こんばんは。

アカデミー賞衣装デザイン賞の受賞や北京五輪の衣装デザインなど
国際的に活躍したデザイナーの石岡瑛子さんが21日、膵臓癌のため
お亡くなりになりました。享年73歳。

突然の訃報でした。
昨年、NHKで放送された「プロフェッショナル 仕事の流儀」という
番組で、ブロードウェイで上演されるミュージカル「スパイダーマン」
の衣装デザインを初日ギリギリまでねばりにねばって、細かい修正を
妥協することなく繰り返されていたお姿を見て、石岡さんらしいな。
お元気でなによりと思っていたのがついこの間のようです。

石岡さんは東京芸術大学を卒業されて、1961年に資生堂に入社され、
アートディレクターとして活躍されます。1965年に資生堂は
サンオイルを中心に最初のサマーキャンペーンを展開したそうですが
売上げが思わしくなく、翌年、「太陽に愛されよう」をテーマに
前田美波里さんをモデルに起用し、若い健康美をアピールする
キャンペーンを実施。日本初の海外(ハワイ)ロケを行ったポスターは
大好評で店頭からポスターが持ち去られるという現象が起こるほど
話題になり、これが化粧品メーカーのプロモーションの歴史が始まる
きっかけだったそうです。このポスターのアートディレクションを担当
されたのが石岡瑛子さんです。新しい女性美を確立されたのですね。

1970年に独立されて、石岡瑛子デザイン室を設立されます。
パルコでは「モデルだって顔だけじゃダメなんだ」、
「鶯は誰にも媚びずホーホケキョ」、「裸を見るな。裸になれ。」など
新しい時代の女性像を刺激的に表現し、沢田研二さんをヌードにし、
男はこうでなければならないという固定観念を壊すようなビジュアルの
「時代の心臓を鳴らすのは誰だ」、ドミニク・サンダ、
フェイ・ダナウェイなど海外の女優を起用し、それまでの日本には
なかった広告のキャンペーンを手がけられ、常に新しい表現への挑戦を
続けられた方でした。石岡さんは書ききれないほどのお仕事をたくさん
残されています。石岡さんの作品を集めた「石岡瑛子 風姿花伝」という
作品集があるので興味のある方は是非、ご覧になってください。

石岡さんは演劇のポスターや映画ポスターのアートディレクションも
数多く手がけられています。有名なのはイラストレーターの滝野晴夫さんを
起用した、フランシス・フォード・コッポラ監督の「地獄の黙示録」の
ボスターですよね。僕はまだ公開当時は幼かったので実際のポスターは
見てはいないのですが、当時、ご覧になった方は結構インパクトがあった
のではないでしょうか。このポスターの仕上がりを監督のコッポラがいたく
気に入り、後の「ドラキュラ」の衣装デザインへと繋がっていくのですね。

僕のお気に入りは、ルキノ・ヴィスコンティ監督の遺作、僕の大好きな
「イノセント」の日本版ポスターも石岡さんがディレクションされて
いるのです。このポスターも傑作なんですよ。写真を撮られたのが
操上和美さん。ヘアメイクが野村真一さんで美しいヴィジュアルなんです。

これだけでも素晴らしいキャリアなのに、1980年に活動拠点を
ニューヨークに移され、映画、音楽、演劇、オペラなど多彩な分野で
アートデザインを担当されました。近年はターセム・シン監督の映画
『ザ・セル』『落下の王国』『インモータルズ -神々の戦い-』に続けて
参加されていました。

1980年以降に石岡さんが手がけられたお仕事を書いておきますね。

◎三島由紀夫の生涯を美術監督として描写し、世界で大きな評価を受けた
映画「MISHIMA」のプロダクションデザイン。
カンヌ映画祭芸術貢献賞受賞。

◎ジャズの帝王を唸らせた、アルバムジャケットのアートワーク。
マイルス・デイビィス「TUTU」。グラミー賞受賞。

◎舞台美術でプロードウェイに旋風を巻き起こした、
演劇「M.バタフライ」ニューヨーク批評家協会賞受賞。

◎レニ・リーフェンシュタールの波乱の人生と情熱の人生を辿った
展覧会の総合プロデュース、演出。
「映像の肉体の意志—レニ・リーフェンシュタール展」

◎誰も見た事が無いドラキュラ像。想像への執念。映画「ドラキュラ」
アカデミー賞衣装デザイン賞受賞。

◎天才マジシャンと組んで、不可能を可能にして見せた世界。
ブロードウェイプロダクション
「デビッド・カッパーフィールドの夢と悪夢」

◎日本初のグランドオペラを製作し世界のオペラ界に挑んだ
オペラ「忠臣蔵」

◎オペラの伝統を打ち破り、観客を翻弄するコスチュームデザイン。
オペラ「ニーベルングの指環」四部作

◎不気味でありながらセンシュアルなコスチュームデザイン。
映画「ザ・セル」

◎裸体のビョークを主題に、画期的なミュージックビデオを監督。
ミュージックビデオ ビョーク「COCOON」

◎究極のサーカスの魔法のコスチュームデザイン。
シルク・ド・ソレイユ「VAREKAI」

◎オリンピックの革命的ウエアのデザイン。
「ソルトレイク冬季オリンピック」

凄くバラエティに富んだ仕事の量でしょう?
「I DESIGN」という本にこれらの仕事にどう向き合い、
強者どもを前に一歩も引かず、主張し、戦い、悩みながら作り上げた
課程が石岡さんご自身の言葉で書かれています。とても感動的な本ですよ。
おすすめです。

広告の世界の隅っこで、ちょろちょろと生きてきた僕にとって、
幼い頃から憧れのクリエーターのお一人でした。今の日本にはあまり
見られないスケールの大きな革命的な時代を超えるようなデザインを
常に目指されていた素敵な方でした。尊敬していました。
日本人としての誇りをいつも大切にされてお仕事をされていた石岡さんは
憧れでした。石岡さんの新しい作品がもう見れないのはとても淋しいです。
でも残された作品はいつまでも強烈なインパクトで僕たちをいつまでも
刺激してくれると思います。

ご冥福をお祈りいたします。

「ドラキュラ」のDVDを見て、石岡さんを偲びたいと思います。
※いつの日か映画「MISHIMA」が日本でも上映される時が来ますように。