こんにちは。

 

今日は、書きそびれていた『三月大歌舞伎』の感想を書いておきます。もう五月ですけど(笑)。

 

僕が観させていただいたのは、夜の部です。

 

まずは、四世 鶴屋南北 作、渥美清太郎 改訂『於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)』です。

 

これは通称「お染の七役」と呼ばれる、女方が七役を早替わりで演じることと、悪婆(あくば)という役柄を演じるのが見所のお芝居です。

 

1.お染 2.久松 3.奥女中竹川 4.後家貞昌 5.土手のお六 6.お光 7.芸者小糸の七役です。

 

悪婆と言っても老婆じゃないんですよ〜(笑)。亭主や恩義を受けた人、好きな人のために悪事を働きますが、立役の実悪のように根っからの悪人ではありません。女だてらに啖呵を切ったり喧嘩したりする、伝法な女のことなんですが、どこか抜けた、可笑しみのあるキャラクターなんです。

 

今回は、その七役のうちの一役「土手のお六」が登場する、「小梅莨屋」と「瓦町油屋」二場の抜粋上演でした。

 

土手のお六を演じられたのは、坂東玉三郎さんです。

 

玉三郎さんはインタビューで、「体力的な問題もあって「莨屋」と、「油屋」の強請しかできないので申し訳ない」とおっしゃっていました。

 

玉三郎さんの口から、そういう言葉を聞く時が来たんだなあと思い、少し寂しい気もしましたが、それは仕方のないことなのかも知れませんね。

 

でも、舞台に立たれている玉三郎さんを観ると、全然、年齢のことなど感じませんけどね〜。

 

『於染久松色読販』こんな物語です。

◎小梅莨屋の場

以前、竹川に仕えていた土手のお六(坂東玉三郎さん)は、今は莨屋(たばこや)を営んでいますが、恩人、竹川から盗まれた家宝の名刀義光と折紙(保証書)が油屋(質屋)にあることがわかったが、それを請けだすために百両必要だから何とかしてほしいという手紙を受け取ります。

 

お六が思案に暮れていると、そこに亭主の喜兵衛(片岡仁左衛門さん)が帰って来ます。喜兵衛の方は、刀と折紙を質入した百両を使い込んでしまったので何とか金を作れないものかと考えています。名刀義光を盗み出して油屋に入れたのは喜兵衛だったのです。

 

そこへ嫁菜売りの久作と髪結いの亀吉がやってきます。久作は額に怪我をしていました。亀吉に髪を撫で付けてもらいながら油屋と喧嘩をしたことを話します。その時破れた半纏と、その代わりにもらった袷の直しをお六に頼んで久作は去っていきます。

 

その話を聞いていた喜兵衛は、久作が預けた袷に油屋の符牒があることを知り、最前お六が預かった棺桶の中の死体に細工をして、油屋を強請ろうと思い付きます。お六もその妙案に賛成して、竹川に頼まれた百両の金を作ろうと考えるのです。

 

◎瓦町油屋の場

つまり、あんたたちに殴られてけがをした久作が死んだと。お前らが殴ったせいだと油屋にいちゃもんをつけて百両取ってやろうという魂胆です。

 

油屋の店先にやってきた土手のお六。久作から預かった袷を見せ「怪我をさせられた嫁菜売りは自分の弟で、昨日死んだ」と言い出し、亭主の喜兵衛に籠にのせた死体を運ばせます。

 

「弟は喧嘩の傷が元で死んだのに、一分の金と古着の袷では割りにあわない、百両出せば料簡する」と言いがかりをつけるお六と喜兵衛。ちょうどこの家へきていた山家屋清兵衛は死体の脈を見て不審に思い、大きな灸を死体の腹にすえはじめるのです。

 

そこへ本物の嫁菜売り久作が昨日の礼を言いに姿を見せます。すると死体が息を吹き返しました。よくみればそれは油屋乗っ取りをたくらんでいる善六が金をやって追っ払ったはずの丁稚久太郎でした。

 

善六は、蔵にあった名刀義光と折紙(保証書)を持ち出してしまうよう多三郎(お染の兄)をそそのかし、それを見ていた丁稚久太郎を油屋から追い出していたのでした。

 

久太郎はもらった口止め料で河豚鍋を食べ、食あたりをおこして気を失っていただけでした。お六と喜兵衛の計画は失敗し、空の籠を担いで引き上げるのでした…。

 

玉三郎さん演じる悪婆「土手のお六」の美しい悪女っぷりに酔いました〜(笑)。今回はお六が玉三郎さん、喜兵衛が仁左衛門さんというすばらしい配役。二人の息の合った強請りっぷり、格好良さに惚れ惚れいたします

(笑)。

 

お六がゆすれば、喜兵衛がなだめ、喜兵衛が脅せば、お六が諌める…。悪事の連係プレーもバッチリ。息のあった名演技です。

 

玉三郎さんのお六と仁左衛門さんの喜兵衛は昭和52年(1977年)年以来41年振りだったそうです〜!

 

そして計画が露呈し、空籠を担いでスゴスゴと帰るところの可笑しさ。素晴らしかったです。

 

悪人を光り輝くように魅力的に描き出す、鶴屋南北が大好きです。

 

二場抜粋ではなく、全幕通しで観てみたいな〜と思いました。もう、玉三郎さんは演ってはくれないんでしょうか〜。もっと玉三郎さんの悪女がみたいですぅ〜(笑)。

 

凄味たっぷりの仁左衛門さんもカッコ良かった〜。

 

次は『神田祭』です。

 

江戸の三大祭の一つで、「天下祭」として知られる神田祭の祭礼の様子を清元の舞踊にした一幕です。江戸の風情漂う粋でいなせな鳶頭(片岡仁左衛門さん)と芸者(坂東玉三郎さん)が祭の様子や、色模様を、江戸の情緒を溢れんばかりの華やかさで踊られました。

 

観ているこちらが、恥ずかしくなるくらい、イチャイチャと、じゃれ合いながら踊るお二人の姿が真実味が込もっていて圧巻でした〜(笑)。

 

舞台美術も艶やかで至福の時間でございました〜。もっと観ていたい〜と思いました(笑)。

 

この日の幕間の食事は、友人が予約しておいてくれた、歌舞伎座の中にある『吉兆』でいただきました。

 

ちょっと贅沢をさせてもらいました。とても美味しかったです(笑)。さすが名店ですね〜。滋味でした〜。本当はじっくりとお料理を味わいたかったんですけど、幕間ということもあり、時間もあまり無く、慌ただしかったのが少し残念でした。

 

次は、泉鏡花さん 原作 坂東玉三郎さん 演出

『滝の白糸』四幕です。

 

『滝の白糸』は泉鏡花さんが、故郷金沢を舞台に、二十一歳の若さで書いた新聞小説「義血侠血(ぎけつきょうけつ)」を花房柳外さんが脚色したものです。

 

明治28年、川上一座が駒形浅草座で初演し、翌年の暮れ、喜多村緑郎さんが白糸を演じ賞賛を博しました。

 

昭和になり花柳章太郎さん、そして初代水谷八重子さんへと引き継がれ劇団新派の当り狂言となった名作です。

 

白糸は、演出を担当された玉三郎さんの当たり役の一つですし、今回、白糸を演じた中村壱太郎さんの祖父坂田藤十郎さんも中村扇雀時代の1962年に演じられています。

 

歌舞伎座での上演は1981年8月以来で、歌舞伎俳優だけでの上演は今回初めてだということです。

 

こんな物語です。

女水芸人「滝の白糸/本名:水島友(中村壱太郎さん)」は旅座仲間の南京出刃打(なんきんでばうち)の寅吉一座とことごとく対立していました。危機を救ってくれたのが高岡で乗合馬車の御者として働く村越欣弥(尾上松也さん)でした。そのことを忘れられない白糸は、ある夜、金沢を流れる浅野川に架かる卯辰橋で欣弥と再会します。

 

欣弥が金のために学問を断念したことを知った白糸は、自分が仕送りをすることを約束し、欣弥を支援するのです。欣弥への仕送りはしばらく続きますが、人気の低迷とともにそれもままならなくなり、また若い芸人仲間を駆け落ちさせるなどして南京出刃打の恨みを買ってしまうのです。

 

白糸は一座のために高利貸しの岩淵から金を借りましたが、300円を持って帰るときに南京にそれを強奪されてしまいます。岩淵と南京はグルだったのです。

 

それを責めようと白糸は岩淵のところへ戻りますが、誤って岩淵を刺し殺してしまうのです。白糸は勉学に励む欣弥の元を訪れますがあえなく逮捕されてしまいます。

 

白糸の裁判で、検事として検事席に立つのは、学業を終え、検事になったばかりの欣弥でした。

 

罪を認めようとしない白糸に欣弥は正直になって欲しいと懇願し、法廷で切々と真実の大切さを説くのです。

 

欣弥の言葉に白糸は凶行を自白し、舌を噛んで自殺してしまいます。その後を追うように欣弥もピストルで命を絶つのでした…。

 

僕は歌舞伎座でこのお芝居を観たのは初めてでしたが、観終わった後、良いお話だなぁ〜とあらためて思いました。

 

新派の舞台を観たことがありましたし、有名なお話ですしね。

 

ラストシーンで二人が死んでしまった時、やっとこれで二人は結ばれたのだと思いました。

 

二人は大変な苦労をして、ここまでたどり着いたのに、運命の悪戯と言いますか、こんな形で理不尽にも自ら命を立たなければならなくなった若い二人の魂の哀しさと美しさに、瞼が熱くなってしまいました。

 

でもですね〜、僕が感動の余韻に浸っていたら後ろの座席から、女性二人の話し声が…。

 

「えっ〜、こんな暗い話だとは思わなかった〜」

「重いわ〜。なんで死ななきゃいけないの〜?」

 

「中村壱太郎って三田佳子の息子?」

 

僕はズッコケました〜(笑)。最後の言葉に〜(笑)。

 

鏡花さんが書かれた、『滝の白糸』にしても『日本橋』にしても『婦系図』にしても、今の感覚からしたら理解しがたい古臭い物語なんでしょうか〜。悲しいですね〜。

 

歌舞伎的ではない玉三郎さんの演出と、悲しい結末に客席が少し戸惑っている感じは受けましたけどね。

 

最後の裁判所のシーンは良かったですよ〜。欣也役の尾上松也さんの、切々と白糸にかける言葉の奥に秘められた愛の深さが僕の胸を打ちました。

 

二人は検事と被告人という立場で向き合うことになってしまいましたが、二人の間には長い間積み上げてきた、誰も立ち入ることができない、清らかな時間が流れているのです。

 

愛する人を裁かなければならない苦しみに耐えながら、白糸の魂を救いたいと願う欣也の誠実な心に涙が零れそうになりました。

 

そう思う僕って古いのかなぁ〜(笑)。

まあ、そんなに若くはないけど〜(笑)。

 

死を賛美しているとは思いませんが、泉鏡花さんの書かれたものの全てに共通する、俗世間に揉まれながらも、「清らかさと誇りを失わない魂は美しいのだ」というテーマを強く感じさせる作品でした。

 

素晴らしいお芝居を堪能させていただいた一日でした。

ありがとうございました。

 

 

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