三つ子のキャットシットワンの超高金利書評録-41CtSY4cxsL_SL500_AA300_.JPG


三つ子的評価 ☆☆☆☆+☆×0.5(☆4.5コ)

【書評】金融帝国としてのイギリス

傑作である 良作である さあ今すぐ本屋さんへ!

では本編
世界に数々の世界帝国はあった
「中東世界の」アッシリア、「地中海世界の」ローマ、「ユーラシア世界の」モンゴル帝国 等だ
だが イギリスは正しく「世界帝国」である
ローマの影響力は地中海世界を越えず、モンゴルすらユーラシアとその周辺に限られている
が、大英帝国の影響は帝国内に留まらず 日本や中国 アルゼンチンにまで及ぶ(非公式帝国)
そう イギリスこそ(オランダを除けば)世界で初めての「世界帝国」であった

では何かかく
昨今「人民元が新たな基軸通貨となるか」と 中国の発展に合わせて語る人々がいる
或いは「日本こそは」とも
だが現時点では否定的にならざるえない
何故なら世界的な流動性がないからだ
アメリカは 貿易赤字の形でドルを世界にばらまく
世界中でドルが溢れ ドルが使われ ドルの利便性が高まり ドルの価値が上がる
矛盾だが アメリカドルは大量の貿易赤字を抱えるからこそ基軸通貨足り得る(トリフィンのジレンマ)
逆に経常黒字国の日本や中国の通貨は世界に流出することは少なく、故に流動性が乏しい
さてイギリス
実は19世紀後半よりイギリスは慢性的な貿易赤字国であった
これはアメリカやドイツの工業力発展や農作物の輸入拡大、自国が自由貿易を貫くのに他国は保護貿易をするというアンバランスさに由来する
が、それがイギリスの発展を支えた
イギリスが各国に貿易赤字という債務を抱える事は 各国はイギリスに対し貿易黒字という債権を抱える事になる
問題は その債権を何処に置いていたか、という事だ
基軸通貨国たるイギリスに置いていた
これは例えば 貿易黒字を自国に送金するより 金融の中心であるイギリスに置いた方が迅速な決算が可能だからだ(例えば日本のA社がアメリカB社に送金する時、船で札束を輸送するより、ロンドンにあるA社の口座からB社の口座に移し替えた方が、スピード面や安全性で遥かに優れている)
イギリスはその債権をインドなど植民地に投資する
インドではその投資でプランテーションや鉱山 それらを輸送する鉄道や港を整備する
そして その産品を世界に対して輸出する訳だ
例えば日本の近代化を支えた綿産業の原料たる綿花は インドで作られ インドの鉄道や港で運ばれている
そしてイギリスは「投資からの配当」という形でインドが輸出した利益を吸収する
その利益で貿易赤字を埋め合わせる訳やね
つまりグローバル化による 世界のモノやカネの流れ、それを抑える事でイギリスは発展した訳だ
結果的に自国の産業を犠牲にしている訳なんだが

さてこの流れ(世界システム)、重要なのが「世界中の物流や情報が円滑に流れる事」である
故にイギリスは投資をした
軍隊を世界中に張り巡らせ 港湾を整備し、世界に電信網を張り巡らせた
仮に現代のグローバル化がインターネットによるモノとすれば 当時は電信網と港湾、鉄道によるといえようか
そう、実は当時からして既にグローバル化は進んでいたのだ(例えば20世紀頭の貿易額/GDP比は現代より高い)
大英帝国は多大な出費をしつつ世界システムからの利潤を享受していた訳だ
そして この「国際公共財」のフリーライダー達も沢山いた
日本もその1人、パックスブリタニカの下に貿易と近代化を加速させた訳だ
これは今日 最も「次の覇権国家」に近い中国についても言える
中国の発展は多額の投資と貿易に由来する
その前提は「アメリカに因る平和」である、仮にアチコチ海賊まみれなら貿易は増えず中国も発展出来ないだろう

だが破局は突然訪れる(いや下地はあるが)
2度の大戦でイギリスはその金融力を失う事になる
インドから多額の戦費協力(という名の搾取)をした結果 インドがイギリスに対して多額の債権を持つようになった
つまり インドからの配当が見込めない訳だ
さらにアメリカに多額の債務を負った結果 債務返済の為対米輸出を拡大させざる得ず、植民地向けの輸出を減らさざる得ない
だが植民地には産品増産を訴える、アメリカに輸出して、代金を金融の中心たるイギリスへ入金させる狙いだ
だが 植民地は反発、「イギリス抜きでの世界との取引」を企てる訳だ

世界システムの変革によりイギリスが鞘を抜ける(覇権)体制が崩壊した訳やね
そして「国際公共財」たる 軍隊やインフラ維持コストが重くのしかかる

現在 イギリスは再び金融立国を指向する
イギリスのGDPは日本の半分以下だが 通貨取引におけるポンド取扱は日本円を上回る、ロンドン証券取引所の商いと東証も同じ
相変わらず短期金利の国際指標はLIBORだ

だがそれはアメリカの提供する「国際公共財」によりかかる形になっている
例えばアメリカの中東戦略の要たるディアゴガルシエ島はイギリス領であり イギリスが作ったシンガポールの港湾にはアメリカ海軍がよく利用する

今 世界は急激に変化しつつある
アジアへの力の移動が起きている以上 かつてのイギリスのようにアメリカ そして日本も何等かのリアクションを要求されるだろう(最たるモノがTPP)