【長万部編・前編】
《湯けむりの駅で、わたしたちはいったん立ち止まる》
汽車は、あの静けさを引きずるように、ゆっくりとホームへ滑り込んだ。
──長万部駅。
春の夕方。
でも、どこか夜のはじまりのような空気だった。
灯原つくよ(函館)「ここ……ちょっとだけ、空の色が違う気がする」
星灯めぐる(江別)「なんか、空気が、まるい……」
瑠璃野ひめか(小樽)「湯けむりのせいかな。ほら、あっちの屋根の上……ふわって」
つくよ(函館)
「札幌までは、特急で帰ろうと思えば、2時間ちょっと・・・帰れるよね」
ひめか(小樽)
「でも、函館は、2時間かからない。ここからなら“すぐそこ”だし……」
しおり(苫小牧)
「そういえば、札幌はバスがあるから行くけど、函館は行ったことないな~」
つくよ(函館) 「私もよく言われる。今度案内してよって」
めぐる(江別)「もういっそ、函館に寄っちゃう?」
つくよ(函館)「……で、札幌、帰る? 特急なら夜には着くよ」
しおり(苫小牧)「2時間、か……」
ひめか(小樽)
「なんかさ、道外の人に“2時間”って言うと、びっくりされるよね」
空羽うらら(小清水)
「“え、めっちゃ遠いじゃん!”って言われるけど…感覚ちがうよね」
めぐる(江別)「こっちじゃ、**2時間は“ちょっと遠い隣町”くらいだよね?」」
つづり(室蘭)「下道で4時間かけて友だちの家行ったことある」
ひめか(小樽)「え、通学?」
つづり(室蘭)(真顔)「……うん、部活の試合で日帰り」
みんなで笑う。
でも、それが普通だったから。
まな(長万部)「北海道って、“移動は旅の一部”なんだよね。
それに、“行ける距離”って、実は“誰と行くか”で変わる気がするよ」
うらら(小清水)「わかる。ひとりだったら“遠い”って思うのに、
みんな一緒だと、“もうすぐ着く”ってなるもん」
しおり(苫小牧)「距離って、心で測るものだったんだね……」
めぐる(江別)「急に哲学〜!」
ひめか(小樽)「ZINEの副題:“距離は気持ちの長さです。”」
そしてまた笑いがふわっと広がった。
湯気みたいにやさしい笑い。
旅の途中、ほんの一瞬だけ通じ合う“道内感覚”。
うらら(小清水)「ちょっと待って、まず“カニ飯”食べよ?」
つづり(室蘭)「だね。長万部といえば、カニ飯!」
──そう、わたしたちはいったん、
「カニ飯」に全振りしたのだった。
だけど──
※これ、緑川順子の実話です。目の前でシャッターが下りた後の写真
うらら(小清水)(泣きそう)「うそ、閉まってる……!」
めぐる(江別)(ショックで崩れ落ちる)「わたしのカニ飯……」
しおり(苫小牧)(前向き)「……じゃあ、温泉で立ち直ろう」
ひめか(小樽)「正解だわ。お湯で切り替えるの、北海道流」
──そのとき。
遠くから、ぽつんと灯りが灯るのが見えた。
宿の玄関。
そして、そこに立っていたのは──
◆湯気のなかの少女、湯音まな(長万部)
彼女は、駅のホームと宿のあいだにある、
細い路地の奥に立っていた。
制服でもなく、観光客でもなく、
どこか“この町の一部”みたいな、やわらかな雰囲気の子。
しおり(苫小牧)「……あの子、知ってる気がする」
つづり(室蘭)「え?どこで?」
しおり(苫小牧)「……夢の中、とか……かな?」
◆小さな宿と、あたたかいタオルと、静かなロビー
宿のロビーには、小さなストーブと、
「おかえりなさい」と書かれた手描きのカード。
その横には、かごいっぱいのタオルと、
あたたかいお茶が準備されていた。
少女は、笑っていた。
わたしたちが来るのを、ずっと前から知っていたみたいに。
「ようこそ──今日は、ちゃんと“立ち止まる日”なんだよ」
それが、**湯音まな(長万部)**だった。
うらら(小清水)「わあ、なんか……地元の親戚の家に来たみたい」
めぐる(江別)「ここ、観光の宿じゃないね。“暮らしてる時間”がある」
ひめか(小樽)「……さっきまで“秘境”にいたから余計そう感じるのかな」
まな(長万部)「ここはね、**“まんなかの町”**なんだよ。
札幌と函館の、ちょうど間。
それってね、“戻っても進んでもいい場所”ってことなの」
まなの声は、湯気みたいだった。
はっきり聞こえるのに、なんだか、やさしくにじむ。
◆そして、夜が始まる
わたしたちは、宿の浴衣に着替えて、
長万部の湯けむりの町に、すっとなじんでいった。
まなは、玄関の外で風を感じながら言った。
「ここは、“あわてなくていい町”だからね。
ちゃんと、立ち止まっても大丈夫なんだよ」
長万部温泉は、観光地っていうより、
「旅の途中にそっと抱きしめてくれる場所」。
次の汽車が来るまでの、やさしい余白。
わらこたちにぴったりの、“心の駅”です。
そして、静かに夜がはじまった。
ここから、夢の汽車が走り出す──
🌸【長万部温泉って、どんなところ?】
長万部(おしゃまんべ)温泉は、
北海道南西部、道央と道南のちょうど中間にある温泉地。
昭和の面影が残る、やさしい町の湯治場です。
♨️ 特徴は…
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とにかく湯量が豊富!
町の中心部に大小10軒以上の宿や共同湯が点在。 -
**泉質はナトリウム塩化物泉(弱アルカリ性)**で、
お肌がつるつるになる“美肌の湯”としても知られています。 -
ぬるめのお湯が多くて長く入れるのが魅力。
ゆっくり心がととのう、まさに「心の湯ざしき」。
🧚♀️ 精霊わらこ的に言うなら…
「このお湯、ちょっとぬるくて…あ、わたしと似てるかも」
「急がせないの。ゆっくり浸かってってって、お湯に言われてるみたい」
「夜になると、湯けむりがまっすぐ空に昇ってね。あれ、願いごとなんだよ」
🌟 地元感たっぷりな過ごし方
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昭和風情の残るレトロ旅館で、こぢんまりと静かに
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日帰り温泉も多くて、地元の人が夕方にふらっと入りにくる町の湯
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お宿によっては、夜に“湯上がりアイス”や“温泉卵”のサービスも♪
🍱 温泉に合う地元の味
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**長万部名物「かにめし」**を湯上がりに食べるのが王道(早めに買うのがコツ)
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地元の居酒屋でホタテ焼き&日本酒セットなんて大人スタイルも◎
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湯あがりの牛乳ならぬ、「長万部牛乳」もじわじわ人気
🛏 湯音まな(長万部)の一言メモ
「ここは、“あわてなくていい町”だからね。
ちゃんと、立ち止まっても大丈夫なんだよ」
「ここは、“がんばってる人がふと立ち止まる場所”。
進んでもいいし、帰ってもいい。
だけどね、いったん“ここにいる”って決めるだけで、
心の芯が、やわらかくなるんだよ」**それが、いちばん勇気あることだと思うよ」
🧖♀️【わらこ精霊図鑑 】
湯音 まな(ゆのん まな)
出身地:北海道 山越郡長万部町
肩書き:湯けむりの導き手/“まんなか”に立つ少女
🧬 精霊タイプ:
「立ち止まることを許す光」
──進むも戻るも、止まるも、どれも“今ここ”にいる自分を受け止める力。
🌸 性格と印象:
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ふわっとした話し方、やさしい語尾。
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相手の気持ちに先回りせず、でも自然に寄り添える存在。
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“観光地の人”というより“町そのもの”。
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話しているだけで心がほどけてくる、湯気のような存在感。
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どこか既視感があり、「会ったことがある気がする」とよく言われる。
🧭 精霊的な役割:
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焦っている心を整え、「いったん立ち止まってもいい」と肯認する導き手。
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“再出発”ではなく、“ここでOK”を教えてくれる。
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「湯けむり」と「余白」の精霊。
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長万部という地の“間(ま)”を象徴する存在。
♨️ 好きなもの・風景:
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ぬるめの温泉と、湯上がりの白いタオル
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湯けむりがまっすぐ空へ昇る夜
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湯ざわりのやさしい服(木綿・麻・リネン系)
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昭和旅館のロビーの静けさと番頭さんの声
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湯上がりの牛乳よりも、湯上がりの言葉を大切にする子
みなさま、長旅おつかれさまでした。
次回は、道民には、あるある話をお届けします。
製作者 緑川順子が北海道を旅した話 ↓























