それなりに暑かった、あの夏の思い出を、僕はバルコニーに出て月を眺めながら、ほどよく冷えた缶チューハイを飲みつつ、夜風で冷ましていた。
後ろにある僕とキミの部屋ではホームパーティをしている。
そんな空間から抜け出して、オレのあとを追うようにバルコニーに出てきたキミが近づいてきて、笑顔でこう言った。
「なーにしてんのっ?」
「…え?」
「となり…、いい?」
「…あぁ」
そのあと、一瞬の沈黙が、2人を包んだ。
「…で、何してたの?夏になると、よく1人で月見てるよね?」
興味津々に聞いてくる彼女に、僕はこう答えた。
「…あぁ、この時期になると、思い出すんだよ。あまりいい思い出じゃないけどね―」
…そう、彼女にも伝えていない、僕の切ない恋と別れの話を…。
Ⅰ 友達以上、恋人未満。
結論から話してしまえば、彼女はもうこの世にはいない。
亡くなったのは、今、大学生の僕が高校生の時の話だ。
出会いは、幼稚園の時。
いわゆる、幼なじみ。
2才の時、引っ越してきたこの街で、はじめて出来た友達で、家は近いし、なにより偶然とはいえ、僕の父親と彼女の母親が知り合いだったことで仲良くなった。
といっても、記憶はないし、気付いたときにはいつも一緒にいるのが当たり前で、恋愛感情なんて、わいてくるわけもなかった。
そんな関係が変わり始めた、ある出来事から話すことにしよう。
《10年前、僕・彼女ともに12才》
その出来事が起こったのは、夏ではなく、むしろ正反対の真冬、クリスマスのことだった。
この頃には、家族ぐるみでの付き合いがあって、何でか知らないが、このときは、ともに北海道へと旅行へ来ていた。
日本有数の歓楽街、ススキノの近くで夕食を食べて、札幌のホテルに戻る途中、双方の両親が、大通公園でテレビ塔をバックに子ども2人の写真を撮ろうと言い出した。
急に言われ、うろたえる子ども2人を尻目に、
「じゃあ、はい、子ども2人並んで~」
と、プロのカメラマンである彼女の父親が、にっこりとしながらそう指示して、それに沿うように、僕たち2人は並んだ。
「はい、こっち向いて~。はい、チーズ!」
フラッシュが焚かれたと同時に、パシャリと音を立ててシャッターが切られた。
そのフラッシュが焚かれた瞬間、僕はあることに気がついた。
あれ、手、握ってる…?
その一瞬の閃光の中で、彼女は何を思って、僕の手を握ったのか、ついに僕は聞けないままで、彼女と別れてしまった。
でも、その写真を撮ったあと、ある瞬間、2人きりになったその瞬間に、彼女は微かにこう言った。
「…友達以上、恋人未満ならいいよね?」
その瞬間、時計の針が止まった気がした。
…そう言った彼女の唇は、気づけば僕の頬に触れていた。
(つづく)
後ろにある僕とキミの部屋ではホームパーティをしている。
そんな空間から抜け出して、オレのあとを追うようにバルコニーに出てきたキミが近づいてきて、笑顔でこう言った。
「なーにしてんのっ?」
「…え?」
「となり…、いい?」
「…あぁ」
そのあと、一瞬の沈黙が、2人を包んだ。
「…で、何してたの?夏になると、よく1人で月見てるよね?」
興味津々に聞いてくる彼女に、僕はこう答えた。
「…あぁ、この時期になると、思い出すんだよ。あまりいい思い出じゃないけどね―」
…そう、彼女にも伝えていない、僕の切ない恋と別れの話を…。
Ⅰ 友達以上、恋人未満。
結論から話してしまえば、彼女はもうこの世にはいない。
亡くなったのは、今、大学生の僕が高校生の時の話だ。
出会いは、幼稚園の時。
いわゆる、幼なじみ。
2才の時、引っ越してきたこの街で、はじめて出来た友達で、家は近いし、なにより偶然とはいえ、僕の父親と彼女の母親が知り合いだったことで仲良くなった。
といっても、記憶はないし、気付いたときにはいつも一緒にいるのが当たり前で、恋愛感情なんて、わいてくるわけもなかった。
そんな関係が変わり始めた、ある出来事から話すことにしよう。
《10年前、僕・彼女ともに12才》
その出来事が起こったのは、夏ではなく、むしろ正反対の真冬、クリスマスのことだった。
この頃には、家族ぐるみでの付き合いがあって、何でか知らないが、このときは、ともに北海道へと旅行へ来ていた。
日本有数の歓楽街、ススキノの近くで夕食を食べて、札幌のホテルに戻る途中、双方の両親が、大通公園でテレビ塔をバックに子ども2人の写真を撮ろうと言い出した。
急に言われ、うろたえる子ども2人を尻目に、
「じゃあ、はい、子ども2人並んで~」
と、プロのカメラマンである彼女の父親が、にっこりとしながらそう指示して、それに沿うように、僕たち2人は並んだ。
「はい、こっち向いて~。はい、チーズ!」
フラッシュが焚かれたと同時に、パシャリと音を立ててシャッターが切られた。
そのフラッシュが焚かれた瞬間、僕はあることに気がついた。
あれ、手、握ってる…?
その一瞬の閃光の中で、彼女は何を思って、僕の手を握ったのか、ついに僕は聞けないままで、彼女と別れてしまった。
でも、その写真を撮ったあと、ある瞬間、2人きりになったその瞬間に、彼女は微かにこう言った。
「…友達以上、恋人未満ならいいよね?」
その瞬間、時計の針が止まった気がした。
…そう言った彼女の唇は、気づけば僕の頬に触れていた。
(つづく)