『東芝日曜劇場』1200回記念として放送されたテレビドラマ『女たちの忠臣蔵〜いのち燃ゆる時〜』で、四十七士の身内なのですが、女郎に身を落とし、儚く無残に殺される、りえという女性を演じてられたのが印象に残っていて、その場面が泣けるんですよ〜。大好きな女優さんのお一人です。

 

市川崑監督の『吾輩は猫である(1975年)』の苦沙弥先生の細君役も良かったですね。

 

犬神佐清、そして青沼静馬を演じたのはジャニーズ事務所の浜中文一さん。僕は初めて拝見しましたが、佐清と静馬を仮面をかぶっていてもちゃんと身体の動きや、歩き方で演じ分けていて感心しました。

 

佐清に成り済ました静馬が、香琴を実の母だと知り、お茶を運んでくるシーンは、良かったですね。目が見えぬ香琴も薄々、これは自分の息子ではないかと気づく二人の間に漂う空気感が見事に表現されていたように思います。

 

金田一耕助を演じた喜多村緑郎さん。昨年の明智小五郎も素敵でしたが、今回も中々、お似合いでしたよ〜もじゃもじゃ頭が〜(笑)。

 

でも少し、控えめでしたね。もう少し、物語の中心にいても良かったのになぁと思いました。

 

犬神梅子役の河合雪之丞さんも存在感ありましたね。河合さんに合わせて、役柄を膨らませてありましたし、見せ場もありましたしね。

 

舞台美術がとても美しかったです。細部までとても丁寧に作り込んでありました。

 

新橋演舞場の舞台機構を無駄なく、ふんだんに使われていました。舞台は回るし、襖や障子は上から降りてくるし、横に滑るし、これぞ商業演劇だ!と嬉しくなってしまいました。

 

出演者の皆さんの発声と滑舌が良くて、セリフが明瞭で聴きやすく、劇団の良さってこれだなと感じました。セリフが聞き取りづらいとストレスですもんね〜。

 

ゲストの警察署長役の佐藤B作さんが張りつめた空気の中に時々挟み込んでくれる笑いもいいアクセントになっていて良かったです。

 

脚色・演出の齋藤雅文さんの複雑な人間関係や遺言の内容を過不足なく説明し、人物像をくっきりと描きだし、場面転換もスムーズで物語を飽きさせずスピーディーに進行させる手腕が見事でした。

 

吹き替えをつかった回想シーンや、佐武が殺される展望台のシーンなど美しく表現されていました。

 

有名な湖に突き出た二本の足のシーンは、もう少し迫力が欲しかったかなあと思いましたけど。

 

でも、日本人の感性でしか描けない横溝ミステリーの世界観を舞台化するのに、劇団新派ほど相応しい劇団はないかもしれないですね。

 

人間の理性では抑えることのできない強い感情や深い心理や哀しみを描き出せる劇団はもう新派しかないんじゃないでしょうか。

 

しかもそれをエンターテイメントとして形にして魅せてくれる魅力的な存在ですしね。

 

これからの新派の新しい姿をみせてもらった気がします。

 

良い舞台を観させていただきました。

 

次は…『女王蜂』を舞台化してくれませんか。

新派にふさわしいと思いますけど〜。

期待しています。