人と自分を比べるな、という言説が近ごろ人気らしい。自分らしく生きろ、とつながるわけだ。これは正しい面とそうでない部分があると思う。つまり、比べるべきものと、そうでないものがある。
人と比べるべきでないのは、幸福の度合いである。たとえば「同期のあいつのほうが年収が高くて幸せそうだ」とか、「あの芸能人はあんな美人と結婚してうらやましい。それにひきかえおれは……」とか、「どうしてあたしはあの子みたいに綺麗に生まれなかったんだろう」とか、人間なら誰しもコンプレックスはあるものだ。しかし、他人と比べている限り、永遠に満足することはないし、嫉妬の気持ちも消えることはない。実際に現在の自分が憧れている境遇に立ったとしても、そのときにはまた別の不満が生まれて、「あの人の方がもっと幸せそうだ」となるに決まっている。幸福というのは全く個人的な感情の話なので、「人は人、自分は自分」と考えるべきなのだ。
逆に、「人は人、自分は自分」と考えてはならない場面もある。端的に言えば「仕事」に関する場面だ。「自分の仕事ぶりが人と比べて劣っているかどうかなんて興味がない。自分なりにがんばっているからもうそれでいい、比べても仕方ない」なんて考えていたら、いつまでたっても能力が高まるはずがない。仕事の場において自分がどの程度の価値を持っているかは、人と比べなければ決してわからないはずだ。同僚と、上司と、あるいは別の会社や業界で働いているビジネスマンと。
必ずしも、能力が低いのが悪い、と言っているわけではない。人それぞれ持っている資質は違うのだから、いくら頑張っても勝てないこともある。しかし、人と比べて初めて自分の欠点もわかるものだし、欠点がわかれば、それを補強する、あるいは何か別の面で自分の良さを発揮して勝負する、といった対策をとることができる。「自分はどうしても鈍くさくて、仕事のスキルは低い。でも、そのぶんみんなが喜んでくれるよう全力で職場の雰囲気をよくしよう」という方向で生き残るのだって、悪くないではないか。
残念なことに、多くの場合僕らはこの「比べるべきもの」と「比べるべきでないもの」を逆にしてしまっているようだ。