東京のJR駅のプラットホームで、仕事帰りの付き合い酒で多少酔っぱらった倉田さんという人が、ベンチにかけて、ウツラウツラしていると、不意に
「 オイッ 」って
声をかけられたんで、
(え?)っと、
辺りを見たんですがねぇ。
そこには、携帯でメール送ってる人、向こうじゃ新聞読んでる人、あっちでは、ひとりゴルフのスイングしてる人。それぞれが電車待ちの時間潰しをしていて、どう見ても、自分に声かけたような人物が見当らない。
(・・・・・おかしいなぁ、空耳かなぁ・・・・・)
と思いながら、視線を戻すと
(ん?!)
自分が座ってるベンチのすぐ目の前の、プラットホームのふちを、グッとつかんでる、ふたつの手に気付いた。
(ええっ、何だろう?・・・。ホームの下に人がいる!?)
と思って、見つめていると・・・・、その手と手の間から頭が見えてきて、
ぬぅっっ と男の顔が現れた。
青ざめた無表情な顔でこっちを見ている。
(この人、何をしてるんだろう?)
と思っていると、
ズルッズルズル と這い上がってきた。
あまりにも唐突な事なんで、ただあっけにとられて見ていると、なおも、
ズルッズルズル
と胸の辺りまで這い上がると、片方の腕を伸ばして指先をこっちへ向けて、グーッと突きだしてきた。
どうやら、引っ張り上げてくれという事らしい。でも、突然のことだし、あまりにも異様な状況なもんですからね、どうしていいものかわからない。
すると向こうは、なおもプラットホームのコンクリートの床を ペタン、ペタン と手の平で、こするようにして近寄って来る・・・・。
そして、怨めしそうに、こっちを見た。 目と目が合うと、
「 おい 、頼むよ 」
とつぶやくような声で言った。
「頼むよ」って言われても、頭が混乱してどうしていいかわからない。
周りをフッと見回すと、誰もが変らず時間潰しをしていて、この状況に全く気がついていない。
どうやら、周りの人達には、この男は見えていないらしい。
(そうか、見えてるのは自分だけなのか・・・・。ってことは、この世のもんじゃないのか・・・・?この男は、生きてる人間じゃないんだな)と思った。
その途端、背筋の辺りにゾクッと寒気を感じた。
男がなおも、手を伸ばしてくる。見るともなく視線がいってしまう。青ざめた表情のない顔。
(ううっ、やっぱり気持ち悪いぃぃぃ)
と、思ってるうちに、ホームの端でチカッとライトが光って、下りの電車が、ゴゴーッと音を立ててホームに入ってきた。
男は、グーッと手を伸ばしているんですが、こっちは何もできないし、したくもない。
生きてる人間じゃないんだから、手を握って、引き上げてやったところで、何の意味もないわけだ。
と、見る見るうちに男の青ざめた顔が、 グニヤャッッ と変わっていって怒りの表情を露わにした。
そこへ電車がキィーッとブレーキ音を上げながら通過してゆく。
と、同時に電車とホームの間に、男の姿がフッと消えた。
電車が止まって、扉が開くと、ホームにいた人たちが電車に乗り込んでいく。で、倉田さんも電車に乗ろうと車両に一歩足を踏み入れた瞬間に、男の事が気になって、フッと足元の電車とホームのわずかな隙間を覗いて見た。
すると、真っ暗~な底から、白い手だけが、
おいで・・・・・・・おいで・・・・・・・・していた。
途端に、
(うわっ!!!)と、
声にならない悲鳴を上げて、慌てて、電車に飛び乗った。
自分の後ろで ガタンッ と扉が閉まって、 グゥーーーン・・ とモーター音がして電車がホームを滑り出た。
(あれは何だったんだろう…? それにしても、手をつかまなくて良かったな。引き上げてやろうと思って、もしも手を握った時に、逆にこっちが引っ張り込まれたら、今頃は、オレがこの電車に、轢かれてたかもなぁ・・・・・)
そう思うと、改めて恐怖を感じて、からだ中から、ジワッと汗が噴き出てきた。
(・・・しかし、また嫌なもの見ちゃったな~)と思った。
というのも、倉田さん、実は2ヶ月ほど前にも、飛び込み自殺を偶然に見てしまった。
それも、今日と全く同じプラットホームで。
その時は、自分が立っていたすぐ側に、白いシャツに、紺のジーパン姿で、スニーカーを履いた自分と同じくらいの年恰好の男がいて、そこへ、下りの電車が入ってくると、男がフッと一瞬、倉田さんの方を見た。その時、男と目があった。
その瞬間、男は倉田さんに、何か言いかけたみたいなんですが、男の足は既にホームを蹴っていて、やって来た電車に、白いシャツが飛び込んでいった。
ドンッ と鈍い音がして、
ギギギギーーーーーッ・・・と急ブレーキが、けたたましい悲鳴を上げて、同時に、警笛が鳴り響いた。
(うわぁぁぁぁっ!?)
倉田さんは慌てて目をそむけたんですがね、その飛び込み自殺の瞬間が目に焼きついてしまった。
そんな訳で、その日も、
(何だ・・・また、嫌なもん見ちまったなぁー)と思った。
そんなことがあってから何日か過ぎて、その日は仕事で帰りが遅くなって、終電近い時刻の電車に乗って座席に座って、雑誌を読んでいると、
トントントントントントントン、、、、、、、トントントン、、、
向こうから足音が近づいてきて、やがて自分の前で止まった。
様子からして、男が自分の前に立って、つり革につかまってるんでしょう。
電車の中はガラガラに空いてる。座るところはいくらでもあるのに、つり革につかまって、倉田さんの前に立ってる。
(こんなにすいてるのに、何でわざわざ自分の前に立ってんのかなぁ・・・? おかしなやつだなぁ)
と思いながら、雑誌から目をそらして見るともなく視線をやると、目の前に、紺のジーパンにスニーカーの足が立っていた。
(あれっー?この足、何処かで見覚えがあるなぁ・・・?)
と思ってると、不意に頭の上で、
「 よう。 しばらく 」
と声がしたんで、目を上げた途端、
(うわわわわっ!?)
と一瞬、息が止まった。
その顔、青ざめた無表情な顔が自分を見下ろしている。
・・・・この顔、この間、ホームに這い上がってきた、あの男だ!
(え?ということは、これ、2ヶ月前に、自分と、一瞬目があって、そのまま電車に飛び込んだ、あの飛び込み自殺の男が、この男だったのか!)
と思った瞬間、倉田さんの全身が、凍りついた。
男が顔を、グーーーーーーっと近づけてきた。倉田さんはジーッとしたまま動けないでいると、
「おい、 俺だよ、池本だよ」と言った。
(え? イケモト?イケモト、イケモト・・・待てよ・・・)
中学時代に、そんな名前の同級生がいたのを思い出した。
(イケモト・・・・えっあっっ?!)と思った瞬間、倉田さんの頭の中が、真っ白になった。
・・・・体がガタンと揺れて、フッと意識が戻った。電車がちょうど、ホームへ入ったところでスーッと停止した。
扉が開いて・・・・
(あれ?!)
見ると、もう、池本という男の姿、なかったそうです。
気がつくと倉田さんは、雑誌を持ったまま、眠っていたらしい。それにしても、この出来事がどうにも気になったもんですから、2、3日して、中学時代からの友達に電話をかけてこの話をすると、その友達が、
『あぁ、池本なぁ、あいつ、、、、、、、、、、、最近死んだらしいぞ。それも、、、、、、、、、、自殺だってさぁ』という返事がかえってきた。
ねえ、あるんですねこんなことも。不思議ですよ。
「 オイッ 」って
声をかけられたんで、
(え?)っと、
辺りを見たんですがねぇ。
そこには、携帯でメール送ってる人、向こうじゃ新聞読んでる人、あっちでは、ひとりゴルフのスイングしてる人。それぞれが電車待ちの時間潰しをしていて、どう見ても、自分に声かけたような人物が見当らない。
(・・・・・おかしいなぁ、空耳かなぁ・・・・・)
と思いながら、視線を戻すと
(ん?!)
自分が座ってるベンチのすぐ目の前の、プラットホームのふちを、グッとつかんでる、ふたつの手に気付いた。
(ええっ、何だろう?・・・。ホームの下に人がいる!?)
と思って、見つめていると・・・・、その手と手の間から頭が見えてきて、
ぬぅっっ と男の顔が現れた。
青ざめた無表情な顔でこっちを見ている。
(この人、何をしてるんだろう?)
と思っていると、
ズルッズルズル と這い上がってきた。
あまりにも唐突な事なんで、ただあっけにとられて見ていると、なおも、
ズルッズルズル
と胸の辺りまで這い上がると、片方の腕を伸ばして指先をこっちへ向けて、グーッと突きだしてきた。
どうやら、引っ張り上げてくれという事らしい。でも、突然のことだし、あまりにも異様な状況なもんですからね、どうしていいものかわからない。
すると向こうは、なおもプラットホームのコンクリートの床を ペタン、ペタン と手の平で、こするようにして近寄って来る・・・・。
そして、怨めしそうに、こっちを見た。 目と目が合うと、
「 おい 、頼むよ 」
とつぶやくような声で言った。
「頼むよ」って言われても、頭が混乱してどうしていいかわからない。
周りをフッと見回すと、誰もが変らず時間潰しをしていて、この状況に全く気がついていない。
どうやら、周りの人達には、この男は見えていないらしい。
(そうか、見えてるのは自分だけなのか・・・・。ってことは、この世のもんじゃないのか・・・・?この男は、生きてる人間じゃないんだな)と思った。
その途端、背筋の辺りにゾクッと寒気を感じた。
男がなおも、手を伸ばしてくる。見るともなく視線がいってしまう。青ざめた表情のない顔。
(ううっ、やっぱり気持ち悪いぃぃぃ)
と、思ってるうちに、ホームの端でチカッとライトが光って、下りの電車が、ゴゴーッと音を立ててホームに入ってきた。
男は、グーッと手を伸ばしているんですが、こっちは何もできないし、したくもない。
生きてる人間じゃないんだから、手を握って、引き上げてやったところで、何の意味もないわけだ。
と、見る見るうちに男の青ざめた顔が、 グニヤャッッ と変わっていって怒りの表情を露わにした。
そこへ電車がキィーッとブレーキ音を上げながら通過してゆく。
と、同時に電車とホームの間に、男の姿がフッと消えた。
電車が止まって、扉が開くと、ホームにいた人たちが電車に乗り込んでいく。で、倉田さんも電車に乗ろうと車両に一歩足を踏み入れた瞬間に、男の事が気になって、フッと足元の電車とホームのわずかな隙間を覗いて見た。
すると、真っ暗~な底から、白い手だけが、
おいで・・・・・・・おいで・・・・・・・・していた。
途端に、
(うわっ!!!)と、
声にならない悲鳴を上げて、慌てて、電車に飛び乗った。
自分の後ろで ガタンッ と扉が閉まって、 グゥーーーン・・ とモーター音がして電車がホームを滑り出た。
(あれは何だったんだろう…? それにしても、手をつかまなくて良かったな。引き上げてやろうと思って、もしも手を握った時に、逆にこっちが引っ張り込まれたら、今頃は、オレがこの電車に、轢かれてたかもなぁ・・・・・)
そう思うと、改めて恐怖を感じて、からだ中から、ジワッと汗が噴き出てきた。
(・・・しかし、また嫌なもの見ちゃったな~)と思った。
というのも、倉田さん、実は2ヶ月ほど前にも、飛び込み自殺を偶然に見てしまった。
それも、今日と全く同じプラットホームで。
その時は、自分が立っていたすぐ側に、白いシャツに、紺のジーパン姿で、スニーカーを履いた自分と同じくらいの年恰好の男がいて、そこへ、下りの電車が入ってくると、男がフッと一瞬、倉田さんの方を見た。その時、男と目があった。
その瞬間、男は倉田さんに、何か言いかけたみたいなんですが、男の足は既にホームを蹴っていて、やって来た電車に、白いシャツが飛び込んでいった。
ドンッ と鈍い音がして、
ギギギギーーーーーッ・・・と急ブレーキが、けたたましい悲鳴を上げて、同時に、警笛が鳴り響いた。
(うわぁぁぁぁっ!?)
倉田さんは慌てて目をそむけたんですがね、その飛び込み自殺の瞬間が目に焼きついてしまった。
そんな訳で、その日も、
(何だ・・・また、嫌なもん見ちまったなぁー)と思った。
そんなことがあってから何日か過ぎて、その日は仕事で帰りが遅くなって、終電近い時刻の電車に乗って座席に座って、雑誌を読んでいると、
トントントントントントントン、、、、、、、トントントン、、、
向こうから足音が近づいてきて、やがて自分の前で止まった。
様子からして、男が自分の前に立って、つり革につかまってるんでしょう。
電車の中はガラガラに空いてる。座るところはいくらでもあるのに、つり革につかまって、倉田さんの前に立ってる。
(こんなにすいてるのに、何でわざわざ自分の前に立ってんのかなぁ・・・? おかしなやつだなぁ)
と思いながら、雑誌から目をそらして見るともなく視線をやると、目の前に、紺のジーパンにスニーカーの足が立っていた。
(あれっー?この足、何処かで見覚えがあるなぁ・・・?)
と思ってると、不意に頭の上で、
「 よう。 しばらく 」
と声がしたんで、目を上げた途端、
(うわわわわっ!?)
と一瞬、息が止まった。
その顔、青ざめた無表情な顔が自分を見下ろしている。
・・・・この顔、この間、ホームに這い上がってきた、あの男だ!
(え?ということは、これ、2ヶ月前に、自分と、一瞬目があって、そのまま電車に飛び込んだ、あの飛び込み自殺の男が、この男だったのか!)
と思った瞬間、倉田さんの全身が、凍りついた。
男が顔を、グーーーーーーっと近づけてきた。倉田さんはジーッとしたまま動けないでいると、
「おい、 俺だよ、池本だよ」と言った。
(え? イケモト?イケモト、イケモト・・・待てよ・・・)
中学時代に、そんな名前の同級生がいたのを思い出した。
(イケモト・・・・えっあっっ?!)と思った瞬間、倉田さんの頭の中が、真っ白になった。
・・・・体がガタンと揺れて、フッと意識が戻った。電車がちょうど、ホームへ入ったところでスーッと停止した。
扉が開いて・・・・
(あれ?!)
見ると、もう、池本という男の姿、なかったそうです。
気がつくと倉田さんは、雑誌を持ったまま、眠っていたらしい。それにしても、この出来事がどうにも気になったもんですから、2、3日して、中学時代からの友達に電話をかけてこの話をすると、その友達が、
『あぁ、池本なぁ、あいつ、、、、、、、、、、、最近死んだらしいぞ。それも、、、、、、、、、、自殺だってさぁ』という返事がかえってきた。
ねえ、あるんですねこんなことも。不思議ですよ。