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「そうかもね。
ひっくり返っている子は、私より先に粘土をはじめるしか方法はないかもね。
だから、なんでも一番にやりたがるのよ。
でもね、これは粘土だけの問題じゃない。
お姉ちゃん、いいこと教えてあげる。
ひっくり返っている子は、大切な人を苦しめてしまうという本当の意味はね・・・
一番好きな子とは遊べなくても、好きでもなんでもない子から誘われると平気で遊ぶの。
それが人類愛だと思っているみたい。だって自分が一番苦しんでいるんだから。
そんなことをしていても、心が満たされることは永遠にないでしょうね。
早く目を醒まして、ひっくり返っていることに、自分で気づくしか方法はないのよ」
少女は聖母のような微笑みを浮かべ、一人の少年のことを見ている。確かにひっくり返っている子のまわりには、不自然なくらい女の子がたくさん群がっていた。誰にでも優しいという仮面の下には、傷つきやすく繊細な心があり、一番好きなこととは遊べない哀しみが見え隠れしているようだった。
やがて、教室のチャイムが鳴り、子供たちはケタタマシイ声を張り上げている。先生は走り回る子供たちを捕まえようとしている。子供たちはおもちゃを片付けたり、ものを投げたり、片づけたすきからひっくり返す。「みんな急いで教室に戻りなさい。早く!」と先生は言っておきながら、転んだ子供に向かって「走るから転ぶのよ」と叱りつけている。この指示系統には、明らかに矛盾点があり、ここは無法地帯かと思うほど、そうそう示唆のボルテージが最高潮に達している。
そんなさなか、少女は粘土をきれいなまんマルにまとめて、無表情のまま帰り支度をしているが、ふと気がついたように手を止めた。
(続く)