CICに入った涼子は、交代の挨拶を済ませ席に着いた。彼女の前にはノートPC大のスクリーンがあり、戦術情報処理装置とリンクした情報が出力されている。中心に据えられている主砲のシーカーが目標を捉え、赤くなった時に引き金を引く仕組みだ。もっとも、戦闘時以外は主砲が正しく稼働しているかを注視している。
彼女の周りでは、同じように画面を注視している者が大勢いる。決して広いとは言えないこの部屋の前方、一段低くなったスペースにのみ窓枠があり、舵輪があった。― 艦橋である。
突如、レーダーディスプレイに光点が現れた。CICが慌ただしくなる。― 宇宙ステーションに直撃したものと同類の「異邦人」、大型のものがさらに結合したタイプである。
部屋の一番奥、一段高くなったところにいる艦長が下令する。
「本艦はこれより敵艦迎撃に向かう。総員戦闘配置、機関全速」
〈ふるたか〉は増速し、敵艦の、便宜的にこう呼んでいる―予想進路上に先回りするべく、運動を開始した。
涼子も意識を切り替える。この一連の行動の最後を飾るのは彼女なのだ。
加速によってかかる圧力を感じながら、涼子は主砲の状態をチェックする―問題なし。報告。
「主砲、システムオールグリーン」
―これもアイツがサボらず仕事してくれたおかげ。感謝しなきゃ。
そう心の中で思いながら、スクリーン上に現れた敵を睨む。
双胴型の巨大なタコというのがもっともふさわしい掲揚だろう。あのタコが2つ3つと増えると迎撃は難しくなる。一部を破壊しても残った部分が攻撃してくるからだ。宇宙ステーションに直撃したものはなんと8つのタコ頭で、迎撃に出た艦艇ごと粉砕したらしい。高い生命力を持つ彼らを葬る方法は今のところ1つ。光線射出口である赤色の「コア」を破壊することだ。高い熱源反応を示すそこは、まさに「異邦人」の心臓部といえる。
彼我の距離が詰まった。艦長の「攻撃はじめ」の命を受け、戦闘を司る砲雷科の長である砲雷長が下令する。
「対艦戦闘、CIC指示の目標、VLS開放、SSM発射はじめ」
〈ふるたか〉のVLS―垂直発射放置から、SSM―対艦ミサイルが連続発射された。本命ではない。余計な部分を削ぎ落し、コアを露出させ撃ち抜くためだ。―主砲を用いてである。
SSMが着弾し、爆発が連鎖して発生する。しかし完全に破壊するには至らない。
「主砲発射準備」―砲雷長が下令する。
「主砲発射準備よし」―涼子はそれに答え、ディスプレイを注視する。主砲は既に旋回を終え、敵艦に指向していた。熱源追尾モードであることを確認。
いびつな形のその敵艦は、コアから赤色光線を放って反撃しているが、〈ふるたか〉の放ったチャフに欺瞞され、明後日の方向に飛んでいく。危険を顧みず突撃を敢行した〈ふるたか〉は主砲の射程に敵艦をとらえることに成功した。砲雷長が一段大きな声で言う。
「主砲、打方はじめ」
涼子はその命令に応じ、シーカーが赤くなったのを確認して、引き金を引く。
「発射用意……撃ぇ!」
主砲の砲口から光線が発射され、敵艦のコアへ向かう。着弾はほんの一瞬後だ。
涼子はその一瞬の間、何を思ったか昔を思い出していた。宮野小春と共に過ごした、中学時代のことを。
― 宇宙時代の先端を行く若者なんだから、やっぱり積極的に宇宙を目指すべきだと思うんだ。
涼子は反駁する。
― 私は本当に覚悟を持ってここに来たんだろうか。時代の流行とか、家柄とか、そんな理
由をつけて、将来を考えることから逃げただけかもしれない。
涼子の放った主砲の光線が敵艦に着弾し、先ほどとは規模の違う爆発が発生する。―撃沈したのだ。
― 覚悟の有無にかかわらず、私は既にここに来てしまった。ならやるしかない。さっき大西に言ったではないか。私は〈宙自第1世代〉、時代の風雲児なのだ。殺らなければ殺られる。だから戦うしかない、我らが日出ずる祖国のために。大切な人のために。