こんにちは。

 

11月のことなになりますが、三島由紀夫さん原作の『命売ります』が初舞台化され、池袋の「サンシャイン劇場」で上演されました。

 

友人と観て来たので、今日はその感想を書いておきます。

 

2018 PARCO PRODUCE “三島 × MISHIMA”

〈スタッフ〉

◎原作:三島由紀夫(「命売ります」ちくま文庫) 

◎脚本・演出:ノゾエ征爾さん

◎美術: 深沢襟さん

◎照明: 吉本有輝子さん

◎音楽: 田中馨さん

◎音響: 井上直裕さん (atSound)

◎衣裳: 駒井友美子さん

◎ヘアメイク: 西川直子さん

◎演出助手: 神野真理亜さん 

◎舞台監督: 榎太郎さん

◎宣伝美術: 成田久さん 

◎ヘアメイク: 岡田いずみさん

◎企画: 田中希世子さん

◎プロデューサー: 藤井綾子さん

◎制作: 松田紗奈さん/井上 肇さん

◎企画製作: 株式会社パルコ

〈出演〉

東啓介さん 上村海成さん 馬渕英里何さん 莉奈さん 樹里咲穂さん 家納ジュンコさん 市川しんぺーさん 平田敦子さん 川上友里さん 町田水城さん 不破万作さん 温水洋一さん ノゾエ征爾さん 

 

1968年に「週刊プレイボーイ」に連載された、三島由紀夫さんの小説「命売ります」は、1998年の文庫版刊行以来、累計発行部数29万部超。そのうちの25万部は2015年7月以降の重版と、昨今改めて注目を浴びているんです。

 

三島由紀夫さんの小説と言えば、難しい、敷居が高いという方が多いですが、「命売ります」のようにさらりと読めて、面白い、その時代に沿ったエンターティメント小説もたくさん書かれていますから、若い方にも敬遠せずに読んでもらいたいですね。

 

演出をされたのは、脚本家、演出家、俳優でもある、「劇団はえぎわ」主宰のノゾエ征爾さん。

 

ENBUゼミナールの松尾スズキゼミを経て、青山学院大学在学中の1999年にユニット「はえぎわ」を始動。以降、全作品の作・演出を手掛けられています。

 

2012年、第23回はえぎわ公演『○○トアル風景』により第56回岸田國士戯曲賞を受賞されました。

 

劇団外の活動も多い方ですよね。

 

今回、お顔を拝見していて、どこかで見た顔だなぁ〜と思っていたのですが、大塚製薬の「賢者の食卓」という商品のCMに出てらっしゃる方でしたね〜(笑)。声が素敵ですよね。

 

1月には、 BSジャパンで、 中村蒼さん主演でドラマ化もされました。ナレーションは美輪明宏さんだったんですよ〜。

 

『命売ります』はこんな物語です。

ある日ふと「死のう」と思い立った羽仁男(はにお・東啓介さん)は服薬自殺を図りますが未遂に終わります。

 

その日から、新聞に「命売ります」と広告を出し、商売を始めます。一度失敗した自殺を繰り返すのは億劫だったので、誰かにあまり深い意味もなく、あっさり殺されたかったのです。

 

さっそく謎の老人(温水洋一さん)から、ある人物(不破万作さん)の愛人になっている若く美しい妻るり子(莉奈さん)を殺してほしいという依頼が入ります。指示どおりに行動すれば、羽仁男はきっと妻と共に、その人物に殺されるだろうというのです。

 

そして二人の浮気現場を目撃し、望みどおりの絶体絶命のピンチを迎えたと思いきや、羽仁男はなぜか無事に帰されてしまうのです。

 

その後も、図書館の貸し出し係の女(家納ジュンコさん)、吸血鬼の母(樹里咲穂さん)と息子(上村海成さん)、部屋を間貸しする女(馬渕英里何)と、個性的な女達が、次々に命の買い手として現れます。

 

そのたびに「今度こそ死ぬ」と期待するのですが、やはり羽仁男だけは生き残ってしまうのです… 。

 

これは偶然なのか?誰かが仕組んだことなのか?女たちに加え、謎の外国人(町田水城さん・市川しんぺーさん)、秘密組織など、全く別々の案件だと思っていた羽仁男を取り巻く人物がやがてひとつの線で繋がっていくのです…。

 

三島文学のファンの一人として、この原作がどんな舞台になっているのかという興味で観劇して来ました。

 

ノゾエ征爾さん、脚本、演出の舞台は初めての経験でしたが、

いやぁ〜面白い舞台でした〜(笑)。

 

個性的でお芝居の上手い、味のある役者さんたちが揃っていたので、キャストに助けられた舞台でしたね。

 

だからって、ノゾエさんの脚本、演出が不味いとは言ってないですよ〜(笑)。この舞台を観てノゾエさん好きになりました!

 

自分の命を商品として売りに出す青年、山田羽仁男(はにお)を演じた東啓介さん。初めて拝見しましたが、長身で佇まいに品があり、存在感のある誠実な演技に感心しました。

 

終演後、アフタートークショーがあり、東さんの素顔を垣間見ましたが、演技に対しての質問にもとても真摯に受け答えをされていて、羽仁男を演じていた時とまるでイメージが違ったので、ちゃんと役になりきってお芝居をされていたんだと感銘を受けました。

 

演じた役と素顔とのギャップがない人は、僕はどうも役者として信用できません(笑)。

 

まだ若いし、これからですから良い俳優さんになってほしいと思います。

 

『命売ります』はファンタジックなんですけれど、どこかシリアスな寓話のようで、三島さんが、発表された当時の若者に対して、「生きるとは、死とは?」とたまには真剣に考えてご覧と問いかけた小説のように感じます。

 

27歳の羽仁男は、有能なコピーライターでしたが、ふと「死のう」と思い立ち、自殺しようとするも失敗。もう一度挑戦するのが億劫になり、誰かに殺してもらおうと新聞に「命売ります」と広告を出すのですが、でも自分は「死にたい」わけではなく「死んでもいい」のだと言うのです。

 

「自殺は面倒だから誰かの手で殺してして欲しい」だなんて、ただの甘ったれの戯言のように思いますが、自分の命まで他人任せにするような、自分の行動や発言に無責任な若者に対して、三島さんなりの憤りがあったのかもしれないですね。

 

でも、三島さんの羽仁男を見る目は、どこか優しいのです。

 

こんな若者はいつの時代にもいますよ。僕は羽仁男のように、自分の命を簡単に投げ出したり、人生を他人任せにしようなどと今まで考えたこともありませんが、羽仁男の気持ちも良くわかるんですよ〜。

 

人の言うことにあまり歯向かわず、敷かれたレールを走っていればいつかは簡単に決まったゴールへたどり着けるのはわかっていても、どこか心は空虚でやるせない。

 

何をして良いのかわからない。生きる目的が見つけられない…。

 

若い時は誰しもありますよ。そういう時期がね。

 

でもそれは、いろんなことを経験し、人と出会い体験し、生きるとは何かを知ることが大事なんだよと、三島さんはこの作品で言っているように僕は思うのです。

 

長年小劇場界で活躍されて来た俳優さんたちが、周りをガッチリ固めてらして、劇場は池袋なのに、まるで下北沢にいるような感覚になる時もあり、楽しい時間を過ごせました。

 

昭和感溢れるアングラ劇のような仄暗い照明と、美術、セットのセンターでチカチカと瞬く「命売ります」のネオンが舞台を美しく彩っていました。

 

ストーリー展開は支離滅裂に感じるかも知れませんが、肩肘張らずに読める、こんなエンターティメント小説にも、かっちり三島さんの永遠のテーマ「人はどう美しく生き、死ぬのか」が込められているように思います。

 

三島さんに伝えたいですね。平成が終わろうとしている今でも、あなたの作品はこうしてたくさんの人に刺激と感銘を与え続けているのですよと。