マークスの山 WOWOWドラマ版感想 | Happy-Gate

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高村薫の直木賞受賞作「マークスの山」の連続ドラマ版。
WOWOWで全5話が放送された。
有料チャンネルのドラマだけあって、かなり踏み込んだ映像表現もあり、そこは評価したいが、反面期待値が高かったせいか、がっかりな部分が目についてしまい残念だった。

「マークスの山」は、過去に崔洋一監督によって映画化されたことがあった。
映画版は、原作小説にかなり寄せていて、全共闘運動の総括的メッセージがあった。
今回のドラマ版では、時代設定が21世紀の現代なので、さすがに全共闘という部分はなくなってしまった。
代わりに入ったのは、中2病的陳腐な陰謀論。
さらに、犯人水沢の犯行目的が、心に巣くう「暗い山」に突き動かされた恐喝ではなく、実の母親を殺した者たちへの復讐になってしまっていた。
このせいで、水沢というキャラクターの不気味さが消えてしまった。
せっかくの「マークスの山」の世界観が一気に安っぽくなってしまった。

ドラマ版は、直木賞受賞作のオリジナルと文庫改訂版を合わせて、脚本ができている。
例えば、オリジナル版では「N大」となっていた大学名が、文庫改訂版では「暁星大学」となっている。ドラマ版では「暁星大学」を使っている。
一方、合田警部補のキャラクターは文庫改訂版のスマートなかっこよさではなく、オリジナル版の組織で浮いているという部分を使っている。
しかし、この設定も、物語後半になると、安っぽい刑事ドラマの熱血タイプになり、7係のギスギスした感じがなくなってしまっていた。

ドラマ版は、学生運動というファクターが抜けてしまったことから、物語の発端となる20年前の事件が、実に陳腐なものになってしまい、重厚さが消えてしまった。
とにかく何でもかんでも「暁星大OB」による権力の私物化というのは、無理がある。
そんなに政官財報とあらゆる所で、圧力をかけられるのなら、元々の犯罪もわざわざ犯す必要など無かった。
原作の切羽詰まったエリートたちの被害妄想で起きた悲劇なら、その後の事件も不気味さを増したのに。
もう一つ、「マークスの山」を始めとする高村薫の一連のシリーズの魅力は、リアリティあふれる、権力の暴力装置としての警察描写なのだが、残念ながら、そこまで踏み込んだ描写はなかった。
せいぜい捜査会議でのギスギスしたやりとりくらいか。
10係の連中の描写は、オリジナル版にもあったが、警官というよりチンピラにしか見えなかった。

さらに最大の見せ場である、水沢を追い詰めていく過程が、原作の詰め将棋のような緊迫感が無く、単に合田の勘で「北岳に上ったんじゃないか?」っていうのは、ご都合主義では?
さらに冬の北岳に軽装で登ったから凍死するという部分が、撮影の都合のせいか、冬山ではなかったので、水沢がなぜ死んだのか納得いかなかった。

だが、ドラマ版オリジナルのエピローグはよかった。
原作では、最後に残り、事件の中心にいたある男だけが、何ともなっていなかった。つまり警察から逃げ切っていた。
文庫改訂版では、その男は少し精神がおかしくなって、したがって逮捕を免れていた。
ドラマ版ではその人物にも、はっきりとした決着が描かれたのはよかった。

「マークスの山」は、確かに猟奇的な殺人事件を扱った作品だが、一方で、全共闘運動をしていた団塊の世代への総括を求める作品だった。
そう言う部分が抜けてしまったドラマ版は、残念な結果になってしまったと思う。
しかし、合田警部補を演じた上川隆也は、歴代同キャラを演じた俳優の中で、一番イメージに近いと思う。
「照柿」「レディジョーカー」とこのキャストで見てみたい。