世の中には善人と悪人というものがいて、悪人が善人に害を及ぼす、ということになっている。でも、実は必ずしもそうとは限らない、とわかってきた。
第一に、悪人と善人とを明確にわけることなんてできない。夏目漱石も『こころ』の中で、「鋳型に入れたような悪人は世の中にいるはずがありませんよ。平生はみんな善人なんです。少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざという間際に、急に悪人に変わるんだから恐ろしいのです」と書いているとおりだ。
ならば、どういう人が人を傷つけるのかといえば、それは「弱い人」だと思う。心身ともに健全で強い人は、むやみに人を傷つけたりしない。心身が強く、なおかつ他者を積極的に傷つけようと目論む人は、これこそ本物の悪人だが、そういう人はあまり多くないんじゃないか。
むしろ、基本的には善良だけれど、心が弱くて流されやすいという人が、一番こわい。特にそういう人が何かの拍子に強い立場に立ってしまうと、周囲にいる人は多大な迷惑をこうむることになる。ちょっとワルいけど強い自制心を持った人のほうが、実はよっぽどたちがいい。
少なくとも、これまでに多少なりとも僕を傷つけたことがある人は、いずれも強い人ではなく、むしろ普通より弱いと思われる人ばかりだった。仕事の場でも、友だち関係でも、あるいは恋愛でも、例外はない。僕は人間とは基本的に弱いものだと思っているが、つきあうならなるべく強い人、強くあろうとする人がいいとも思う。