ドイツ留学中、師事した教授から、
「君はもう大学院生なんだから、どんな曲をいれたらプログラムがより興味深いものになるかを常に考えるべきだ。ショパン、ベートーヴェン、ドビュッシーなどを盛り込んだ『クラシック』なものだけで組むのではなく、そこにこんな作曲家の作品もいれてもまた素敵だと思うよ」
と、何曲か課題を与えられました。
それは、ポーランドのユダヤ人作曲家レオポルド・ゴドフスキー(1870-1938)の作品。
留学中、その当時は彼の作品はあまりポピュラーではなく、楽譜も先生自身がどこかからコピーしたもので、それをまたコピーさせてもらって…
最近では日本でも楽譜が一部手に入るようですし、ちょくちょく演奏もされるようですが、私はまだライブで耳にしたことがありません。
とにかく、ゴドフスキーの作品はとても技巧的に難しく(わたしのなかではスクリャービンを奏する時の感覚に似ています)、それ以上に譜読みにも時間を取られます。指番号を自分で譜読みしながらひとつひとつ書き込んでいかないと、翌日にはまたイチからやり直し、といった感じ。
1日24時間、練習に明け暮れることのできた学生時代だからこそ、弾くことのできた曲、と、今では思います。
留学中は、2ヶ月に1回くらいの頻度で学内での演奏会に出ていましたが、
留学してすぐに出された超難題な課題、ヨハン・シュトラウス2世の作品『芸術家の生涯』をゴドフスキーが編曲したものを必死でさらったこと、学校で練習すれば隣の部屋で練習している学生が「それ何の曲?!」とよく訊きに来たこと、必死にさらって本番をやり遂げたあとには聴いていた女性から個人的に話しかけられたこと、…他のどんな曲よりもこの『芸術家の生涯』にまつわる出来事が、留学中の一番の思い出と言ってもいいくらい。
↑簡単そうに見えるけど、「なんでここにこの音に行く???」と言いたくなる摩訶不思議な音の並び。弾いてみるといろんな色が混じり合った奥深い響き。
長いし、暗譜するにも脳がパンク寸前、難しすぎて、一度二度、本番終えたらもうお腹いっぱいになってしまって、帰国してからは一度も演奏会では弾いていないけれど、
…いつかまたどなたかに聴いてもらえたらなぁと思っています。
楽譜とピアノと一緒に、しばらくどこかに1人籠もらないと実現できないかなぁ〜(笑)
このシュトラウスのゴドフスキー編曲を聴いていると、そのワルツの音楽と共にウィーンを旅している気持ちになりますが、ゴドフスキーのもう一つの作品、『ジャワ組曲』もまた魅力的な曲で、作曲家自身がジャワで見たもの、聴いた音楽に触発されて創作したという経緯があるように、聴いているこちらもまるでジャワ島に旅している気分になります。
このジャワ組曲は、12曲中、何曲か日本でも演奏会で弾いていますが、演奏の難しさはともかく、その響きの妖しさ、異国情緒に満ちた曲調に、練習していてもなかなか興味深い。
最近、その組曲の中の「ガムラン」と、「月夜のボロブドゥール(寺院・遺跡)」を、再び練習中です。
↑ガムランの一部。冒頭は弱音、その後だんだん激しさを増し、練習不十分だと右手の握力やられます…
ガムランとは、インドネシアの様々なドラや、鍵盤打楽器で奏される民族音楽なのですが、バリ島のガムランと、ジャワ島のガムランでまた響きの印象が異なるようです。
ジャワ島…行ったことがないけれど、ピアノが弾ければちょっとした旅行気分も味わえる。
これがピアノ弾きの醍醐味だ!