以前も書いたことがある気がするが、チャンドラーのハードボイルド小説の中に出てくる、「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きている価値がない」という科白が、ずっと好きだった。今もこの科白は好きだが、とらえ方が少し変わってきた。

強さと優しさは相反するもので、だからこそ両方を持って生きていくのは難しいのだ――若い頃は、このように解釈していた。

今は違う。強さと優しさは相反するものではなく、コインの裏表のようなもので、どちらかが欠けては成立しないものだと思う。弱い人間は優しくなれないし、優しくない人間を強いとは言えない。