中村竜太郎『スクープ!  週刊文春エース記者の取材メモ』2016年、文藝春秋、222頁

 

今ではすっかり定着している「文春砲」という言葉ですが、元々はAKB48などのアイドルグループのファンの間でつかわれていた言葉だそうです。

 

それが一般にも広く知られるようになったのは2016年ごろとのことで、それまでは芸能人やアスリート達のスキャンダル暴露は「フライデーされる」というような言い方が一般的だっただろうと思います。

 

2016年にも様々な出来事がありましたが、特に年前半に大きく報じられたのはタレント・ベッキーのいわゆる「ゲス不倫」と甘利明内閣府特命担当大臣(経済財政政策)の金銭授受疑惑でした。

 

今にして思えば「ああ、そんなこともあったなあ」ぐらいの話ですが、当時は連日報じられるようなビッグニュースでした。

 

本書の著者・中村竜太郎氏が週刊文春の記者を務めたのは1995年から2014年までということなので、「文春砲」という言葉が一般に定着する前に独立したことになりますが、その礎を築いた一人と言って良いでしょう。

 

著者はその20年のキャリアの中で本書にも掲載されている「NHKプロデューサー巨額横領事件」(04年)や「シャブ&飛鳥」(13年)など多くのスクープをものにしています。

 

本書にはこの2つの事件の他にも「高倉健の養女」や「東急田園都市線三軒茶屋駅の暴行致死事件」、「歌舞伎町のホスト事情」、「バルセロナ五輪金メダリスト北島康介の父親へのインタビュー」、「ルーシー・ブラックマン殺害事件」、「宇多田ヒカルの家庭事情」、「地下鉄サリン事件」など多くの「取材メモ」が掲載されています。

 

一つひとつを紹介するスペースはないのですが、「NHKプロデューサー巨額横領事件」ではNHKの看板番組である紅白歌合戦の責任者であったプロデューサーの巨額横領の手口や丸3年にわたる局ぐるみの隠蔽工作、内部情報提供者と目される人物に対する特高まがいの執拗な尋問、「エビジョンイル」とあだ名されて長くNHKに君臨した会長のワンマン体制、更には彼と自民党重鎮との親密な関係などが深堀りされています。

 

これは20年以上も前の事案ですが、横領とセクハラの違いはあるものの昨年末から世間を賑わしているフジTVの問題を彷彿とさせますね。結局、両者ともたまたま表面化しただけであって実際にはNHKとフジTV以外の各局に多かれ少なかれ共通する体質ということなのでしょう。

 

本書に掲載された記事はタイトルだけ見ると芸能レポーターの仕事のようですが、決して「お笑い芸人AとグラドルBの密熱愛発覚!」とか「俳優Cと歌手Dが破局していた!」とかいった類のいわゆる芸能ネタではありません。

 

毎週木曜日の「プラン会議」(編集会議)で必ず、まだ他社が報じていない独自ネタを5本発表しなければならないという過酷な現場で鍛え上げられただけあって、どの話題にもいわゆる「事件記者」として一本の筋が通っていて読み応えを感じます。