※BL・腐の意味がわからない方、これらの言葉に嫌悪感を抱く方は閲覧をご遠慮ください
またカラ一が嫌いな方もです

新しいジャンルに手を出しました。珍しいね。書いてみるよ。
私は目玉焼き醤油派なのでソース派の方々、ブチ切れないでくださいね。

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ふっと意識が浮上する。心なしか寒い。
冬の朝と寝起きの高い体温との差は激しく、しかしそれに晒されるのは火照った頭だけなので数分の間はそこに浸っていても気持ち良かったりするのだが、その頭だけではなく、いつもより身体が寒い気がする。
極日常的に起き上がり、隣を見ると自分以外誰もいなかった。寒さの謎が解けた。

がらりと襖を開けると柔らかく、良い匂いが肺を満たした。
目の前のちゃぶ台には自分以外の兄弟全員が揃って座り、皆既に食事にありついている。

「あ、おはよー、一松兄さん」
「やっと起きてきたか」

そう話しかけてきたのは末の弟と一つ上の兄。まあ、兄や弟と言っても六つ子なので歳は全員一緒なのだが。
それにしても、自分だけ遅い起床とは、仲間はずれにされているような、少し寂しい気持ちが心に湧いた。

「おはよ…なんで起こしてくれなかったの?」
「いやあ、何回も起こしたけどお前起きなくてさあ」

朝だというのに満面の笑みで答える長兄。先に食っててごめんな、と口では言うものの、あっけらかんとした態度からして謝っているようには到底見えない。何回も起こしたけど、とも言ったが、この人は表情一つ変えず平気で嘘をつけるので、この人が喋ったことは裏付けがないと基本信用できない。

「最終的にカラ松にキスしてもらったんだけどさぁ」
「あ、了解しました」

その裏付けもすぐにとれたので今回はおとなしく信じてみるが。
カラ松に関する情報だけは今までも正確だったので、今回もその通りなのだろう。
それにこのまま証拠を聞き続けたらどこにキスしたとかどんな感じだったとか生々しく伝えられるだろう。それは嫌だ。
そもそもそれ指図したの兄さんでしょ、と、チョロ松が大きめのひとり言を呟いた。やはりそうか。
目の前で噂されている当の本人はやはり阿呆なようで、本人がキメ顔と称する、朝から痛い表情を保っている。
しかし、仕草はいつも通りなのだが、何かがどこか不自然に思えた。ふと彼の手元をちらりと見やるとまだ手のつけられていない朝食が、綺麗な状態で置かれてあった。

「クソ松、てめえ飯食わねえのか?」
「フッ…お前を待っていたぜprettyなkitten……」
「一松兄さんを待ってたんだよ!これ見て!これ!」

十四松が指差した先を見ればそこには二つの目玉焼きがあった。けれど載せている皿は一つ。
大きめの白身に黄身が二つ、つまり双子の目玉焼きだ。

「さあ…この選ばれし神の食べ物を二人で祝福しようじゃないか……」
「二人ではんぶんこしたいから待ってたんだってさ!」

十四松はクソ松の翻訳家か何かなのか、と口をついて出そうになったが、へえ、とだけ返しておいた。きっと思考のぶっとんだ者同士、何か共鳴するものがあるのだろう。
それでわざわざカラ松の隣を空けておいてくれたのか、と十四松の純真さに感心しつつ、遠慮なく隣に座る。
一瞬、彼が動揺したのが窺えた。表情こそ保とうとしているようだが、それが逆にあからさますぎてバレバレだ。柄にもなく素直に隣に並んだので、何か裏があるのかと内心、歓喜と恐怖でせめぎ合っているのだろう。
自分だって朝から意味のわからない言葉で口説かれたら疲れるのでいつも通りの席につきたかった。これは眠気と空腹のせいにしよう、と己の心に言い訳をする。

せっかく待っておいてもらって悪いが、目玉焼きの美味しそうな匂いと誘うような照り具合に我慢ならず、さっさと箸をつけた。あっ、という悲痛な叫びが隣からあがる。

「お前…そんな簡単に二人の仲を……」
「キモいこと言うな。どうせ食ってなくなるんだ」

彼の制止も聞かず、そのまま箸を進める。我ながら綺麗に二つに分けられた。
黄身の色身と膨らみ具合、そして突(つつ)いた感触からして、母は自分好みの半熟で作ってくれたのだろう。六つ子で同い年とは言え、一応弟の方を優遇するらしい。

(というかそもそも、母さんはなんで分けて作らなかったんだ…?)
「『あら双子ちゃん!可愛いわね!珍しいしこのまま焼いちゃおうふふ』って機嫌よさそうに作ってたよ母さん!」
「十四松、お前はエスパーニャンコの兄弟か何かか?」
「えっ、俺?俺兄さんと兄弟だよ!やだなー忘れちゃったの?」

これ以上十四松に構っていたらこちらが無駄な体力を消耗するだけなので、目玉焼きに視線を戻した。
皿から紫色のご飯茶碗へと引っ張り移し、まじまじと眺める。薄く張った白い膜へ徐に箸を一本突き刺すと、ぷつり、と一瞬身が揺らいだ。しかし中身が流れ出ることはない。
穴を開けたのに漏れてこない。それは箸で塞いでいるから。
同じ箸で刺したのだから穴の直径も同じなので当たり前なのだが、穴を開けたのに一ミリたりとも流れ出てこないこと、一松はそれに神秘を覚えるのだった。
食べたいけど動かしたくない、眺めていたい。そんな葛藤を胸に抱え、いざ二本の箸で縦に裂こうとしたその時、横から不快な視線を感じた。

「……何」

残りの一本を黄身に寄せたところで手を止め、あからさまに不機嫌そうな低い声で威嚇する。

「えっ?あっ、いや……」
「うるさいんだけど」
「えっ、何も喋ってな、」
「視線が」
「……すまん」

チッ、とわざとらしく舌を打ち、先程の躊躇いはどこへやら、一気に黄身を引き裂き醤油を注いでかき混ぜた。
半球の隙間からとろりと液体が溢れ出たのも束の間、すぐさま原形はなくなった。
すると再び、あー、と残念そうな声が耳に入る。

「何」
「いや、いいのか?」
「何が」
「その、とても大切そうに眺めていたから」

バレていたのか。確かに十数秒前は神秘をひっそりと崇めていたがこいつのせいでそれも消え失せた。
しかし悟られた相手が相手だからか、妙に苛立つ。こいつが隣にいる時にやるんじゃなかった、と後悔したが、けれど目玉焼き恒例の儀式みたいなものなので恐らく今後もやめられないだろう。好奇心とはなかなか消えない曲者だ。

「は、大切も何も、どうせ食ってなくなるもんだろ」
「確かに可愛いよな、玉子の黄身」

思わず目を瞠った。だが表情に出にくい体質のはず、瞳が揺らいだのは刹那的な出来事だし動揺は悟られていないだろう。
彼はどこまで人の心を読む気なのだろうか、それとも自分が知らないだけで実は顔に出やすいほうだったのだろうか。
そう、可愛いのだ、目玉焼きの黄身が。愛らしいフォルムをしていて、見ていて気分が高揚するし感動する。だから食卓に出される度心の中で小さな葛藤が起こる。

感情や思考を読み取られることに慣れていないせいか、焦りで心拍数が上がっていく。心なしか頬も熱い気がするが、きっと気のせいだ。そう自らも騙さないと平静など装えない。
極自然を意識して彼を見やれば、普段のどこかずれた悟り顔ではなく、無垢な笑みを浮かべていた。

「目玉焼きを眺める一松が可愛くて、ついみつめてしまった。すまんな」

その一言で平静などどこかへ飛んでいってしまった。顔だけでなく、体温までもが急激に上昇する。異常な胸の鼓動も、諦めて認めると余計に大きく、速まってしまったように聞こえた。
やめろ、そんな、気の抜けた笑顔を向けるのはやめて。お願いだからいつもみたいに格好のつかない自意識過剰な表情でいて。
それが本音だというのはよくわかったから、これ以上僕の心臓を刺激しないで。

「……あっそ」

とりあえず誤魔化すように、彼の目玉焼きに箸をつけ、それを彼の口許まで運んだ。
こうすれば煩い口を塞げるだろうと、捻くれた言い訳を心の内でする。実際荒々しく切り取ったので明らかに一口では食べきれない量を彼に押し付けてしまった。カラ松は突然の出来事に驚きつつも、食べ物を粗末にしてはいけないという教えがあるからか必死に食いついていた。口許が見事に汚い。
尚、彼に触れたかったからという本音は知らぬふりをして奥底に閉まった。
まあ結局それも見抜かれていた、と食後に思い知ることとなるのだが。

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◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇あとがき◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
珍しく流行りに乗れたよカラ一。
めだまやきはんぶんこ…?はんぶんこしてるけど特にメインでもなかったね。
でも実は色々萌え要素をぶっこんでみたよ(隣にカラ松がいないと寒い、寂しいとにおわせる・実は隣に座れて嬉しい・めだまやきはんぶんこ・めだまやきに感動するイッチ・「あーん♡」)。相変わらずベタのほのぼの好き。

個人的にカラ松は黄身固め(完全に死んだ黄色じゃなく真ん中あたりに赤っぽい新鮮味が残ってるぐらい)で、一松は本文に書いた理由(ぷすっと刺すのが楽しい、眺めていたい)で半熟派だといいなあと。
隠しているつもりでも周りにはバレバレなイッチ可愛いです。何に関しても。

ちなみに私は目玉焼き、カラ松のところに書いた黄身の硬さが好き。元々半熟派だったんだけどね?なんでだろうね・・・?
そしてずっと醤油。醤油でしか食べたことないから醤油。

ではでは(*^ー^)ノ