こんばんは。

もう1週間たってしまいましたが、先週の日曜日、新橋演舞場で「三月大歌舞伎」を観てきました。

観に行きたいと思っていた訳ではなく、チケットをいただいたのです。今月から勤めだした会社ではタイムカードや社員全員のスケジュール管理や社内情報などがいつでもそれぞれのパソコンでチェックできるようになっていて、その中に掲示板がありよく「歌舞伎のチケットをいただきました。ほしい方は管理課の○○まで」という書き込みがあるのです。

会社で劇場や映画会社と取引があるらしく、チケットを何枚かいただくらしいです。歌舞伎はあまり人気がないらしく、貰い手が少ないようで、僕の上司、女性なのですが「歌舞伎、好き? チケットあるらしいよ」と一緒に貰ってくれたのです。歌舞伎って昼と夜では演目が違うってことも忘れて、内容も確かめもせずに「昼の部」のチケットを貰い自分の席に戻ってから確認すると、昼の部が真山青果作「荒川の佐吉」と「仮名手本忠臣蔵 九段目 山科閑居」夜の部が「佐倉義民伝」「唐相撲」「子さん金五郎」でした。

歌舞伎は好きですが、それほど詳しいというわけではなく、昼の部の演目が「忠臣蔵だ。良かった。知ってる話で。」と思ったくらいでした。歌舞伎の観劇料って1等A席で15,000円もするので、なかなか劇場へは足を運べないし、もっぱら家で劇場中継で楽しむばかりだったので、こうやってチケットをいただけるのはありがたいですね。

歌舞伎座は来年の新装に向けてただ今、改築中なので新橋演舞場での公演でした。演舞場は歌舞伎座や松竹本社ビルの近く、東銀座にあり、銀座の中心から少し離れているので人の喧騒も少なくて、いい場所にあるんです。

新橋演舞場はその名の通り、新橋芸者の技芸向上を披露する場として建てられたんですよね。昭和15年に松竹の傘下になり歌舞伎以外にも「新派」、「新喜劇」1987年、創立70周年記念公演を最後に解散した「新国劇」、「前進座」などが公演を行う劇場として親しまれています。藤山寛美さん率いる「松竹新喜劇」の東京公演はいつも演舞場でしたよね。

僕は今回、演舞場は久し振りでした。前回は1999年、もう13年も前ですね~。松たか子さんが初座長を努めた「天涯の花」というお芝居でした。「鬼龍院花子の生涯」などの小説でおなじみの宮尾登美子さん原作の小説の舞台化作品でした。この時も想い出がありまして、亡くなったヘアメイクアーティストの友人がデビュー間もない松たか子さんと、あるパンメーカーのCM撮影で仕事を一緒にしていて、その縁でこのお芝居のチケットをとっていただいたんです。友人はプライペートで芸能界の方と付き合うのは馴れ合いになりすぎると良くないと言っていて、楽屋見舞などもなるべく自分からは控えたいという性格だったのですが、劇場のロビーでばったり松たか子さんのお母様と遭遇し、友人に言わせると見つかっちゃって、「ぜひ、お芝居が終わったら、楽屋にいらしてください」と言われ、一緒に付いていき、僕もその時、松たか子さんにお合いさせていただいたんです。とても清楚な方で、お嬢様って感じでした。今でもその印象は変わってないですね。いい想い出です。

今回の「三月大歌舞伎」は松本幸四郎さんと市川染五郎さんがメインのお芝居が多いので、松たか子さんのお母様、つまり幸四郎さんの奥様、いらっしゃいましたよ。演舞場のロビーに。幸四郎さんの歌舞伎以外のお芝居の時も必ずいらっしゃいますよね。青山劇場で観た「ラ・マンチャの男」の時もル・テアトル銀座で観た「アマデウス」の時も。いつお合いしても上品でお綺麗な方なんですよね~。

想い出話はこれくらいにして、お芝居の話をしなくてはいけませんね。

平成24年 三月大歌舞伎 昼の部 演目です。

江戸絵両国八景「荒川の佐吉」
序 幕 江戸両国橋付近出茶屋岡もとの前の場より
大 詰 長命寺前の堤の場まで
〈配役〉
荒川の佐吉/市川染五郎さん 丸総女房お新/中村福助さん 
隅田の清五郎/市川高麗蔵さん 大工辰五郎/中村亀鶴さん
極楽徳兵衛/澤村宗之助さん お八重/中村梅さん
鍾馗の仁兵衛/松本錦吾さん 成川郷右衛門/中村梅玉さん
相模屋政五郎/松本幸四郎さん

仮名手本忠臣蔵 九段目 山科閑居
〈配役〉
戸無瀬/坂田藤十郎さん 大星由良之助/尾上菊五郎さん
小浪/中村福助さん 大星力弥/市川染五郎さん
お石/中村時蔵さん 加古川本蔵/松本幸四郎さん

最初の染五郎さん主演の「荒川の佐吉」何の予備知識もなく粗筋も知らずに観たのですが、泣けました~。原作は明治時代に劇作家であり小説家としても活躍した真山青果さん。

十五代目の羽左衛門という方が「最初はみすぼらしくて哀れで、最後に桜の花の咲くような男の芝居がしたい」と望んで書かれたもので昭和7年に初演され、近年では片岡仁左衛門さんが当たり役として演じてこられた役だそうです。染五郎さんは今回が初役だったようです。

粗筋を簡単にご紹介します。
荒川の佐吉は腕の立つ大工でしたが、やくざの世界にあこがれて、両国界隈を縄張りにする鍾馗の仁兵衛親分の三下奴として雑用をこなしていました。今でいうバシリみたいな感じですかね。その仁兵衛親分が喧嘩を売られ肩腕を斬られるという一大事が起きます。斬ったのは成川という浪人で「縄張りはもらった」と言い放ち、仁兵衛親分の次女お八重の恋人でもある子分の清五郎も斬り捨ててしまいます。体が不自由になった仁兵衛の一家は解散、大半の子分は成川にくら替えしましたが、佐吉はいつまでも仁兵衛を親分と思い仕えていました。ある日、仁兵衛が、日本橋の大店丸総の妾になっていた長女お新の生んだ卯之吉を抱いて帰って来ます。生まれた子どもが盲目だったために、世間体を考えた丸総によって子どももろとも離縁されそうになっていたお新のために仁兵衛が養育費をもらって、子どもだけ引き取って来たのです。次女のお八重はそんな父親に向って、実はお金がほしくて引き取ってきたんじゃないのかと父親を非難したあげく、佐吉と夫婦になって卯之吉を育ててくれと言われたことに腹を立て、家を出ていってしまいます。実際、お金目当てだったんですけどね。この次女の八重も落ちぶれてもお嬢さん気質が抜けない、気の強い女性なんです。三下風情なんかと一緒になれるもんかというんですね。心すさんだ仁兵衛は佐吉が止めるのも聞かずにイカサマ賭博に出かけ、殺されてしまいます。盲目の卯之吉を抱えて佐吉は悩みます。

それから6~7年後。佐吉は大工仲間だったの辰五郎の家に身を寄せて卯之吉を我が子のようにを可愛がり育てています。そんな時、丸総が卯之吉を返してくれと言ってきます。そして佐吉と卯之吉の運命は…。

最後の佐吉の決断が男として人として清々しいというか、切なくて涙がでました。最後のシーンは桜が彩やかに咲き誇る向島の土手での別れのシーンなのですが胸が熱くなりました~

僕は片岡仁左衛門さんの佐吉は観たことがないし、このお芝居も初めて観たのですが、染五郎さんの佐吉は素晴らしかったと思います。侠客の世界をのし上がった男の潔い生き様というのでしょうか。良くできたストーリーだと思いました。自分の実の子供でもない、それも目が不自由な、人から見ればやっかいな存在を愚痴ひとつ言わず、見返りもないのに献身的に育てあげた男の心情を染五郎さんは台詞の一つ一つをとても丁寧に語り演じられていました。素敵でした。

それともう一本、仮名手本忠臣蔵 九段目 山科閑居です。その前に30分の幕間があるのですが、観客のみなさんは一斉にお弁当を食べだすんですよ~。歌舞伎は長丁場なので、ここで食べておかないとお腹が空くんでしょうね。

粗筋を簡単に…。
雪が降りしきる山科の大星由良之助宅へ加古川本蔵の妻、戸無瀬が前妻の娘、小浪を許嫁である由良之助の息子の力弥に嫁がせるために訪ねてきます。しかし由良之助の妻お石は、今は浪人の身であることを理由に輿入れを拒否します。絶望をした母娘は自害をしようとしますがそこへ虚無僧に姿を変えた加古川本蔵が現れます。本蔵は塩治判官が高師直を討とうとするのを自分が抱きとめ、本望を遂げさせなかったことを深く後悔し、わざと力弥の手にかかり果ててしまいます。由良之助は我が身を捨てて娘の婚礼を懇願した本蔵の心に深く感じ入り、仇討ちの志を打ち明けます。本蔵から師直邸の絵図面を贈られた由良之助は、本蔵の虚無僧姿を借りて仇討ちに出立するのでした。

この九段目は忠臣蔵の中でも、忠義の為に犠牲になる親子、夫婦の情愛を描いた屈指の名場面だそうです。配役が豪華でしたね~。本蔵が幸四郎さん、力弥が染五郎さん。由良之助が菊五郎さん、戸無瀬が藤十郎さん、小浪が福助さんでした。

それぞれが心に秘めた想いが複雑に絡み合い、愛する者のために自分の命を捧げてもおしくないと思える人たちの献身というものの美しさを描いた、重厚な舞台でした。このシーンは映画やドラマではあまり取り上げられないと思うので、今回観れて新鮮でした。幸四郎さんの加古川本蔵、良かったですよ~。愛する娘を好きな男と添わせるために、故意に娘が愛する力弥の槍に突き刺されて、由良之助に瀕死の状態で「約束通りこの娘を、力弥に添わせて下さらば未来永劫御恩は忘れぬ。」と手を合わせて頼み込み、「忠義にならでは捨てぬ命、子ゆえに捨てる親心、推量あれ」と口説くシーンは引き込まれました。迫力でした~。余韻を引くお芝居でした。僕もいつか「高麗屋!」と叫んでみたいなあ~。

久し振りの生での歌舞伎鑑賞は、とても豊な気持ちにさせてもらいました。演舞場って客席も余裕があって、お弁当もコーヒーもおいしい良い劇場です。またチケットを貰って観に行きたいと思います。

見終わって、銀座三越のあたりに差しかかると、凄い人出なんです。なんだろうなあと思ったら、ユニクロ銀座店のオープンとアップルストア銀座店でiPad3が2日前に発売されたばかりだったようで、どうりでいつもより人が多かったんですね。その人込みをくぐり抜け、不二家銀座店でここでしか買えない「ミルキーロール」を買って帰りました。おいしかったです~。