こんばんは。

 

浅利慶太プロデュース公演『オンディーヌ』を友人に誘われて観てきたので、今日はその感想を書いておきます。

 

浅利慶太さんは2014年6月に劇団運営会社「四季」の社長を退任され、「浅利演出事務所」を立ち上げ、演出家として活動を続けておられます。

 

『オンディーヌ』は、フランスの外交官・劇作家・小説家であるジャン・ジロドゥが書き、1939年にフランスで初演され、日本では1958年、浅利慶太さん演出で劇団四季により初演されました。

 

劇団四季が主にストレートプレイを上演するため、劇団四季の創立50周年記念事業として四季劇場[春][秋]の隣に2003年にオープンした『自由劇場』で今回観劇したのですが、その自由劇場のこけら落とし公演は『オンディーヌ』だったそうです。

 

劇団経営から離れられ、新たなステージへと踏み出された浅利慶太さんが「浅利演出事務所」公演第1弾作品として選ばれたのも『オンディーヌ』でした。

 

劇団四季にとっても浅利慶太さんにとっても、とても特別で大切にされてきた戯曲のようですね。

 

『オンディーヌ』
〈スタッフ〉
◎作:ジャン・ジロドゥ
◎訳:米村 あきらさん
◎台本協力:水島 弘さん
◎演出:浅利 慶太さん
◎装置:土屋 茂昭さん
◎照明:吉井 澄雄さん
◎衣裳:レッラ・ディアッツ
◎音楽:諸井 誠さん
◎作詞:岩谷 時子さん

 

〈出演キャスト〉
オンディーヌ:野村玲子さん
騎士ハンス:近藤真行さん
水界の王:山口嘉三さん  
ベルタ:坂本里咲さん  
ユージェニー:斉藤昭子さん  
オーギュスト/牛飼い: 御友公喜さん  
侍従:坂本岳大さん  
王妃イゾルテ: 五東由衣さん  
王:斎藤譲さん  
ベルトラム:桑島ダンテさん  
詩人:松本博之さん  
マトー/漁師:中井智彦さん  
サランボー:松井美路子さん  
裁判官Ⅰ:久保亮輔さん  
裁判官Ⅱ:和田一詩さん  
劇場支配人/漁師:佐々木誠さん  
ウルリッヒ:白倉裕人さん  
召使い:近藤利紘さん  
皿洗いの娘:齊藤奈々江さん
水の精:川畑幸香さん 桂川結衣さん 友部由菜さん 大胡愛恵さん 中西彩加さん 倉澤雅美さん 古庄美和さん 鈴木亜里紗さん ほか
 
【オンディーヌ】こんな物語です。
水の精・オンディーヌ(野村玲子さん)はもうじき15歳。人間の娘として貧しい漁師のオーギュスト(御友公喜さん)、ユージェニー(斉藤昭子さん)夫妻の許で暮らしています。ある晩そこに遍歴の騎士・ハンス(近藤真行さん)が立ち寄り、運命を感じた二人は将来を共にすると誓いを交わします。しかしそれは水界の掟に背く行為であり、水界の王(山口嘉三さん)はオンディーヌにある”契約”を言い渡すのです。その契約とは今後ハンスが他の女性に心変わりをしたら、ハンスの命とオンディーヌの記憶を永遠に奪うというものでした。

 

オンディーヌはハンスとの愛を貫き人間界で暮らし始めるのですが、ハンスは次第に元の恋人であるベルタ姫(坂本里咲さん)に気持ちを移していくのです。このままではハンスの命が奪われると危惧したオンディーヌは、彼の命を護る為に自らが心変わりをしたと嘘を吐き、ハンスの前から姿を消すのですが……。
 
僕はこの『オンディーヌ』というお芝居を観るのは今回が初めてでしたが、過去に観たことがある友人にぜひ一度観て欲しいと熱望され、劇場に連れてこられました(笑)

 

僕は『オンディーヌ』は劇団四季の創立以来、約500回の上演回数を数える四季を代表する舞台で、過去に加賀まりこさんがオンディーヌを演じたらしいというくらいの知識しかなくストーリーも何も知らずに今回観劇させていただきました。

 

自由劇場での公演は2011年以来だったそうですが、今回の公演は浅利慶太さんの意向で、若い世代の観客にも肩肘を張らず観て欲しいということで台本を大幅にカットし、3時間を超えていた上演時間を休憩2回込みで約2時間40分まで短縮されたんだそうです。

 

そのせいでしょうか、研ぎ澄まされたと言いますか、とても凝縮された濃密な愛の物語に時間もあっという間に過ぎていったという印象です。

 

幼い頃に読み聞かせてもらった、ヨーロッパの古い童話や民話を思い出すような懐かしさに包まれるような物語に最後まで引き込まれてしまいました。

 

素晴らしい戯曲だと思いました。珠玉という言葉がピッタリな、時を超えて輝き続ける名舞台の一つだと思います。感動しました。

 

オンディーヌは水の精なのですが、西洋には古くから天使や悪魔以外に、地・水・火・風の四大元素にも精霊が宿るとする考え方がありのだそうです。それぞれ地(Gnome)、 水(Undine)、 火(Salamander)、風(Sylph) と呼ばれていて、これらの元素精霊の中で、水の精 Undine だけが美しい姿を持つことができるのだそうです。
   
 オンディーヌは水の精なのですが、人里離れた深い森の奥に潜む湖のほとりで、ひっそりと暮らす人間の漁師の老夫婦、オギュストとユージェニィの養女として成長しました。オンディーヌは人間では無いので、普通の女の子とは違います。悪く言えばお騒がせで落ち着きのない、自分勝手な言動と行動で周りを振り回す、困ったちゃんです。

 

しかしそれは悪気があるわけではなく、純粋で汚れがない無垢な心の持ち主だということなのです。オンディーヌを見ていると『透明』という言葉が浮かびます。

 

お世辞も言えない、人に気を使わない、裏表のない天真爛漫なオンディーヌは人間から見れば手に負えない、とんでもない存在かもしれませんが、その汚れのなさゆえの悲しみと言うのでしょうか、観ているうちにオンディーヌの行動や言葉にどんどん胸が切なくなってきて何度も瞼が熱くなってしまいました。

 

旅の途中で宿を借りたいと突然やってきた騎士ハンス・フォン・ヴィッテンシュタインの凛々しく美しい姿にオンディーヌは恋をしてしまうのです。ハンスの方も天衣無縫のオンディーヌにいつしか心を奪われてしまいます。

 

水界の王はハンスの貞節を疑い、結婚に反対しますが、オンディーヌはそれを振り切って人間界へと嫁いでいくのです。もしハンスがオンディーヌを裏切ったときは、彼の命を奪ってもよいという契約を取り交わして…。

 

ハンスは立派な騎士と言っても所詮、人間ですからね。
人間は世俗や欲に流されるものです。わかりますよね。
ラストは悲しみで胸がいっぱいになります。

 

ハンスを愛しながらも、妖精であるが故に愛を失わざるを得ないオンディーヌの純粋無垢な心が、いかに現実の人間の世界とは相容れないものであるかが見事に描かれています。

 

オンディーヌを演じた野村玲子さん。本当に素晴らしかったです!

 

最初は「え〜、15歳、ちょっと無理があるんじゃない?」な〜んて不謹慎(失礼ですよね。すいません。)なことを思って観始めましたが、野村玲子さんはオンディーヌそのものでした。無邪気で可愛くて無色な女の子、オンディーヌに成り切ってらっしゃいました。これこそ演じると言うことなんだと感動しました。

 

自然の掟の中で永遠を生きるしかない妖精オンディーヌが出逢った、逃れられない宿命的で幻想的な愛の物語を堪能しました。

 

心が洗われるようでした。

 

これからも大切に、時代を超えて上演され続けて欲しい戯曲だと思います。