何かに憑りつかれたのか、憑りつかれたかのように振舞っていたのかは定かではないが、おばあちゃんに言われた言葉がアタシに圧し掛かり離れない。
アタシが悪い。アタシが全部悪い。アタシのせいで赤ちゃんが出来ないのだ。そう思うと、居ても立っても居られなくなる。
「アタシのせいで子ども出来へんみたいやから別れよう」
「子ども産めない嫁に用事ないやろ」
「子ども産まなあかんのやったら、お役に立たれへんみたいやわ」
仕事で疲れて帰ってきたと思われる夫に対して、こんな言葉を浴びせる。何とか言えよ……。何とかしてくれよ……。荒んだ心を持つ自分に嫌気がさす。感情の行き場が見つからず、家を飛び出し土手を全力で走る。嫌だ、嫌だ、嫌だ。こんなところ嫌だ。どこかへ行きたい。
このままではアタシの精神も結婚生活も破たんすると思ったのだろうか。アタシをなだめすかすことしかしなかった夫が、ようやく姑に物申すと言ってくれた。「子どもについてはタイミングやから口出しするな!金輪際、子どものことは言わんといてくれ!」と言ったらしい。舅は「それでええ、それでええ」というスタンスのようだ。アタシはその場に居なかったので、いずれも確かではない。
働きに出よう。この家に一日中籠っていては、気が狂いそうだ。
就職先はすぐに決まったが、アタシは自らの口で姑に告げることが億劫で、夫に伝言してもらった。
陽射しが暖かくなってきた。洗濯物を干すときに季節を感じるものだ。姑が草木に水を撒く時間帯だ。案の定、姑に声をかけられる。
「仕事始めるんやてな。ええわして~、環境変わったら子ども出来やすいって言うし。」
「そうなんや。できたらええけどなあ……」
ヘルメットを被り、通勤用に購入した原付バイクにまたがる。
「まだ言うか……」
心と裏腹に青く晴れ渡る空を睨み、キーを回す。