わらこ精霊 夏だより2《第6日目》
2025年8月6日(水)

── 静けさの中の強さ ──



🎀オープニング曲:制服スパイラル
(声がなくても、伝わるものはたくさんある)


合宿6日目の朝。
音無みなと──稚内市出身は、まだ薄暗い時間にひとりで森の小道を歩いていた。
木々の間から差し込む淡い光が、霧の粒に反射して小さく瞬く。
靴の裏で落ち葉がかさりと鳴る音、遠くから聞こえる鳥のさえずり。
この静けさの中で、呼吸をゆっくりと整えるのが、みなとの朝の習慣だ。



人と話すのが嫌いなわけではない。
ただ、自分の中にある想いをうまく言葉に変えるのが苦手で、
無言の時間が長くなってしまう。
そのせいで「やる気がないの?」と誤解されることもあった。
そのたびに、ほんの少しだけ胸の奥がひやりとする。



午前は表情と沈黙の表現トレーニング。
鏡の前に立ち、言葉を発さずに気持ちを伝える練習。
わずかな頬の緩み、目線の上下、肩の向き──
みなとは一つひとつを丁寧に確かめながら動かす。
講師が「みなとは、目で語るタイプだね」と評すると、
仲間たちも「なんか落ち着く」「そばにいると安心する」と笑顔を向けた。
その輪の中に、みなとも自然と笑みを返す。



🫧 午後は昆布干し体験。
港町の浜辺には、長く伸びた昆布が一面に広げられ、潮風に揺れていた。
太陽の光を浴びて、濡れた昆布が深い緑色に輝いている。
足元は砂と小石が混ざった浜。歩くたびに、さらさらと音を立てた。

漁師さんに教わりながら、みなとも軍手をはめて昆布を並べる。
最初は長さや間隔をそろえるのが難しく、少し手が止まる。
すると年配の漁師さんが、笑い皺を深くして言った。
「急がなくていいんだ。昆布はな、まっすぐ寝かせるのが大事なんだよ」
その声は潮風のようにやわらかく、みなとの胸にもすっと入ってきた。



しばらく作業を続けるうちに、リズムが手に馴染んできた。
濡れた昆布を持ち上げ、両手でピンと伸ばして浜に置く。
それを何十本も繰り返すうちに、
いつのまにか呼吸も、心の中も、波のリズムと同じ速さになっていた。

「上手だね、まっすぐだ」
褒められた瞬間、みなとは照れくさそうに視線を落としながらも、
口元に小さな笑みを浮かべた。

休憩時間には、木箱に腰かけて冷たい麦茶を飲む。
海面がきらめき、遠くにフェリーの影が見える。
昆布の香りと海の匂いが混ざり合い、胸いっぱいに広がっていった。



何も話さない時間が、こんなにも満たされていること。
「静けさは、何もないわけじゃない」
みなとは心の中でそうつぶやき、浜風に目を細めた。
その静けさは、誰かと分かち合える優しい強さになっていた。


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🎵エンディング曲:
「またね、春の空で」
(会えない時間も、春風のようにやさしく包む)




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📸 次回予告:
《第7日目・8月7日(木)》弓月すなお(帯広)
「願いごとって、言ってもいいんだ──」



みんなで昆布干しの体験AIイメージイラストニコニコ