風間喜代三『ラテン語とギリシア語』(三省堂、1998年)
本書は西欧文化の原点と言っても過言ではないラテン語とギリシア語を著者の専門である比較言語学的な視点に立って講じた良書です。
第2章「ギリシア語とラテン語の系統」ではインド・ヨーロッパ語族における両言語の位置づけが論じられています。
その中で掲載されている系統図で興味深いのは「イタリック語派」を原点とするラテン語が後にイタリア語を初めとする多くのロマンス語諸言語に枝分かれして行くのに対し、ギリシア語は枝分かれすることなく現代に至っているのが一目瞭然であることです。これは古代ギリシア諸都市国家とローマ帝国が西欧の歴史の中で果たした役割の大きさの違いによるものでしょう。
もっとも、古代エジプトのアレキサンドリアや有名なトロイ、新約聖書にも頻出のエフェソなど小アジア(現在のトルコ共和国エーゲ海沿岸)のギリシア植民都市で使われていたであろうギリシア語がそのまま消えてしまったのかあるいは何らかの形で現地の言語に融合して行ったのかという辺りは興味があるところです。
閑話休題(それはさておき)
第3章以下では文字から始まって発音、文法そして最終章の固有名詞に至るまで両言語の様々な比較が本文では200頁に満たないくらいコンパクトに論じられていて、大変に興味深く読むことができました。巻末の「さらに深く知るために」で紹介されている参考文献も両言語の学習を進める上で役に立ちそうです。
ただ、タイトルに惹かれ両言語への入門書のつもりで本書を手に取ると恐らく期待外れあるいは荷が重いという感想を持たれるはずです。著者がそう意図したかどうかは別として、本書の面白さは両言語の初級文法を一通り終えた中級者レベルになって初めて分かるように思えます。
唯一、本書への不満を挙げるとすれば紹介されているギリシア語の言葉の殆どがギリシア文字ではなくラテン・アルファベットで書かれていることで、ギリシア語が出てくるたびに頭の中でギリシア文字に置き換える必要があります。
もちろん著者に何らかの意図があってそのようにしたのだと思われますが、もし万が一、本書が再版されることがあるとしたら、その際には是非その点を考慮してもらいたいものです。
