【第32話】騒音 | 百物語をしようよ。~怖い話・不思議な話・心霊話・都市伝説などのブログ形式オカルト陳列~
よくある5階建ての団地。
そこの4階に住む主婦のK子は、ここのところ騒音に悩まされていた。

「またはじまった」

日が暮れると、上の階からドタバタと足音が聞こえてくるのだ。
子供がおいかけっこをするような、軽くてはしゃいだ足音が毎日のように聞こえてくる。
それが1時間も続くと、次は大人が暴れているような音がするのだ。

「奥さんがはしゃぐ子供を叱っているんだわ」

ある日K子は、ふと5階の例の家のことを近所の主婦仲間との井戸端会議の中で話題にしてみた。
「お子さんが2人いるみたい。お母さんは結婚してない、いわゆるシングルマザーのようよ」
との、情報を得た。

母親1人で2人の子供を育てるのはさぞかし大変だろう。
K子自身も子育てを経験した身。少しの騒音は団地ではよくあることだと気にしないようにしていた。

だがまたある日、K子がベランダで洗濯物を干していると、上階からまた騒ぐ音が聞こえて来た。
何かを投げつけたり、ものが割れる音。
これは尋常ではない。
もしや、虐待などが行われているのではないだろうか。

K子は近所の主婦仲間に相談を持ちかけた。
近隣の部屋の主婦は同様にその異様な物音に気付いており、気にかけていたのだ。

一刻も早く、真相を確かめ虐待の事実があるのならしかるべき対処をとるべきだ、とK子たち主婦4人で5階の一室のドアを叩いた。

ドアが開かれ、隙間から顔を出したのは若い、髪の長い女だった。
整った顔立ちをしているのに、こけた頬とギョロリとした目が老けさせて見える。

ストレートに『虐待ですか?』なんて聞けるはずもない。
主婦の1人が切り出した
「…お子さんが元気なのは良いのですが…もうちょっとボリュームを抑えて頂けないかしら」
女はK子たちをにらみつけ、なかば叫ぶように言い放った。
「ウチに子供はおりません!」

そのままバタンと戸を閉められ、K子たちはあっけにとられた。
物音は数件が聞いているし、この家に子供がいることも何人か知っている。

もしや、子供達になにかあったのでは?
K子は即刻、虐待防止センターへ連絡し、訪問を依頼した。

そこで職員が発見したのは、幼い2人の遺体だった。

『ああ、間に合わなかった…』

厚意で報告に来てくれた職員の話を聞き、主婦仲間はみな落胆した。
しかし報告に来た職員は言った。

「皆様の責任はありません。なにより、2人の子供はもう死んでから数年はたっていたようです。
 どうか、お気になさらない様に…」

職員はそれだけ言うと、立ち去ってしまった。
後日のニュースでは『団地の一室から2人の姉妹の白骨化した遺体を発見』と報じられていた。


それならば、あの物音はなんだったのだろうか?

あの女は、何かから逃れようとしていたのだろうか?