復讐③「有無を言わさぬ」 | 融通無碍(ゆうずうむげ)

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自由に無邪気にのびのびと。
死ぬまで学び続けたい。
モットーは「良い悪いではなく好きか嫌いかで選ぶ」
そんな人生ありのままを綴ります。

家(うち)は母子家庭。母は度々体調を崩す。生活保護を受給することを拒否してきたこともあり、生活していくことは苦しい状況が続いている。

いっぽう彼の育った家庭は、サラリーマン家庭とはいえ堅実にお金を貯めてきたらしい。見た感じ、何より世間体を大事にする家庭、という印象だ。

 

結婚するにあたっての一抹の不安のひとつに、結婚式にどこまでお金をかけるか、かけられるのか、ということが挙げられる。そこそこ対応できるように、ボーナスには手を付けずに貯金してきた。母が調達してくれたことにしようと心に決めた。母に恥をかかせるわけにはいかない。

 

「うちは母子家庭やし、親戚も呼べない状況で。資金的にもあまり余裕がないし。住んでるところも粗末なアパートなんで、結納とかも、あの、置くところとかないんで……」

アタシは何度も彼の母親に告げた。

「うちがほとんど出すさかい、お金の心配なんかせんでもええわして」

彼の母親は聴く耳を持たない。まいったな。彼がアタシの意向をきっちり伝えてくれることを期待するしかないか。

 

期待はすぐに裏切られる。彼の母親の最初の攻撃は結納という形でやってくる。

結納とは何をするものなのか。何をしなければならないものなのか。さっぱりわからない。“長男の結婚”と言う名の土俵に上がった彼の母親は一気に攻めてくる。

「長男の結婚なんやから次男の時より質素にするわけにいかなして」

世間体とは、そういうものなのだろうか。反論の余地などないような気がする。

 

「仲人……あの子らんときはお姉さんとこに頼んだけど、おまんらどうすんの。社内結婚やったら普通は社長夫婦に頼むんやけどな。社長の家どこよ。皆で挨拶行かんなんさかいよ。なおちゃん、着物着るか?なおちゃん着るんやったら私も着なあかんやろ。どうすら?」

 

すべての質問を覚えるだけでせいいっぱい。即答などできるはずもない。

あの子ら、とは彼の弟夫婦のことだ。「普通は」と言われたら、そうするしかないように聞こえる。皆で?まさかウチの母親も行かなければならないのか。着物?着物なんか持ってないし。借りるとなったらまた出費やん。一体幾らかかるんやろ。雑巾を絞るにみたいに、誰かにアタシの胃を絞られているのを感じる。

 

彼の母親は攻撃の手を緩める気など毛頭ない。アタシにはそう見えた。

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