こんばんは。

8月1日(土)、2日(日)に2夜連続で『TBSテレビ60周年特別企画「レッドクロス~女たちの赤紙~」』というスペシャルドラマが放送されました。

作品については様々な意見や批判、感想があるようですが、僕は久しぶりに心を揺さぶられるTVドラマを観させていただきました。何度も涙が流れました。年なんでしょうか~(笑)。

今から70年前、自らの信念で戦時召集状、いわゆる「赤紙」を受け取り、戦地に赴く女性たちがいたのです。第二次世界大戦中、「従軍看護婦」として3万5千人余りの女性が戦地に赴き、1,120人が殉職されたそうです。

彼女たちは戦地で負傷した兵士の傷の手当や命を救う仕事に誇りと崇高な理想を持って働き、今や当たり前の“女性の社会進出"の先駆け的存在でもあったのです。

しかし日本の敗戦の色が濃くなるにつれ、彼女たちの運命は大きく狂わされてゆきます。戦後も続く過酷な試練。逆境にあっても博愛の精神を持ち続け、生きることと命の尊さを信じ続けた女性たち…。

戦争で家族と別れ人生を翻弄されながらも「博愛」の精神、そして家族への愛を貫いた松嶋菜々子さん演じる、天野希代という1人の「従軍看護婦」として生きた女性の生き様を、満州事変から第二次世界大戦、朝鮮戦争の時代にわたって描いたドラマでした。

「従軍看護婦」をテーマにした作品は過去にも若尾文子さん主演、増村保造監督、有馬頼義さん原作の「赤い天使(1966年)」という名作がありますね。この作品は優れた反戦映画の1本だと思いますが、今回のドラマ「レッドクロス~女たちの赤紙~」も現在のTVという制限の中で、出来る限りの表現で、戦争という大きな歴史の渦に飲み込まれながらも、人間はどう生きるべきなのかを熱く問いかけた質の高い作品だったと思います。

『TBSテレビ60周年特別企画』ということもあり、戦後70年という節目の年でもあり、TBSが総力を挙げて取り組んだ作品というわけですね。さすがドラマのTBSの名に恥じない作品でした。

〈出演〉
松嶋菜々子さん 西島秀俊さん  工藤阿須加さん(少年期:中村瑠輝人さん) 山崎努さん 浅茅陽子さん 赤井英和さん 高梨臨さん 柴本幸さん 中島ひろ子さん 橋本さとしさん 笑福亭鶴瓶さん 小松拓也さん 他

〈ナレーション〉
倍賞千恵子さん

〈スタッフ〉
演出/福澤克雄さん 脚本/橋本裕志さん 音楽/ 千住明さん
挿入歌 /Yaeさん「名も知らぬ花のように」
赤十字監修 /川原由佳里さん(日本赤十字看護大学)
歴史監修 /加藤聖文さん(国文学研究資料館)
軍事指導 /越康広さん 長谷部浩幸さん
特殊メイク/飯田文江さん 岡田槙さん
ガンエフェクト/BIGSHOT
企画/瀬戸口克陽さん
プロデューサー/伊與田英徳さん 川嶋龍太郎さん 藤井和史さん
協力/日本赤十字社

物語です。
◎第一部
1931年、佐賀の女学生・天野希代(松嶋菜々子さん)は、かつて入院していた母・絹江(浅茅陽子さん)を看護した看護婦に憧れ、将来は看護婦になりたいと必死に勉強します。そして「女性でも国の役に立ちたい」という思いから、赤十字の従軍看護婦になることを決意し、厳しい訓練に耐え、無事に看護婦養成所を卒業します。希代は赤紙を受けとり、祖父・大祐(山﨑努さん)や母・絹江、同じく従軍看護婦を目指す女学校の後輩・馬渕ハル(高梨臨さん)ら大勢に見送られながら、満州(中国)に渡るのです。しかし待っていたのは、赤十字の信念である「博愛の精神」とはかけ離れ、銃弾が飛び交い、常に命の危険に晒されるという予想を上回る過酷な環境でした。

毎日手が足りないほど多くの負傷兵の看病をし、泥のように眠る毎日を送っていたある日、満州開拓団の中川亘(西島秀俊さん)がケガ人を運び込んできます。一人は中川の義兄・光(赤井英和さん)、もう1人の患者は中国人の孫(柏倉裕太さん)でした。希代は軍医の大竹英世(笑福亭鶴瓶さん)を説得し孫を治療しますが、中国人を助けたという事が、あるきっかけで病院の責任者・蔵原中佐(橋本さとしさん)にばれてしまうのです。敵も味方も関係なく治療するのが赤十字の精神だと信じる希代は激しく葛藤するのです。その後、希代は中川亘と結婚。長男・博人(高村佳偉人さん、中村瑠輝人さん、工藤阿須加さん)に恵まれますが最愛の夫・亘とは、胸を引き裂かれる悲痛な別れが待っていました。

◎第二部
ソ連軍が満州へ侵攻し、希代は博人と離れ離れになってしまいます。希代達は、同じく逃げ遅れた溝口少佐(吉沢悠さん)らと共に博人達のいるハルピンを目指すのですが。希代の身を案じた博人といとこの中川大地(市村涼風さん)は、逆にハルピンを離れかつて暮らしていた千振へ向かい、途中で裕福な中国人・楊錦濤(薄宏さん)の命を救い、楊錦濤にかくまわれることななります。一方、ハルピンの陸軍病院に着いた希代ら一行は、元同僚の志津(中島ひろ子さん)らと再会し終戦を迎え、溝口らと避難民の治療に専念するのでした。そして博人が陸軍病院近くの楊錦濤邸にかくまわれていることを偶然知り涙を流すのです。
しかし喜びもつかの間、ソ連軍のハルピン侵攻、さらに中国軍に共産党への協力を強いられ、希代はまたも博人に会うことがかなわず、すれ違ってしまうのです…。
中国全土に吹き荒れた革命の嵐は博人たちを我が子のように可愛がっていた楊にも及び、博人、大地は楊の家から放り出され、再度放浪の身になります。
次第に朝鮮戦争が始まり、希代と博人…親子の運命はさらに翻弄されていくのです…。
 
このドラマの企画が上がったのが3年前だそうです。編成部の瀬戸口克陽さん(現在は制作部)の元に、ドキュメンタリーの企画として「女たちの赤紙」が上がってきたんだそうです。

瀬戸口さんはこうおっしゃっています。「鐘が鳴ったといいますか、ハッと気付かされたといいますか。従軍看護師と言われれば確かにと思うのですが、当時、自ら赤紙を受け取り、戦地に赴いた女性がいたことが、恥ずかしながら深く認識されていませんでした。自戒の念も込め、これは語り継ぐべき物語、ドラマの形で多くの人に届けたいと思いました」と。

そうなんですよ~。ドキュメンタリーはNHKに任せておけばいいんですよ~(笑)。まだTV界にこういう企画を形に出来る、骨のある人がいることにうれしくなります。

瀬戸口さんは大学生だった1993年、ビートたけしさん主演のTBSドラマ「説得―エホバの証人と輸血拒否事件」に心を揺さぶられてこの道へ入られたんだそうです。当時、話題でしたからね。この事件もドラマも。TBSはドラマ史に残る名作を数多く作っているんですよね。

今回、瀬戸口さんが作られた「レッドクロス~女たちの赤紙~」を観て、こんな作品を作りたいと思う若い人たちがいてほしいと思います。

脚本を書かれたのは、TBSドラマ「華麗なる一族」、「運命の人」、「LEADERS リーダーズ」や映画「テルマエ・ロマエII」「ビリギャル」などの脚本で知られるヒットメーカー・橋本裕志さん。決定稿が完成したのは、今年5月中旬のクランクインの約1週間前だそうです!

実話ではないオリジナルストーリーなので、モデルという人もいないわけですから、時代背景を勉強されて、いったん自分の中に取り込んで消化させて物語を構成するのは、ものすごい労力だったと思います。とても筆力のある方ではないでしょうか。

ヒロイン希代役の松嶋菜々子さんをはじめ、一人一人のキャラクターの性格や発する言葉が嘘くさくなく、とても生き生きと見えました。

演出はTBSのディレクター福澤克雄さん。平成15年度、文化庁芸術祭大賞(テレビ部門)を受賞した『さとうきび畑の唄』や平成25年度、東京ドラマアウォード2014で監督賞、作品賞グランプリ、第78回ザテレビジョンドラマアカデミー賞監督賞を受賞した『半沢直樹』が印象深いですね~。『華麗なる一族』も好きですよ~(笑)。

とてもオーソドックスに迷いのない演出をされる方だという印象があります。小手先の奇抜な映像のテクニックをひけらかすようなことは決してさず、映像で語り、人の心を掴む力のある作品を作られる方だと思います。キャスティングのセンスもいいですね~。

戦争で家族と別れ人生を翻弄されながらも「博愛」の精神、そして家族への愛を貫いた天野希代という1人の女性の生き様を演じきった松嶋菜々子さん。素敵でした。2000年に放送された「百年の物語 Only Love」という作品を思い出していました。また良い作品に出会われましたね。女優としてやり甲斐のある作品だったでしょうね。

実際の日本赤十字社の救護看護婦さんたちは、先の大戦では、戦場で傷ついた多くの傷病者を救護するため次々と戦地へ旅立っていったのです。女性の身でありながら、出征兵士と同様、「召集状」と書かれた赤紙1枚で動員され、各地で救護班が編成され、 その派遣先は満州や中国大陸、東南アジアにまで及び、傷病将兵や一般人の救護に当たりました。しかし、戦況の悪化とともに過酷な勤務を強いられ、戦闘行為に巻き込まれたり、終戦後も長期に抑留されたりするなど、筆舌に尽くしがたい運命をたどったのです。

ドラマで描かれた希代の人生は過酷なものでしたが、それ以上に厳しく、悲しい運命に翻弄された女性たちが戦場ではたくさんいたことを忘れてはいけません。自らの命も顧みず、多くの尊い命を救った従軍看護婦さんたちの言葉を語り継がなければいけないと思います。

このドラマを製作された方々のそんな真摯な熱い想いが伝わる作品でした。

人間としての尊厳や自由や誇りや、ささやかな愛までも全てを奪う「戦争」を僕は憎みます。これからも年に一度でいいのです。戦争というものの愚かさ、虚しさに気づかせてくれる作品を作り続けてほしいと思います。


人気ブログランキングへ