稲川淳二つぶやき怪談 第二弾  | Happy-Gate

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半径5mのライフログです。

 廃墟になっているラブホテルに、幽霊が本当に出るといううわさを聞いて、仮にA君、B君、C君としましょうか、三人の高校生が、興味本位の好奇心から、面白半分でやってきた。
 そこは町中から少し離れた、雑木林の中にある建物。
夜の闇にとけ込むようにして、雑木林を背景に、2階建ての横に長い建物の輪郭が見えた。
 この建物の2階、一番奥の部屋で、首つりの死体が発見されて、その部屋に幽霊が出るという。
A君が持って来た懐中電灯の明かりを頼りに、3人が建物に近付いて行くと、玄関口の、ドアが開いたままになっていた。
 懐中電灯の明かりを中に向けると、そこはロビーで、壁際に型の古い清涼飲料水の自動販売機が置いてある。あちこち錆び付いていて壊れているのがひと目でわかった。
 床にはたくさんの空き缶が転がっている。
 肝試しに来た連中が持ってきた缶に違いない。

 A君が、
「おい、今おれ、思いついたんだけどさあ。ここでひとりずつ恐い話をしてさ、この空き缶を持って、2階の一番奥の部屋へ行って、置いてくるというのはどうだ」
と言った。
 B君もC君も、「面白いなァ」、「やってみようぜ」という話になった。
 言い出したのはA君だったから、A君がまず最初に恐い話をしたわけだ。
「じゃあ、おれ、この缶だぞ」
と空き缶を1つ掴んで見せた。
 そして、もう片方の手に、懐中電灯を握ると、ロビーの奥の階段を上がって行った。

 ギーギーギーギー

 階段がきしむ音がした。
 2階へ着くと、真っ暗。本当の真の闇。辺りは、シーンとしていた。
 明かりを向けると、暗い通路が奥へのびていた。

 トントントントン

 自分の靴音が、闇の中へ吸い込まれていく。

「うっ!」
A君が立ち止った。

 自分の靴音に重なって、同じ歩調で足音がついて来ている。
 息を殺すと、後ろにだれかがいる気配がする。

(いる~ぅ~  だれかいるぅ)

 ジワッと冷たい汗がふき出して、背筋をつたって流れ落ちてゆく。
 恐怖心をおさえて、ゆっくりと後ろを振り向いて見ると、そこは黒一色の闇だった。
 そのとき初めて、自分が真っ暗な闇の中で、たったひとりなんだと気がついた。
 懐中電灯の明かりは、前方を照らしているんで、気がつかないんですよね。前のほうは明るいから。でも自分の後ろは真っ暗なんですよねぇ。

(いやだなぁ)と思った。
 通路を進んでいくと、幾つかの部屋の前を通る。
 どの部屋もみんなドアが開いたままか、壊されてなくなっているかして、真っ暗な室内がのぞいている。
 そこになにかが潜んでいて、今にも、ワッと飛び出て来るんじゃないかと思えて恐いんです。

 そうするうちに、懐中電灯の明かりの中に、一番奥の部屋のドアが照らし出された。
 ドアには、吹きつけの黒いラッカーで

「この部屋はやめろ」
と書いてあった。

 あれ?考えてみたら、ほかの部屋は、みんな入り口が開いているのに、このドアだけは閉まっている。
ノブをつかんで回すと、ゆっくりと手前に引いた。

 ギイィィーー

 かすれた音を立てて、開いてゆく。
懐中電灯の明かりを室内に向けると、床一面、ほこりに覆われていて、その片隅に、汚れたマットレスが、1つ、無造作に置いてあるのが見えた。
 一歩、二歩、三歩、A君が入って行くと

「うぅわぁっ!」

 ヒヤッと、冷たい物が首のあたりに当たったんで、声を上げた。

 明かりを向けて見ると、天井の一部が剥がれ落ちて、そこからぶらーんと、電気のコードが垂れ下がっていて、そのコードの先が、まるで首つりの輪のように、丸く結んである。    
 危なくそれに首を引っかけるところだったんで、ハッとした。
 
 首をつって、ぶら下がっている死体が、ふーっと、脳裏を横切った。

(そうだーーーーーー!、この部屋で人が首つって死んでたんだ!!)

 と思い出して、途端に、逃げ出したくなった。でも、逃げるのも恐い。
 向こうにドアが見える。
 近付いて行って、開けると、そこは浴室だった。明かりを中に向けて、奥の方から照らしてゆくと、浴槽があって、タイルの壁があって、チカッと光が反射した。

 懐中電灯の明かりが、洗面台の鏡に反射したんですが、明かりが反射した瞬間、鏡の中から見ている顔があったような気がした。

(ーーーーーーッ!?)

 何か、いそうな気がするんです。

 洗面台の下にカウンターがあるんで、そこへ空き缶を置いて、部屋を飛び出すと、暗い通路を戻った。階段をギー、ギー、ギー、ギー、ギー、と音を立てながら、下りてくると、

 暗いロビーの片隅で、B君とC君のふたりが、床に腰を下ろして、壁にもたれて、A君の帰りを待っていた。

「おい、行って来たぞ。一番奥の部屋のな、浴室の洗面台のカウンターに置いてきたよ」
と言うと、B君が、
「わかった、じゃ、今度はおれだな」
と言って、恐い話をした。
 で、空き缶を1つ拾って、
「おれは、これだからな」
とふたりに見せると、懐中電灯を持って、ロビーの奥の階段に、消えていった。

 B君が暗い通路を通って、奥の部屋にやってきて、ドアを開けると、ほこりを被った床に、A君のものと思われる靴跡があって、その先に浴室のドアが見えたんで、入って行って、そのドアを開けて、中に明かりを向けた。

(あれ?)

洗面台のカウンターに、空き缶が2つ並んで置いてある。

(あいつ、1つって言わなかったかな?2つ置いたのか)
と思って、自分はその横へ、持ってきた空き缶を1つ置いて、すぐに部屋を飛び出した。  
 そしてまた、暗い通路を通って、階段をギー、ギー、ギー、ギーと下りてくると、A君とC君が暗いロビーで待っていた。

 B君は、
「置いてきたよ」
と言って、A君に
「おまえ、空き缶2つ置いてきたのか?」
と聞くと、A君が
「えぇ?」
と不思議そうな顔をした。

「空き缶2つあったぞ」
と言うと、
「おれは、1つしか置いてきてないよ」
と答えた。
「おかしいな、おれが行ったら、カウンターの上に空き缶が2つ置いてあったから、おれ、その横へ置いてきたよ」
と言った。
 するとA君が、
「あっ、おまえ、おれを驚かそうと思って、話をつくってるだろう?」
と言ったんで、B君が、
「いや、本当に2つあったよ」
と言い返した。

 A君とB君がやりあってると、C君が、
「おい、やめろよ」
とふたりを制した。
 彼にしてみればね、これから自分が行く訳ですから、そんな気味の悪い話は聞きたくない。

 そして、今度はC君が恐い話をして、
「じゃあ、おれは、これだからな」
と、空き缶を持って、また奥の階段に消えていった。

 C君が、一番奥の部屋へ行って、ドアを開けて中へ入る。
 そして、浴室のドアを開けて、明かりを向けると、洗面台のカウンターに、空き缶が4つ置いてあった。
「あれ!?4つある」
 B君の話では、2つ置いてあったところへ、自分の空き缶を1つ置いてきたと言ってたから、空き缶は3つのはずなのに!?
(そうじゃなかったんだなあ)
と思って、4つ置いてある空き缶の横に、自分の空き缶を1つ置いて部屋を出ると、また暗い通路を通って、階段をおりてきて、ふたりのところへ戻ってきた。
「おい、空き缶4つあったぞ」と言った。
 B君は、
「そんなはずはないよ、おれは2つあるところに1個置いたんだから、3つだ」
と言った。
 C君は、
「いや、今、行ったら4つあったから、その横におれの空き缶を置いてきたよ」
と言った。
 すると、聞いていたA君が、
「じゃあ、今、空き缶は5つあるわけだな」「ああ、そうだと思うよ」
とC君が言うと
「だよな、じゃあ、見に行ってみようか?」と言った。
 三人が、階段を上がって、2階の暗い通路をずうっと行って、奥の部屋のドアを開けて中へ入った。
 そして、浴室のドアを開けて、明かりを洗面台のカウンターへ向けると、みんな、

「ううっ!」          

と、声を上げた。

 なんと空き缶が、6つあるんですよ。

 C君、びっくりして。
「おれは1つしか置かなかったぞ!」
と言った。

 本当に、1つしか置かなかったわけだから、本気で驚いたわけだ。
 
 A君は一番最初に置いてきたので、そのへんのところはわからないから、もしかするとB君とC君が仕組んだいたずらじゃないだろうか、とも思った。
 B君としては、A君C君が自分をからかって嘘をついているのかも知れない、と思った。

 A君が、
「なあ、だれか隠れてるんじゃないのか、で、おれらをからかってるんじゃないのか?」
と言って、楽しそうな顔でふたりを見ると、
「空き缶は、ひとりが、1つずつ持ってくるわけだろ?ということは、ひとりが、1つということは、向こうも三人いるってことになるよなあ」
とふざけて言ったら、C君がまじめに
「ああ、そういうことになるよな」
と答えると、
「ちょっと待ってくれよ」
と言って、A君が部屋を飛び出して行った。
で、しばらくすると空き缶をいっぱい両手に抱えて、持ってきて、床にパラパラとばらまいて、
「あんたたち、いったい何人いるか知らないけど、人数分だけ、このカウンターの上に並べてみてくれる?」
と言って、B君、C君を促して部屋を出た。

 1階のロビーへ戻って、で、じーっと様子をうかがったんですが、人の気配もなければ音もしない。

 しばらくして
「行ってみようか」
とA君が言ったので、
「じゃあ、行ってみようか」
と三人でまた2階へ上がった。

 一番奥の部屋へ行って、ドアを開けて、明かりを向けると、別にさっきと変わった様子はない。
(ああ、さっきと変わらないなあ)
そう思いながら、浴室のドアを開けて、懐中電灯の明かりを、洗面台の、カウンターの上に向けた瞬間、

「ああぁぁぁあぁぁーー!」

 三人が声を上げた。
 なんとカウンターの上には、びっしりと空き缶が並んでいた。

A君が、
「おい、これ、どういうことだ?」
と言うと、
C君が、
「なあ、今、この建物の中にいるの、おれたちだけだよな」
と言ったんです。

いったい、そのとき、そこには何人いたんでしょうね。