こんにちは。
明治22(1889年)年に開場した歌舞伎座は、今年で130年を迎えたそうです。
そんな2018年の歌舞伎界は、実の父、子、孫である三人が同時に襲名するという、希有な大イベントで幕を明けました。
いまや歌舞伎界の重鎮で、『ラ・マンチャの男』で1970年、日本人として初めてアメリカ・ブロードウェイで主演を果たされ、海外でも活躍し、『アマデウス』や『王様と私』などのミュージカルや現代劇でも当たり役を持つ<父>九代目松本幸四郎さん(75歳)が、二代目松本白鸚を。
その長男で、幼少のころからスター性で注目され、古典歌舞伎では高麗屋の役柄の広さを更新しつつ、新作歌舞伎から劇団☆新感線、アメリカ・ラスベガスでは「獅子王」や、フィギュアスケートと歌舞伎の初共演「氷艶』『破沙羅』など固定観念にとらわれない無限大の活躍を続ける<子>市川染五郎さん(44歳)が、十代目松本幸四郎を。
その長男で、父譲りの紅顔の美少年ぶりで話題の<孫>松本金太郎さん(12歳)が、八代目市川染五郎の名をそれぞれ引き継がれました。
37年ぶり、歌舞伎史上2度目の直系三代の同時襲名です。
松本幸四郎改め 二代目 松本白鸚
市川染五郎改め 十代目 松本幸四郎
松本金太郎改め 八代目 市川染五郎
1月、2月とこの『高麗屋』さんの襲名披露を運よく観せて頂くことがで来たので、今日はその感想を書いておきます。
僕が観せていただいたのは、1月の『寿 初春大歌舞伎』の夜の部と『二月大歌舞伎』の昼・夜の部です。
その中の『高麗屋』さんが出演された演目の感想を書かせてもらいますね。
この記念すべき公演の祝幕のデザインを手がけたのは草間彌生さんでした。歌舞伎座の引幕は、「定式幕」を用いますが、今回のような襲名披露興行に後援会や懇意にしている個人から俳優に提供される特別な引幕が「祝幕」と呼ばれます。『口上』をはじめ襲名演目上演の際に「定式幕」の替わりに使用されることが多いのです。
草間さんが2009年から精力的に取り組んでいる大型の絵画シリーズ『わが永遠の魂』の中から、2017年に制作された3点の作品を並べたデザインでした。
松本幸四郎さん自ら、作品のファンである草間さんに、デザインをオファーされたそうです。
歌舞伎座で草間彌生さんの作品にお目にかかるとは思っていなかったので、驚くと同時に、新・幸四郎さんのこの襲名に賭ける並々ならぬ決意と熱い想いが、草間さんの作品からも伝わってくるようでした。
1月の『寿 初春大歌舞伎』からまずは『襲名披露 口上』です。
中村吉右衛門さん、市川左團次さん、中村又五郎さん、片岡孝太郎さん、中村七之助さん、片岡愛之助さん、中村扇雀さん、中村歌六さん、中村魁春さん、坂田藤十郎さん、松本白鸚さん、松本幸四郎さん、市川染五郎さん、片岡秀太郎さん、中村雀右衛門さん、中村芝翫さん、中村勘九郎さん、市川高麗蔵さん、坂東彌十郎さん、中村鴈治郎さん、中村東蔵さん、中村梅玉さんら総勢22人が顔を揃えての口上は圧巻でした〜。
襲名披露公演の「口上」は、襲名を寿ぐとともに、先代への敬意を表し、名前によって記憶される芸の歴史を歌舞伎界全体で後世につなぐことを誓う場でもあるんです。
裃姿の役者さんがずらっ〜と並び、順々に神妙に、時にユーモアを交えた挨拶をされてゆく光景は、華やかで、観ているこちらも晴れがましい気分になりました〜。
続いて、新・幸四郎さんが二度目の弁慶を勤める歌舞伎十八番の内『勧進帳』。
天保11年に初演された『勧進帳』は、能の「安宅」を素材にした長唄の舞踊劇です。
◎こんな物語です。
源氏と平家の戦が終わった直後のことです。世の中は一応落ち着きを取り戻しましたが、平家討伐に多大な貢献をしたはずの源義経(新・染五郎さん)は、政権掌握の野心を疑われて兄、頼朝と仲違いをし命を狙われてます。
義経は、武蔵坊弁慶(新・幸四郎さん)をはじめとする家来たちとともに山伏に化けて、奥州平泉へ逃げようとしています。 義経一行は京の都を脱出し、北陸道を北上すべく安宅の関(あたかのせき)を通ろうとしますが、義経一行が山伏に化けているらしいとの情報が伝わっていたので、関守の富樫左衛門(中村吉右衛門さん)は一行の通過を拒否します。
これに憤慨した弁慶は勤行(時間を決めて仏前で読経をすること)を装い、仲間と富樫に仏罰が下るように祈りを唱えます。富樫は弁慶に「勧進帳(仏像の建立修理の資金集めに、行く先々で口上を言うための原稿)」を読んでみるよう命じます。弁慶はたまたま持っていた巻物を勧進帳であるかのように装い、朗々と読み上げるのです(勧進帳読上げ)。なおも疑う富樫は山伏の心得や秘密の呪文について問い質しますが、弁慶は淀みなく答えるのでした(山伏問答)。
弁慶の機智により、関所の通過を認められた一行でしたが、富樫は一番最後に関所を出ようとした強力(荷物持ちに雇われた下男)が義経に似ているのに気付きます。
緊迫した空気に包まれますが、弁慶は金剛杖を振り上げ、「迷惑をかけるな」と義経を打ちすえます。
これを見た富樫は、一行が義経主従と察しながら、弁慶の主君を思う心に打たれ、通行を許可します。
関所を無事に通過した義経は弁慶の働きを讃えます。それを聞き泣いて弁慶は詫びるのです。この場面は弁慶と義経、二人の心の繋がりの深さが描かれていて涙を誘います。
そこに富樫が現れ「先程は失礼をした」と酒を弁慶に勧めます。「わかった上で逃がしてくれたんだな」と悟った弁慶は富樫に請われて「延年の舞」を舞い始めます。
その隙に一行は出発します。ひとり残った花道で、弁慶は富樫に深く一礼します。
そして弁慶は、花道を「飛び六法(両足を交互にはずませ飛ぶように踏む歩き方)」で豪快に、先に逃げた義経たちの後を追うのでした…。
『勧進帳』は歌舞伎の代表的演目のひとつですし、七世松本幸四郎さんが生涯の当たり役として演じてこられたものです。
そして八世幸四郎(初世白鴎)さん、九代目幸四郎(新白鴎)さんを経て新幸四郎さんへと受け継がれた『高麗屋』さんにとって大切な演目ということもあるし、今回は襲名ということもあり、新幸四郎さんは緊張されていたと思いますが、見事な弁慶を魅せてくれました〜。
僕は新白鴎さんが幸四郎さんだった時の弁慶を観ていますが、新幸四郎さんの弁慶は、お父様の弁慶にリスペクトを持ちつつ、お父様の表現方法とは違う、新しい弁慶像だったと思います。これが私の考える「弁慶」ですという新幸四郎さんの想いと、まだまだ模索中なのかもしれませんが、役に向き合う熱意がとても感じられました。
弁慶というと、力強くて、大男というイメージがあると思うのですが、もともとは比叡山延暦寺で幼い頃をすごし、優秀な学僧として有名だったそうなので、新幸四郎さんがもともとお持ちの清廉さと知的な容姿が実際の弁慶に近いような気がしましたし、新幸四郎さんは新しい弁慶像を作り上げていて僕はとても好きでした。
義経役の新染五郎さんはご子息ですが、新幸四郎さんはまだお若いし、主従の関係というよりも、大切な弟を思いやる兄という風情もあってカッコ良かったです〜(笑)。
円熟したベテランの演技はいいものですが、新幸四郎さんのように若いからこそ醸し出せる色気と表現もいいものですよ〜。
凛々しくて華やかな『弁慶』に感銘しました。
僕は新幸四郎さんのように、自分がやるべきこと、極めなければならない道を、真面目に誠実に、戦いながら前に進んでいる人が大好きです。
富樫役の中村吉右衛門さん、素晴らしかったです。これまで色々と吉右衛門さんの舞台は観させていただいていますが、いつも「う〜ん」と唸らせられる名優ですね。重厚で品があり、動きが美しいんですよ!
四天王が中村鴈治郎さん、中村芝翫さん、片岡愛之助さん、中村歌六さんと、襲名披露ならではの贅沢さでした。
次回は『一條大蔵譚』檜垣 奥殿です。
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