Ⅱ お互いに、少しだけふらつきながら

あの北海道での一件からしばらくして、また、よくわからないのだが、彼女の家に遊びに行った。

僕の両親もいたし、家族ぐるみで、ホームパーティでもやってたんじゃないだろうか。

ちなみに、彼女との関係はというと、煮え切らない関係が続いていた。

友達以上、恋人未満。

この間の不意打ちで、彼女が僕をどう思っているかは、8割方理解してしまった。

でも、お互いになにも言い出せないままで年は明け、今に至っている。

彼女の方は、双方の親の目を盗んでは、あの時のように頬にキスを仕掛けてくるが、彼女が、もともとよくイタズラを仕掛けてくる性格なのもあって、本気か冗談かが判断しづらい。

おまけに、彼女はあの大胆さのわりにシャイと来ている。

…あの一件があったあとじゃ、そう言っても信じてもらえないかもしれないが、とにかくそういうやつなのだ。
仕方ない。


そうこうしているうちに宴もたけなわになり、ビールを飲み、ご機嫌になった双方の両親を彼女の家に残して、僕と彼女は夜風に当たりに行こうと、1月の街へと繰り出した。

何でか知らないが(たぶん面倒くさいんだろう)、まだクリスマスイルミネーションがくっついていて、無駄にピカピカと光っている家とかを、イルミネーションだ!!と、はしゃぐ彼女とゆっくり歩きながら眺めていく。

「すごい光ってるねー」

「でも、もう1月だぞ…」

「あたし、イルミ好きだから、いいと思うよ」

不思議なもので、彼女にそう言われてしまうと、そうとしか言えなくなる。

…そう、僕と彼女の煮え切らない関係は、こんなような、なんとももどかしい気持ちを僕のなかに残すだけで、それを口にする勇気までは、与えてくれないのだった。

…この気持ちが『恋』だと、口にする勇気までは…。


ぐるりと、住み慣れたこの街を一周して、気づくと、僕の家の前に来ていた。

そろそろ、充分に夜風は浴びたし、帰るか…。

そこで、僕は、置いてきた大人たちは、もうベロベロに酔って、爆睡していると踏んで、連れて帰るのも面倒くさいので、持っていた鍵で玄関のドアを開けた。
「…僕、帰るわ。家の前に来たし」

「あ、ほんとだ!」

そして、

「今日は楽しかった!じゃあ、またね」

と、笑顔で彼女に手を振って別れようとした、その時。

「あ、待って!」

彼女の声が響いた。

気づいて、閉めかけたドアを慌てて開けた。

慌てすぎて、少しふらつく。

そんな僕の姿を見た彼女のクスッと笑う声が聞こえた。

「…悪かったな」

少しばつが悪いような態度とトーンで、顔の火照りを隠す。

さっきの夜風の冷たさはどこへやら、身体中の熱が上がってくる。

そんなことには微塵も気づいていない様子の彼女は、こっちの状態なんてお構いなしに、こう言ってきた。

「北海道の時は…、ごめんね。友達以上、恋人未満なんて中途半端な気持ちのまま…、キ、キスなんてしちゃって」

そして、少し間をおいて。

「…だから、はっきりさせておく。あたし、好きだから。…イルミネーションも、キミのことも」 

…負けた、やられた。


素直にそう思った。

その一言の直後、走って彼女はいなくなってしまった。

…その背中だけ、なにも言わずに目で追っていると、急ぎすぎて、少しふらついていた。

「…ハハッ、なんだよアイツ…。自分もコケてるし」
少しだけ、また僕はふらついた。
疲れたみたいだ。

今日は寝れそうにないけど、とりあえず、ベッド行くか…。

(つづく)