齋藤勇博士は著書『文學としての聖書』の中で約60頁にわたって(148頁〜209頁)詳しくAuthorized Version 欽定訳の短所と長所を論じています。

 

個々の具体例については今後、本ブログで市河三喜『聖書の英語』を読み進めていく過程で改めて取り上げることが出来ますので、ここでは要点だけをまとめておきましょう。

 

(なお、原著では旧仮名遣いが用いられていますが、ここでは現代仮名遣いに修正しています)

 

(一)Authorized Version 欽定訳の短所(148頁以下)

 

1.不適当な古語がかなりある。単語にも構文にも古めかしい表現が少なくない。

 

実際、齋藤博士によればAuthorized Version と同年に発表されたWilliam Shakespeare最後の自作である戯曲Tempestより何十年も古臭い言葉遣いが随所にみられるとのこと。

 

これはAuthorized VersionTyndale訳”New Testament"(1525〜1526年)およびGreat Bible (1539年、1537年版Matthew's Bibleに負うところが多い)に拠っている、つまり7〜80年も前に出版された英語訳聖書に基づいているので止むを得ないということでしょう。

 

2.意味不明な箇所や誤訳が少なくない。

 

これは齋藤博士も指摘しているように当時はまだ聖書原典研究が不備であるが故といって良いと思われます。

 

実際、「旧約と新約聖書それぞれに対する実証的、すなわち文献学的、史的批判的研究が本格的に開始したのは19世紀の後半である」*1というくらいですから、17世紀初頭ではOxfordCambridgeの碩学が何十人集まっても限界があったというわけですね。

 

なお、齋藤博士「『ヨブ記』及び『詩篇』においては欽定訳が甚だ正確を欠いている」という「専門家」の言葉*2を紹介していますが、これについては本ブログでも市河博士の著作を読み進めていく中で検証できればと思っています。

 

 

*1)  大貫隆・名取四郎・宮本久雄・百瀬文晃編『岩波キリスト教辞典』(岩波書店、2002年6月10日、643頁)

*2) 齋藤勇、163頁

 

(この項続く)