※BL・腐の意味がわからない方、これらの言葉に嫌悪感を抱く方は閲覧をご遠慮ください。

また閻鬼が嫌いな方もです。

遅くなりすぎましたすみません師匠。暗所恐怖症日和、閻鬼ver.です。

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開廷前、珍しく余裕を持って法廷に来た閻魔は、浄玻璃鏡で人間界の様子を見ていた。

自分の担当区域である日本を見てみると、一人のサラリーマンが、酷暑の中ハンカチで次々と吹き出る汗を拭いながら外回りに出かけているのが見えた。

あの世に季節はないため、現世の真夏がどれほど辛いかはわからないものの、閻魔はお疲れ様、と心中で呟くと同時にあることを思い出す。



「鬼男君、今日閉廷したら地獄の見回りに行こうよ。」



同じく開廷前、こちらはいつも通り決められた時間に出勤していた秘書の鬼男に話しかける。

彼は持ってきた資料を閻魔の机に置くことを一時止め、わざわざこちらに振り向いて答えた。



「そうですね。暫く行ってませんし。大王と僕だけですか?」


「うん、そうだね。仕事終わっても快く付き合ってくれるのは君しかいな、ゴファッッ!」


「お前がいつもちゃんと仕事してたら残業慣れなんざしなかっただろうなあ?」


「すみませんでした・・・。」



開廷前だというのに閻魔は一言余計なせいで早くも血だらけになってしまった。

秘書に爪で刺されようが、相手の言っていることは正しいので反論も何もできない、ので仕方がない。

しかし閻魔は人間ではないので傷はすぐに回復するためどうってことはないし、何よりこれが秘書との普段のやり取りだ。

これ自体には何とも思わないのだが、彼がこちらを見た時、一瞬曇った表情が見えたような気がして、それが閻魔には引っかかったのだが、この後開廷準備で慌しくなると、そんなことは頭から離れてしまった。


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閉廷後。

彼等は目で合図をすると、地獄の入り口へと歩み寄った。

天国への入り口には階段の向こうに扉があるのに対し、地獄の入り口はぽっかりと穴が開いていて梯子がかけられている。

しかもその梯子は案外長い上暗いので、己の刑を受ける地獄にたどり着く前に、降りている途中バランスを崩し、落下して負傷する亡者も少なくはないようで、時々亡者の悲鳴と鈍い音が聞こえるのだ。



「大王・・・ここの梯子、強化しませんか?それか天国式にするとか・・・。」



穴を覗き込むなり鬼男はぽつりと呟く。

天国へ行く方法がこれならば閻魔も考えただろうが、地獄逝きのどうしようもない奴等に慈悲などない。

それに自分等も頻繁にここを通るわけではないので考えたこともなかった。



「うーん、ま、いいんじゃない?別に。」



彼の言うことはどちらの意味なのかははっきりとしなかったが、投げやりな答えとさっさと梯子を降りていってしまったことから、特別な理由でもない限り直す気はないのだろう、と鬼男は悟った。

相変わらずだなあ。

鬼男は小さくため息をついてから、閻魔の後を追った。


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「・・・あの、灯りとかないんですか?」



暫く歩いていると、鬼男はおずおずと口を開いた。

実は入口から地獄までそれなりに距離があるのだが、そこでは灯り一つない。

いや、ちゃんとたどり着けるようにと一応提灯お化けを配属してはあるのだが、閻魔達のやっていることは時間外労働、いわゆる残業なので、地獄で夜間担当の鬼以外は皆帰宅してしまったのだ。

普通の灯りを用意すればいいのだろうが、そこはコスト削減というわけで。



「地獄の切り盛りもお金大変だからねー。」


「ここでも一応金取られるのか・・・。ん?でも彼等の給料のほうが電球より高いのでは・・・?」


「いやー、はっはっはっ。それなりに理由があるのだよ。」



またしても適当にはぐらかされてしまった。

すっきりしないまま鬼男は自分なりに理由を考えてみる。


そういえばここにコンセントなんてあるわけがないし、取り付けるとしても設置費用もかかるだろう。明かりは現代に合わせてLEDになるだろう。

しかし電球でなくても普通の提灯を提げたらどうだろうか。

いや、それもやがて憑喪神やらなにやらで結局提灯お化けになり、従業員が増えるよりかは今いる提灯お化けを配属したほうが長い目で見てコストの負担が少ないのだろうか。


色々考えてみたが、結論としては、結局閻魔がただ面倒くさいだけなのだ、ということに至った。


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鬼男が何やら考え込んでいる間に、閻魔は先程から妙な違和感を覚えていた。

気のせいか彼が自分にひっついている、まではいかないが、普段と比べるとかなり近くにいるように感じたのだ。

暗闇なため真相はわからないが、それでも服を引っ張られている、という感覚ははっきりとあった。



「・・・鬼男君?君、もしかして、俺の服掴んでる・・・?」



もしこれが本当だろうが勘違いだろうが、どちらにせよ爪で刺されるのだろうと閻魔は覚悟していた。

応対に違いがあるとすれば、刺す時の表情ぐらいだろう。



「・・・え?あ、す、すみません。」



しかし彼の口からは弱々しく言葉が漏れただけだった。

同時に彼は手も放したが、もしかしたら彼を傷つけてしまったのではないのだろうか、と、閻魔は少し罪悪感を覚える。



(別に放してほしかったわけじゃないんだけどなぁ・・・。)



惜しいことをしたものだ、と閻魔は口を尖らせながら後悔する。

欲を言えば、珍しく鬼男に頼られている感じがしたのでむしろ掴んでいてほしかった。

再び掴んではくれないかと、心のどこかで淡い期待を抱いたものの、望みは薄い。


そう、半分諦めていたのだが、どういうわけか再び後ろから服を引っ張られるのを感じた。

閻魔は初め驚いたが、それをすぐに表には出さず、そのまま気づかないふりをして歩き続けた。

どうやら相手は出来るだけ気づかれないように、閻魔の歩調に合わせて力を調節しているみたいなのだ。

それでも時々ずれは生じるので、彼の行動は筒抜け状態なのだが。


数分前学習したばかりの閻魔は、卑怯だとはわかっていながらも、再び指摘して手を放されたら惜しいので暫くは良い気分を味わおうと、少しの間だけ黙り通すことにした。


(なんで鬼男君、こんなに俺にひっつくんだろう・・・。)


普段の彼なら強気で、一人で何でもこなしていそうな、頼りがいのある秘書なのだが、

一体何が原因で珍しく自分を頼るような素振りを見せているのだろうか。

そう考えているうちに閻魔はあることを思い出した。


それは今朝の話だ。

浄玻璃鏡を見て、今日仕事が上がったら地獄の見回りにいかないか、とおもむろに聞いたとき、一瞬覗かせた彼のうかない顔。


(そういえばあの後すぐバタバタしちゃって忘れてたんだよね・・・。)


あれは見間違いなどではなかったのだとして考えると、あの時からおかしいことになる。

それから妙に気になっていたことといえば、入口の梯子強化や、ここの通りに電気をつけろ、と提案したことだ。

彼ぐらいの身体能力ならば梯子から落ちるわけはないだろうし、ここの通りだって、案内の鬼がいるところまでは一本道なのだ。迷うわけもないし、第一鬼男はそれを知っているはずだ。

そして、閻魔の服の裾を握り締めて歩く、という奇行。



(・・・あ、もしかして・・・!)


「鬼男君、暗いところ苦手?」


「えっ、」



くるりと後ろを振り返って閻魔が唐突に自分の考えを述べると、鬼男の肩が跳ね上がった。

流石に夜目が利いてきた閻魔は、彼の反応を見る限り考察があっていたのだと解釈をする。


それに対して鬼男は何か言い返そうと慌てて口を開いたが、図星だったためか、言葉が見つからずパクパクと口が動くだけだった。

数秒経てども言葉が出てこない。

そこで鬼男は、深く息を吸い、観念したかのようにため息をついた。



「大人なのに、馬鹿みたいですよね。」


「全然馬鹿じゃないよ。誰にでも苦手なものはあるもん。それよりも何でそれを言ってくれなかったの?」


「・・・恥ずかしいじゃないですか。」


「俺の服掴んでいるよりも?」


「!」



みるみるうちに鬼男の頬が紅潮していく。

実際は暗闇なので色味ははっきりと見えないが、表情と、掌から伝わる体温でわかる。

ずっとバレていないとでも思っていたのだろうか。

閻魔は、そんな彼がとても愛おしく思えた。



「ふふっ、可愛いなあ。」


「・・・るせっ。」



熱くなった顔も、それを隠そうとする手も、目線をわざと逸らそうとするところも、ぶっきらぼうな態度も、言葉も。

閻魔にとっては、鬼男の全てが愛おしい。



「後ろにいても怖いんじゃない?だから、ほら。」



閻魔は微笑を浮かべながら左手を差し出した。

鬼男はそれを見てから、ニコニコと上機嫌な閻魔の顔を暫しじっとみつめる。

それが腑に落ちなかったのか、顔を赤らめたまま少し眉を寄せる。

しかし暗闇の怖さには勝てなかったのか、案外素直に己の右手を重ねた。

相手の体温を確認すると、閻魔は満面の笑みで、彼の手をぎゅっと握り締める。



「じゃ、いこっか!

 おばけなんてないさ、おばけなんてうそさっ♪」


「大王・・・僕、おばけは怖くありません、というか普段おばけだらけで生活してるでしょうが・・・。」



上司の余計な計らいにつっこむも、表情はそれに伴わない、くしゃりとした笑顔の秘書であった。



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゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ 後書き゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚

うおおおおおおおお遅くなってごめんなさい餡蜜師匠様あああああああああああ!!!

いやはや書いている途中でネット回線ブチ切れとかなってそれから数日使えなくて云々。

そしてくそ長くなっちゃってごめんなさい。視点がコロコロ変わっちゃってごめんなさい。


言いたかったことは、地獄の見回り行くとき暗い通りがあって、そこが怖いよっていう鬼男君。

んで閻魔の服掴んで耐え忍ぶ鬼男君。可愛いね。

そして閻魔がそれに気づいて最終的に二人ともおてて繋いで見回りとかね。

閻「二人で来た意味ないけどまあいいか・・・。」みたいな。(二手に分かれて見回るつもりだった)


餡蜜師匠・・・素敵な合作(?)お誘いありがとうございました!!!(*^▽^*)


ではでは(*^ー^)ノ