父からは直接言えない事を、伯父から明雄は説教された。伯父は東京で学んだ法律学に絶対的な自信を持っていたからだ。師範学校だけの経歴だと、経験上様々な事を考えたとしても、管理者として必要な知識を体系的に学んだ訳ではないから、管理職としては不利な点もあるだろう。その点、伯父には法律学に対する愛情のようなものを感じる。
「法律学はいいぞ。六法全書を聖書のように、御書のように、いつも肌身離さず持ち歩く。一生掛けて読み切る本だ。改廃も頻繁だから、基本的な法律を先ず身に付ける。憲法・民法・刑法あたりだ。基本的人権・信教の自由・学問の自由・表現の自由だ。楽しくなってくるだろう明雄!」

明雄が模試で新聞紙上に名前を載せた効果は、高一の1学期頃までは、あった。法律学派ばかりでなく、医学派からも誘いがあったのだ。自宅から4キロ程離れた医院を訪れた時、医師は診察後に書斎を見せてくれた。その意味を明雄はその時、正確には理解できなかったが、医学と法学という伝統的な学問が思考・価値観・行動・規範・指針等々、精神と身体と社会の基本を形づくっている思想の万民に認められた大系の核なのだと、おぼろげながら感じていた。