雨雲が山の稜線に当たり、木々に触れると、大きな雨粒となって、セレナの屋根をならす。
視界は極端に悪い。ヘッドライトが乱反射して、何とも幻想的な世界になっていく。
細い山道、それでもちゃんと舗装がなされており、県道70号線という名称もある。
いつものグロリアではなく、この日は、セレナでこの道に入った。走り慣れた道でも、違う車だと、まるで初めての道のような緊張感がある。
何十回目のカーブを過ぎて、道幅が広くなり、直線の道に出た。
もうすぐ峠だ。そう思ったとき、前方に犬が現れた。山小屋かそれともレジャーか何かで飼い犬を連れてきたのか?どっちにしても迷惑な話で、その犬は道の真ん中を、ノコノコっと歩いていた。
セレナが近づくと、真ん中で立ち止まり、車を振り返った。そして、車をジロジロ眺めている。何かを確認するかのような仕草をした。
しばらくすると、運転席側のドアに近づいてきた。人間になれているようだが、首輪をしていなかった。
野良犬か、捨て犬か。何とも悲しい目をして、私を見つめいた。
結局、私は何もしないまま、その場を過ぎた。
バックミラーを観ると、その犬はセレナを追って走っていた。
私は、後ろめたい気分になってしまった。どうすれば良かったのか?拾って保護するべきだったのか?あの犬があの後無事でいられたのか、それがベストだったのか。
峠道を下る中、私は出せない答えを、霧の中に求めていた。