🌬️アナザーストーリー2 磯花ひより/室蘭市
《風の記憶と、ひとしずくの光》
第2話──お姉ちゃんの手紙──
「……あ、これ──」

その小さな便箋を見つけたのは、休日の午後。
ひよりが自分の本棚を整理していたときのことだった。
淡い水色の封筒。少し曲がった角。
そっと開いてみると、そこには、やさしい文字で書かれた短い手紙が。
> ひよりへ
おそらのかぜは、ひよりのなかよし。
ないときも、こえがきこえるといいね。
だいすきだよ。
おねえちゃんより
──思い出した。
これは、幼い頃に熱を出して寝ていたとき、
お姉ちゃんが枕元にそっと置いてくれていた手紙だった。

当時は、まだ漢字も読めなくて、
ただ、紙のやさしい感触と、お姉ちゃんの声の記憶だけを覚えていた。
それが今、ふいに目の前にあらわれて──
胸の奥に、静かに波のように広がっていく。
風の音と一緒に、思い出も吹き込んでくるようだった。
「わたし……ちゃんと届いてたよ、あのとき」
ひよりは便箋をそっと胸にあてて、
そのまま、窓辺へ歩いた。

カーテンのすき間から差し込む陽ざし。
風がほんの少し、髪を揺らした。
“やさしさって、記憶の中にちゃんと残るんだ”
そして、思った。
「今のわたしなら、“返事”を書けるかもしれない」
ひよりは、ベッドの上に腰を下ろし、小さな便箋を広げる。

> こえが ふれて
きづかなかった やさしさが
いまも わたしの そばにいた
かぜは いちども
わたしを わすれてなんか いなかった
書き終えた手紙は、スケッチブックにはさんで、
そっと窓辺に置いておく。
これは、もう“想い出の返事”ではなく、
いまのひより自身の声。
その夜。ひよりは夢を見た。
風の吹く海辺の道。
ぽつんと立つ、小さな郵便ポストのような貝殻

その中に、ひとしずくの光が落ちて、
まるで誰かがそっと受け取ってくれたようだった。
──やさしさは、ちゃんと返ってくる。
風と記憶が、静かに重なり合う夜だった。

---
※次回予告※
第3話──風のこたえ──
はじめて“だれかに届けたい”と思って書いた詩。
その言葉に、ふいに“こたえてくれる声”が生まれるとき──
ひよりの風は、ほんとうに届いたと知る。🐚✨
