※BL・腐の意味がわからない方、これらの言葉に嫌悪感を抱く方は閲覧をご遠慮ください。
また太妹が嫌いな方もです。
花魁妹子2。
前回同様読みにくいと思います。
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その人と一緒にいる時間は、どちらも一言も話さないため、決まって音のない、静かな空気が広がっているのが常だったのだが、ある日、僕は自分から沈黙を破った。
「あの、お名前は?」
「名前?太子だよ。」
「太子、さん・・・?」
「ああ、太子でいいよ。そんな、さん付けなんて堅苦しいから。ていうか、お前、よくそんな声出せるよな。」
「え?」
予想外の一言に僕は思わず目を丸める。
「それ。その声。だって妹子、男の子なんでしょ?」
「え、あ、知ってたんですか?」
僕は堅苦しい言葉はこの人に禁止されていたので、とてもお客様を相手にしているとは思えない、普通に学校の先輩と接しているかのような調子で聞き返す。
すると太子はクスッと笑って、
「そりゃ知ってるよ。だって妹子、この辺じゃ結構有名なんだぞ。」と、答えた。
知らないほうが逆に凄いよ、と付け足して、こちらに顔を向けたまま再びクスクスと笑った。
「そうなんですか?」
初めて耳にしたその情報に僕は思わず地声に戻して話しかけてしまった。
「あ、そっちの声もいいね。」
「あ、すみません、つい・・・。」
指摘を受けて僕は反射的に掌で口を覆う。
「いいよいいよ、ずっと女声でいるの、辛いでしょ?私といるときぐらい、楽にしてるでおま。」
語尾に多少の違和感を感じたものの、それがこの人の普段の話し方なのかもしれないと解釈し、この人との距離がまた一つ縮まったかのように思えた。
「はい、ありがとうございます。」
心からの笑顔でそう返した後、僕はふと思ったことを口にした。
「そういえば、今、世間ってどうなってるんだろう・・・。」
思えば僕はここに来てからというもの、外に出かけた覚えがない。
まあ、それが当たり前なのかもしれないが、今まで自由に外出していた分、僕は少し違和感を覚えた。
「ん?ああ、そっか。外は相変わらず平和だよ。」
「そうですか、それはよかったです。」
しかしこの時僕は、これだけでは満足できなかった。
もっと世の中のことを知りたい、と。
するとそれを見透かしたかのように、彼は、
「・・・もっと知りたいか?」
と、僕の表情を窺いながら聞いてきた。
まさか態度に表れていたのだろうか。と、僕は少し反省しつつも、「はい。」と素直に返事をしてしまった。
「そっか。・・・んー、といってもなぁ・・・。」
私、あまり新聞読まないからなぁ・・・。と、彼は呟き、そして口元に軽く作った拳を当てながら暫し黙りこんだ後、
「あ。」そういえば、と再び小さく呟き、それから己の鞄の中をゴソゴソと探索し始めた。
「あったあった、ほい。」
見ると彼は一冊の本を手にしていた。
「・・・?本?」
「これ、今流行ってるんだって。読む?」
「・・・!はい、是非!」
思えば本を読むことも久々なので、つい嬉しくて、女形らしからぬ声量で返事をしてしまった。
しかしもうそんなことには構わず、僕は目を輝かせながら本を受け取る。
暫しまじまじと装丁を観察していると、「私と一緒にいる時も、それ読んでていいよ。」と、微笑を浮かべながら太子は言った。
「あ、あと、これからはもう何もしなくていいから。私の時は、自由に過ごしていいから、ね?」
僕は、その言葉と彼の優しい微笑みに胸が熱くなるのを感じつつ、本を開いた。
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彼の言ったことは本当だった。
それからというもの、彼は僕のところへ来ると、他の客とは違い、
友人のように「よっ、妹子!」と、元気良く挨拶をし、それから僕の隣にずっと寄り添っているだけだった。
そして僕のために新聞やら何やらを読んできたのか、生き生きと外の話をしてくれた。
というのも、僕が聞きたいといつも言っているからなのだが。さらに、ちょっとした可笑しな話もしてくれる。
例えば、この間高貴でプライドの高そうな中年男性が胸を張って歩いていたところ、
前から猫が猛スピードで走ってきてそれで猫を蹴飛ばしてしまって、そのまま自分も転びそうになり、その慌てている姿がたいそう面白かっただとか、
ふとした拍子に男性の禿げ頭が晒されてしまっただとか、そのような、太子が実際目で見たことも話してくれるようになった。
それで僕はもう、涙が出てきてしまうほどおかしくて、太子と話しているときは自分が男娼であることを忘れて笑い転げていた。
しかしずっと話しているかと思いきや、この人はちゃんと読書の時間も与えてくれ、さらにただ黙って、時がゆっくりと流れていくのを実感する時間も作ってくれるのだ。
だから僕は、太子のことが大好きで、この人と会うことを毎日毎日楽しみにしていた。
また、彼自身も、当初と比べて頻繁に訪れるようになった。
しかし、それでも僕が男娼であるという事実は変わらない。
彼が来る前、彼が去った後はまた、客の下世話をすることになるのだ。
最初は、太子がくるまで頑張ろう、だとか、彼の存在に支えられて、頑張ってこられた。
しかし最近では逆にそれが、辛い。
太子との自由な時間に味を占めてしまい、他の客を相手にするのが面倒くさく、というか、少し嫌悪感を抱くようになった。
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続きます。